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異世界で生きよう。  作者: 579
5.彼はこうして王都で動く。
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122.彼は尋問される。

 目隠しをされたまま椅子に放置されてどれくらい経っただろうか、一向に人が来ない様子に俺は困惑していた。


「困りました、もしかして俺は忘れられているんじゃないでしょうか。」


 勿論尋問する側にも都合というものがあるのだろうが、さすがにこの状態で放置するのは如何なものかと思うのだ。


 仕方がないため一度鎖を抜けて休憩を挟もうか迷っていると、誰かがやって来る気配がした。

 やがて部屋に入ってきた人物は丁寧に扉を閉めると、足音を立ててゆっくりとこちらに近づいてくる。


「機嫌はどうだ?少し別の部屋に寄っていてな。」


 男性は落ち付いた声でそう尋ねるが、無論良いわけがない。


「あぁ、分かるぞ。不安だよな?いいだろう、今目隠しを外してやる。」


 それから目隠しを外されると、石造りの壁に沿うように並べられた拷問器具と共に平凡という他ない容姿をした男性が現れた。


 街ですれ違っても確実に印象に残らないだろうその顔だが、貼り付けたような笑みが酷く不釣り合いだった。

 彼はこの部屋に運んできたらしいトレーを机の上に置いた。

 そこには異臭を放つオートミールと、少し濁った様子の水がある。


「腹が減っただろう、食うか?」

「えっと、さすがにお腹を壊しそうなのでやめておきます。」

「そうか、明日また聞いてやる。」


 男性は俺の返事を聞くと、トレーを部屋の隅へと移動させた。


 もしかしなくてもこれは、空腹に耐えかねてあれを食べざるを得なくなるまで放置するということだろうか。

 当然日にちが経てば経つほど状態が悪化していくことも含めて、随分と悪趣味である。

 だが平凡な見た目に反して悪趣味な行動はまだ続くようだ。


「なあ、この道具はどうやって使うものだと思う?」


 男性は部屋に置いてあるものの中から、ペンチのようなものを手に取った。


「一番オーソドックスな使い方は歯を抜いたり、指を潰したりするんだ。こんな風に。」


 実演するかのように手にとったペンチで俺の指を挟むが、力は込められていない。


「安心しろ。お前が素直に話をして、俺がそれに納得出来れば何もしない。俺だって指を潰されて泣きわめくお前を見たいわけじゃないんだ。」


 男性は手に持ったペンチを机の上に置くと、鞭を一本手に取ってから俺の背後へと回った。


「これから尋問を開始する。五体満足でこの部屋を出られるかはお前次第だ。まずは簡単な質問から始めよう。お前は誰だ?」

「こんにちは、皆のアイドルセイランスです。」


 言い切ることは出来たが、アイドルの辺りですかさず鞭が背中を襲った。

 現在は防具を身に着けておらず、スキルを発動していなければ苦痛を味わっていたことだろう。


「若さか、随分と反抗的だな。鞭を5回振った時点で指を一本潰す。質問を変えよう。お前は最近デルムで冒険者になった、間違いないな?」

「その通りですよ。ちなみにDランク冒険者です。」

「では、その前は何をしていた?」


 その前と言われても随分と複雑な人生を送っているため、シンプルに返事をした。


「森の中で暮らしていました。」

「森だと?それは一人でということか、それとも家族でか。」

「最初は家族、その後はだいたい一人です。」


 比較的正直に答えているためか、鞭がとんでくる気配はない。

 

「出身国はどこだ?」

「ありません、ただ遠いところですよ。」


 二度目の鞭がとんできたのだが、正直な少年に対して酷い対応である。


「デルムで冒険者になった後、どうして王都に来た?」

「護衛依頼を受けたからです。」

「ゼファシール教の神官ベルナディータの依頼だな。その後の行動を俺が良いというまで話し続けろ。」


 とりあえず指示に従って、盗賊に襲われたところからアナベルお姉ちゃんの護衛依頼を受けて、最終的にはここに護送されるまでを大まかに話したのだが、その過程で鞭が二回振るわれたのは解せない話である。


「次で五回目だ、指を一本潰す。慎重に答えろ。お前は怪しげな施設に送られたと言ったが、どうやってそこを抜け出した?記憶に残っていることを細大漏らさず語れ。」

「あの、その前に不法侵入罪と侮辱罪のほうはどうなるんでしょうか。俺としてはまずそちらの方がどういう決着を迎えるのか分からないと困るんです。」


 国があの施設から俺が脱出した理由を知りたがっていることはソラルさんから聞いたが、俺にとってはむしろ罪の方がより問題である。


 そもそも俺はその被疑者ということでこうして拘束されているはずであり、それを放置して質問ばかりされても困るのだ。

 だが俺の問いかけに返事はなく、代わりに鞭が振り下ろされた。


「5回目だ。まずは左手の小指から潰す。」


 男性は最初に部屋に入ってきた時の落ち着いた声のままそう告げて、机の上にあるペンチを手に取った。

 これから自分がする行いに動揺をしている様子は一切なく、そういった行為に慣れていることが分かった。


 今度こそペンチには躊躇なく力が込められるが、数秒して男性は異変に気付いた。


「チッ。先程からある妙な余裕はこれのせいか。」


 そう悪態をつくと背後へと回り、5回振るった鞭も効果を発揮していないことを確認したようだ。

 だがこれまでの行動は無意味だったにも関わらず、男性に動揺は見られなかった。


「お前は今頃内心でほくそ笑んでいるのかもしれないが、それは大きな間違いだ。お前のような防御に優れたスキル所有者に対するやり方などいくらでもある。」


 男性はコツコツと椅子の周囲を歩きながら、言葉を続けた。


「火責め、水責め、飢餓・・・。明日また来る。お前にとって何が賢い選択になるのか、糞尿を垂れ流しながらよく考えておくことだ。」


 そう告げて男性は部屋を出て行った。


●●●●●


 翌朝のことである、俺はゆっくりと目を覚ました。


「結局昨日は本当に誰も来ませんでしたね。」


 とりあえず寝袋から出た俺は歯を磨いた後、焼き立ての状態で保存してあったパンを取り出して朝食を取った。


 さすがに拷問器具が並べられた部屋というのは気が滅入るため、精神衛生を考慮して甘いデザートを食後に食べてリラックスすることも忘れない。

 ついでに狭い空間に長時間居るとストレスもたまるため、軽く身体を動かしていると遠くから足音が聞こえてきた。


 だが空間魔法で昨日のように鎖に手と足を通して座ろうとしたところで、俺は大事なことに気が付いた。


「あ、そう言えば糞尿がどうとか言っていましたね。ここは円滑な尋問のためにそれっぽい感じにしておきましょうか。」


 さすがに糞の実現は難しいため、水魔法で適当に椅子とズボンを濡らしておくことにした。

 そうして準備万端の状態で待機していると、昨日の男性が例の貼り付けた笑みを浮かべて入ってきた。


「よう、調子はどうだ。こんな地下じゃあ夜は冷えただろう。糞は我慢したみたいだが、お前の尿の臭いがこの部屋に充満しているぞ?よくこんな尿臭い部屋に一晩居られたな。」


 男性は鼻を摘みながらそう言うのだが、さすがに水と尿の臭いを嗅ぎ間違えるのは重症だと思うのだ。


「あの、ちょっと心配になってきたので鼻が大丈夫か診断しましょうか?」

「まだ軽口を叩けるのか。なに、お前と違ってこの部屋から出れば済む話だから必要ない。」

「いや、そういう問題じゃないと思うんです。」


 自覚の無い男性をどうしたものだろうかと悩んでいると、彼は昨日部屋の隅に置いた異臭のする食事を再び俺の前へと置いた。


「腹が減っただろう、食うか?」

「いや、だから要らないです。一応言っておきますが、これ腐っていますよ?」

「あぁ、知っているとも。だからお前に相応しい食い物なんだ。」


 嗅覚障害の影響でちゃんとした食事なのか判断出来ていない可能性を考慮したのだが、やはり碌でもない性格をしているようだ。


 男性は昨日と同じように腐った食事を部屋の隅へと移動させると、壁際に置いてあった小さな桶に水瓶から水を注いで机の上に置いた。

 桶の中に注がれた水も腐っているのか濁った色をしている。

 

「昨日の続きだ。俺の納得のいく答えでなければお前の顔を水の中に押し付ける。最初は1秒、次は2秒。なぁ、お前は一体何秒間耐えられるだろうな?」


 さすがにそのような体験をしたことがないため、分かるはずもない。


「お前はどうやって研究所から抜け出した?」

「あの、だからまずは俺の罪について尋ねてください。」

「そうか、残念だ。」


 男性はそう言って俺の後頭部を掴むと、おそらく桶に顔面を叩きつける勢いで力を込めた。

 だがいつものように、普人の力で俺の身体が動くことはない。


「このっ・・・!?」

「気が済んだなら俺の罪について話をしませんか?モニカさんとの約束まで今日を入れて後3日ですし、そろそろ何らかの進展が欲しいんです。」


 いつまでも無茶苦茶な尋問に付き合っている余裕はないためそう告げると、男性は何故か笑い声を上げた。


「そうか、いいだろう。では今からそのモニカという女を連れてきてやる。」

「えっと、何を言っているんでしょうか。」

「なに、簡単な話だ。今までお前が受けるべきだった罰を全てその女に受けさせる。傷痕が残るくらい重い鞭をくれてやる。指を潰して泣き叫ぶ声を聞かせてやる。ゲロで桶が埋め尽くされるまで腐った水を飲ませてやる。それからもお前が納得のいく答えを返すまでモニカという女に苦痛を与え続けてやる。ずっと、ずっと、ずっと。」


 途中から男性が何を言っているのか脳が理解するのを拒んでいたが、いくつか確認したいことがあった。


「あなたの行動は白銀騎士団が認めているものでしょうか。というより、まともな尋問をする意志はありますか?」

「馬鹿なのか、お前。白銀騎士団はもとより、上からはあらゆる手段を用いてお前が研究所から抜け出せた原因を探れと命令を受けている。お前の下らん罪など最初からどうでもいい。あぁ、それとな。用が済んだらお前は殺せとのことだ。」

「そうですか、白銀騎士団やこの国がそういうつもりなら俺も好きに動くことにします。」

 

 力任せに拘束していた鎖を引きちぎると、とりあえず男性の腕を掴んでそのまま壁に叩きつけた。


 呻き声を上げながらも何か言おうとする男性をもう一度壁に叩きつけて大人しくさせると、扉を殴り飛ばして部屋の外に出た。


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