16.彼は裏事情を知る。
いきなり質問に答えると言われても咄嗟に思いつかなかった俺は、先程彼が言っていたことを思い出して尋ねていた。
「時間があまりないっていうのはどういうことでしょうか。」
「あぁ、それか。それを説明するためにはまず、僕らの事情を説明しなきゃいけないね。」
軽い気持ちで聞いたのだが、どうやら神様事情にまで話が発展するようだ。
「あの女からエネルギーという言葉は聞いているんだよね。エネルギーっていうのは世界を運営するために必要なものだ。その世界が年月を重ねるほど増えていくけれど、再利用せずに運営できるほどじゃない。」
本当に広大なスケールの話をしようとしているため、少し本腰を入れて話を聞く。
とりあえず時間経過でエネルギー総量は増えていくけれど、使う一方では駄目だということだろうか。
「エネルギーは世界の運営のために使われると粒子として下界に散らばる。世界の運営のためにはそれらを回収してエネルギーとして再利用するシステムが必要なわけだ。ここまでは大丈夫かい?」
「大丈夫です。続けて下さい。」
「そのエネルギー回収システムっていうのは各世界によって違うんだよ。それが君の世界では魂システムで、僕の世界では魔力システムなわけだね。」
なるほど、それでこの世界には魂システムが存在していないのか。
それと同じように、以前の世界で魔法が存在しない理由も分かった。
本来であれば決して知ることのない話に俺が興味深そうに聞いているのを見ながら、彼は話を続ける。
「まずは魂システムだけど、魂っていうのは器とエネルギーから構成されている。君の世界の生物は生まれると同時に空の器を持ち、そこに粒子がエネルギーとして貯まっていくわけだね。その生物と共に一生を過ごすから、エネルギーには記憶や思考が蓄積されていくようだ。そして死んだ後に器の中のエネルギーを回収し、空の器はまた別の生物に使われる。」
この器がまた別の生物に使われるというのが、いわゆる輪廻転生というやつなのだろうか。
生前の記憶を持つ者がたまにいるのは、エネルギーが一部回収されずに残っているせいなのかもしれない。
「次に魔力システムだ。この世界では、エネルギー粒子を下界の生物の身体でエネルギーとして蓄えている。これを彼らは魔力と呼んでいるわけだ。そして魔力と引き換えに現象を引き起こす精霊を作ることで、エネルギーを回収しているんだよ。」
「ということは人もあなたが作り出したものということでしょうか。」
もしかしてこちらは神が人間を生み出したとされる神話のような世界なのかと思ったのだが、彼は困ったように首を横に振る。
「残念だけど違う。話が少し変わって悪いんだけど、そもそも世界の運営に失敗する神は少なくないんだよ。別に僕達に神様初心者講習会が開かれているわけじゃないからね。 あの女のように早い段階からエネルギーを再利用することを考えついて下界にほとんど影響を与えない優秀なシステムを構築する神も確かにいる。」
やはりあのお姉さんは性格が残念なだけで、実力は非常に高い神様ということでいいのだろう。
思わず閻魔大王様に同情しそうだ。
「だけど多くの神は段々と利用できるエネルギーが少なくなってから気付き、そして手遅れになるんだ。そんなにすぐシステムを構築できるわけじゃないからね。そして、僕は足りなくなってから気付いた側の神だ。その頃には下界の生物たちは今の形に進化していたんだよ。」
「つまり下界の生物の性質を利用して、再利用システムを作り上げたということですね。」
「その通りだよ。エネルギー粒子を魔力というエネルギーに変換して蓄える形で進化してくれたのが幸いした。偶然を利用して作った精霊をシステムの名前として使用するのは恥ずかしいから魔力システムと呼んでいるね。」
そうしてこの世界の下界では、魔法を基に発展していったらしい。
「本来の質問の答えにようやく戻るけど、君が魔法を使う際には器に貯められたエネルギーを精霊が回収して、それと引き換えに現象を引き起こしている。つまり、魔法を使って消費してしまったら魂の記憶や思考は消えてしまうことになる。」
「だから魔法を習い始めた俺がエネルギーを消費して、魂の中の以前の世界の記憶が無くなる前によんだということですか。」
「ご明察。魔法を使う度に器のエネルギーは消費するから、君がこれから魔法を一切使わないということがない限り魂に記憶や思考が蓄積された側から消えていくだろうね。」
彼のその言葉を聞き、俺には今回のような転生をすることがもうないのだと悟る。
これから一生魔法を使わないことなどないし、仮にそうしたとしても魂システムがないこの世界において彼が俺の魂をまた転生させてくれるとも思えない。
正真正銘、これが俺の最後の人生だ。
「他に質問はあるかい?」
そう尋ねてくる彼に、せっかく魔法について知ったのだからスキルについても知ろうと質問をする。
「スキルはどういう立ち位置なんでしょうか。」
「あぁ。あのシステムはボーナスだね。たまにエネルギーが魂のように宿っていることがあるんだよ。これには器がないから、本来なら魔力として使ってしまったらそれでおしまいだね。ただ、僕としては魔力を利用させてもらっている恩があるから、それに関してはスキルとして与えているんだ。能力は性質に依存するかな。」
彼はその後に続いて、神は下界に極力干渉しないから自分で気付けた者だけが得られるボーナスだとも言う。
親切なのか親切ではないのかよく分からない。
その質問を終えた所で、俺はお姉さんに頼んだことを思い出す。
「あちらの神様はそれを利用したわけですか。」
「そうだろうね。魂の器からエネルギーを取り出してスキルシステムに当てて、残ったエネルギーに合わせて器の大きさをリサイズしたんだろう。本来のエネルギーは魂の方に残してあったから前世の記憶を脳に引き継げたんだろうね。自分が管理していない遠い世界でここまで好き勝手にできるってあの女本当に力だけはあるんだよ・・・。」
確かに他神の世界に存在しない魂を送った挙句、彼がボーナスとして設定したはずのスキルシステムにまで干渉するというのだから溜息を吐きたくもなるだろう。
いや、干渉させたのは俺なわけなのだが。
彼はお姉さんへの愚痴をぶつくさと呟きながらこちらを見る。
「他には何かあるかい?」
「いえ、もういいです。」
「おや、世界を運営する神側の事情しか聞いてないけど下界に関する話は聞かなくていいのかい?」
彼の言う通りに聞きたい気持ちはあるのだが、自分が経験して知るはずのことまで知ってしまうのは何だか違うように思うのだ。
俺は人生に攻略本がほしいわけではない。
不思議そうな顔をする少年神様に笑顔で言う。
「それはこれから俺が色んな所を旅して色んな人に出会って知っていくことですから。」
「・・・そうかい。それもまた下界の楽しみ方の一つか。それじゃあ、そろそろお開きにしよう。君が転生することはもうない。この人生を後悔しないように生きなさい。」
「えぇ。神様もお元気で。」
目の前が真っ白になって・・・。そして意識が途切れた。
お姉さん>>>少年神様+閻魔大王