17.彼は振り返る(3)。
初めて外出してから5年が経ち、俺は6歳になった。
揺れる川面に映る姿でしか自分を確認できないがなかなか爽やかな少年だと思う、いや思いたい。
そう、思うだけならば自由だろう。
最近の活動に関しては、まだ一人で狩りをさせてもらうことはできないものの、ある程度狩りには慣れてきたし魔法を使うようにもなってきた。
約2年前に少年神様に会った後、目覚めた俺は母に泣きながら抱きつかれた。
どうやら3日間ほど意識がなかったらしく、朝になっても起きてこないのでおかしいと思って部屋を訪ねたら倒れている俺がいたそうだ。
あれから少年神様とは会っていないし、おそらく今後何もなければもう会うことはないのだろう。
彼から話を聞いたことで俺の魔力は魂が作っていることが確定したが、魔法を使っていく中でもう一つの異常性が発覚した。
魔力の回復が大分早いのだ。
普通魔力は回復するのに一晩必要らしいが、俺は寝起きに関わらず10分程で全快する。
この世界の人間は進化の過程で身体に魔力を蓄えるようになったが、魔力を蓄えるために生まれたわけではない。
一方俺の魂はそれだけのために実力だけは無駄にあるお姉さんが作ったシステムだ。
それ故に魔力の質や生成速度など、下界の者達が作る物と差が出るのだろう。
また、神様に会ったにも関わらず圧倒的な慎み深さを披露したせいで特に新たな力を授かることは無かったのだが、魔力システムを理解したためか魔法の精度が上昇するという恩恵を受けているようだ。
やはり獣人界の孔明にもなると、無意識のうちに策を弄してしまうものらしい。
さて、10歳まで後4年だ。
俺は親から独立する10歳になったら森を越えると決めている。
閻魔大王様から逃げるためという後向きな理由でこの世界にやって来たが、最終的な判断をしたのは十分生きたとは到底思えなかったからだ。
少年神様が言っていたように後悔のない人生にするためにも、俺は自分が十分生きたと思える程の多くの経験をしたい。
そう考えた時に思い起こされるのは、やはり幼い頃に聞いた母の話である。
あの頃から既に興味を持っていたが森を超えればまだ見ぬ種族が、そしてまだ見ぬ場所が、数え切れぬ程の経験が待っているのだ。
果たして人生が後悔の無いものになるのかなど死ぬ直前まで分からないが、森を越えることがそのための一歩であることは確かだろう。
お姉さん「力だけはあるのでなく、力もあるのです。」