14.彼は魔法を学ぶ。(2)
「私達は魔法を使う際にその現象をイメージするわけだけれど、仮に私達だけで魔法を引き起こしているのなら、どういう風に魔力が作用してその現象が生じているのかまで理解していなきゃいけないはずでしょう。だから魔力を捧げてイメージを伝えることで、精霊がそれを引き起こしていると考えられているのよ。」
なるほど、確かに結果だけしかイメージしていなくても魔法が発動するならば、その過程を補う何かが存在していると考えるのが妥当だ。
どうやら精霊がいる物的証拠はないが、情況証拠はあるらしい。
「それにまだ理由があるわ。どうもその人によって使える魔法の属性が限られているみたいなの。だからその人の魔力の質を好む属性の精霊が、魔法を引き起こしているんじゃないかということね。」
彼女のその言葉を聞いた時点で、俺の中にはある展開が思い浮かんでしまう。
先程の考えが正しいのならば、俺の魔力は身体ではなく魂で作られているのだ。
「複数の属性の魔法を使える人はいるんでしょうか。」
「いるわね。ただ、使える属性が増えていくほどレアケースになっていくわ。話は途中だけど、この話題が出たんだし自分が使える属性の魔法を先に把握しておきましょうか。確かめる方法は簡単ね。『我に答えよ、火精よ』」
彼女がそう唱えると、マッチ程度の大きさの火が掌に現れた。
「私は火属性が使えるわ。これが例えば水属性だったら水精、風属性だったら風精、光属性だったら光精ね。これに関しては別にイメージはいらないからやってみて頂戴。」
彼女の言葉に従って、俺は一度大きく深呼吸してから詠唱を開始する。
「我に答えよ、火精よ」
次の瞬間、掌にマッチ程度の大きさの火が現れた。
掌のすぐ上に火が浮かんでいる光景も、そしてそれにも関わらず掌が全く熱くないという感覚も何だか不思議だ。
「あら。私と同じ適正じゃない。」
そう言って心なしかどこかうれしそうにする彼女に、他の属性も試してみることを告げる。
無論俺がただ単に火属性の魔力を持っているだけのパターンもあるのだが、仮に魔力が魂から作られているのだとしたら、それはそれで自分の魂の残念さに泣きそうだ。
「我に答えよ、水精よ」
掌が湿って水滴がこぼれている。
「我に答えよ、風精よ」
髪を風が優しく撫で揺れた。
「我に答えよ、光精よ」
掌にビー玉くらいの光が灯った。
「4属性!?4属性持ちなんているのかしら・・・。セイランス、あなたおそらくとんでもない魔力の質よ。魔力が少ないのがもったいないくらい。きっと精霊に愛されているのだと思うわ。」
あえて言うならお姉さんに愛されていて、そして閻魔大王様に嫌われているのだろうか。
そしてこの様子だと、おそらく他にも使える属性はあるのだろう。
彼女はひとしきり驚いた後、やがて言葉を続けた。
「こうやって精霊の名前を呼ぶことが魔法を発動するためのトリガーよ。精霊の名前を呼ばないと魔法は発動しないし、例えば水魔法を使うのに火精を呼んでも発動しないわ。精霊がいるという一番の根拠ね。」
確かにその属性にあった精霊を呼ばないと発動しないのなら、目には見えないがいると考えたほうがいいのだろう。
ところでこの機会にスキルについても尋ねておこうか。
これまできっかけが掴めなくて確認できなかったが今なら自然な流れで聞ける。
「よく分かりました。魔法って不思議なものですよね。もしかして、魔法みたいな不思議な力って他にも何かあるんでしょうか。」
「そうねぇ・・・。『スキル』と呼ばれる不思議な力を持っている人がたまにいるわね。魔法のような力、あるいは魔法では見たこともないような力を使える力ね。精霊に魔力を捧げることなくイメージだけで現象を引き起こすそれは、神に与えられた力ではないかと言われているの。」
俺にとっては魔法も十分不思議なのだが、スキルはこの世界の人達にとって法則を無視したものということだろうか。
前世でいう超能力のようなものなのかもしれない。
俺は質問を重ねようとするが・・・
「あぁ。日が落ちてきたわね。今日はもう終わりにしましょう。次はそうねぇ、10回目の雨の日の翌日にしましょうか。」
「えっと、10回目の雨の日の翌日ですか?」
日取りを約束するのはこの世界に生まれてから初めてなのだが、こんなにいい加減だとは思ってもみなかった。
前世のビジネスマンが俺達と一緒に仕事をしたら発狂するに違いない。
部長「これを次の晴れの日までに終わらせておいてくれ。」