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異世界で生きよう。  作者: 579
2.彼はこうして異世界で育つ。
20/159

19.彼は急ぐ。

 リンズさんが訪れてからしばらく経つが、討伐隊による退治報告もなければ魔物の目撃情報もない。

 かといって被害が収まったわけではなく、各地で被害者が出ているようだ。


 そんなある日の夕食時、母は俺に告げた。


「セイくん、そろそろ狩りに行かないと食料がなくなっちゃうから、明日森に行ってくるわね。」


 そう、俺たちは森に入らず以前獲った獲物や木の実で生活をしていたのだが、こうも長引いてはさすがに限界が来る。


「セイくんは家で大人しくお留守番しておいてもらいたいんだけど、いいかしら。」

「もちろんだよ。」

「あぁ、良かったわ。今大人たちは皆子供を森に行かせないようにしているんだけど、どうも一緒に森に行くんだって言って聞かない子も多いみたいで心配していたのよ。セイくんが聞き分けの良い子で安心ね。」


 彼女はそう言って笑顔を浮かべるが、なにせこちらは前世で高校生だったのだ。

 さすがに駄々をこねて、ついていきたいなどと言うわけがない。


 ところで、もちろんというのはロンが餅を食べるということだっただろうか。

 ぜひともロンには喉に餅を詰まらせないよう注意してもらいたいところだ。

 

●●●●●


 翌日、普段持たないはずの武器を携えて、母は森へと出発した。

 俺は手を振りながらそれを見届けた後、自室へと戻りとある木の実の粉末を取り出す。


 これは薬草関連に詳しいマルガリンさんから教わったものの一つで、身体に付けると体臭を薄めてくれるものだ。

 それを身体中に付けると、家を飛び出して母の後を追う。

 それからしばらくして彼女の姿を発見した後は、距離を置いて彼女を尾行し始めた。


 やはり前世で高校生だった身としては、駄々をこねるなんて真似はせずに、静かに尾行するワンステップ上の選択肢を選んでしまう。

 前世が大学生だったならば、ぐっと堪えて家で待つという選択が出来たと思うのだが、大人と子供の境目とも言える高校生とあっては仕方がないだろう。


 母が森へと入っていったため俺も躊躇なく中へと入っていく。

 森の中では魔物以前に動物もまた脅威となるのだが、今日の俺は体臭を消しているため彼らに気付かれにくい。

 つまり、体臭を消すことは母に尾行を気付かれないという効果と、動物に気付かれないという二重の効果を持つわけだ。


 その後もしばらく母の後を追っていたのだが、突如として彼女は走り出した。

 どうやら、無事に獲物を発見したようだ。


 俺も見失わないように歩を早めるが、一瞬彼女の姿が見えなくなったかと思うとそのまま姿を見失ってしまう。

 それと同時に、俺の後方で突如として気配が現れる。

 

 まさか魔物かと思いスキルを発動しながら振り返ると、そこにいたのは腕を組んで怖い笑顔を浮かべた母だった。


「・・・奇遇だね、母さん。まさかこんな所で会うなんて思わなかったよ。」

「あら、そうかしら。私は森の中に行く予定だったからここにいて当然だと思うわよ。それよりも、どうして家にいるはずのセイくんが森の中にいるのかしら。」

「母さん、しっかりして。実はここ、まだ家の中だよ。」


 獣人界の孔明としては森を家の中だと錯覚させる大胆な作戦を試みるのだが、俺の返事を聞いた途端彼女の笑みがさらに深まった気がするのだ。


「セイくん、返事はそれでいいのね?」

「・・・ごめんなさい。後を付けていました。」


 初志貫徹という諺が前世にあった気がするが、どうやらこちらの世界で実行するにはいささかハードルが高すぎたようだ。

 俺は当初の路線を変更して、潔く謝罪をすることにした。


 すると、彼女は呆れたように溜息を吐いて俺に尋ねた。


「どうして後なんか付けてきたの?」

「いや、さすがにこの時期に母さんを一人で森に入れるのは心配だったから。」


 そう、父親が滑って転んで頭を打って亡くなっている以上、俺の家族はもう彼女だけだ。


 確かに身体能力だけならば俺は母の数分の1しかないだろうが、そもそもこれまでの経過からして俺たちの身体能力ではおそらくどうにもならない相手なのだ。

 ならば万が一魔物と出会した場合彼女が犠牲になる確率は高いし、逆にスキルと魔法を持っている俺ならばまだ勝機がある。


「まったく・・・セイくんの気持ちは分かったわ。けど、やっぱり今は・・・」


 彼女が俺に家へ帰るよう諭そうとした瞬間、どこからか悲鳴が聞こえてくる。


「きゃぁああああ!!!」

「セイランス!」


 女の子の悲鳴から少し遅れて、母が俺の名を叫んだ。


「あなたはここにいなさい!いえ、助けを呼んできて!」


 彼女はそう言うと悲鳴が聞こえた方向に走っていく。

 その方向を向くと、今までに嗅いだことのある動物たちとは違う匂いに加えて、鉄の匂いが感じられた。


 この状況、どう考えても女の子の悲鳴と母が向かった先にいるのは魔物だ。

 助けを呼びに行かなければならないというのも正論ではあるが、それでは遅すぎる。


 俺は葉のついた枝や落ち葉を拾い集めて魔法を放った。


「火精よ、我が対象にかがり火を灯せ」


 集めた木の枝と落ち葉から煙が上がっていく。


 マルガリンさんとの雑談で、緊急事態を知らせる方法としてこちらにも狼煙があるという話を聞いたことがある。

 これで集落の人達も気付くはずだ。


 狼煙が高く上がっているのを確認した後、俺は走って母の後を追った。


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