表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で生きよう。  作者: 579
5.彼はこうして王都で動く。
138/159

119.彼の行く末。

 現在グランドレル大陸には10を越える国家が存在し、歴史上には数え切れない程の王が登場してきた。


 地球にはシンデレラストーリーという言葉が存在するが、実際これら王の中には身分の低い女性を王妃として迎え入れた者もいる。

 そして逆に、これら王の中には身分が低いにも関わらず玉座に就いた者もいるだろう。


 だが、当然のことながら身分の低い女性が王に見初められて王妃になることと、身分の低い男性が王として君臨することには天と地ほどの差がある。

 少なくとも後者はクーデターを起こすにせよ、新たな国を興すにせよ、支配に足るだけの力を持つ必要があったはずだ。


 では、果たしてシンデレラストーリーのように誰かに見初められて、身分の低い男性が王となるサクセスストーリーは存在するのだろうか。

 一見あり得ないように思えるそれは、グランドレル大陸において何度か発生していた。


 実際、セイランスが現在いるグレラント王国もまたこのサクセスストーリーにより生まれた国である。

 グレラント王国の初代国王となったエルネストは、まだデルムの街がそう呼ばれる前の時代にその場所で育ち、そして幼き頃にアルセムの森で地猿グレラントと出会った。


 身分の低い男性が王となるサクセスストーリーの一つ、それがこの世界に存在する神獣に見初められることである。

 

 神獣はSランクに分類されるが無論その全てが同格の強さを持つわけではなく、自然の名を冠するものは特に強力な存在として知られている。

 地猿、空麒、雪龍、陽鳥、海竜、煌馬といった存在がそれに該当し、逆に赤竜のような色を冠する存在は数段格が落ちる。

 例えばセイランスの鎧に使われている素材は緑竜(グリーンドラゴン)のものであり、灰蛇という組織名は石化能力を持つ灰蛇に由来していた。

 

 本来人の理の中にはいないはずの神獣に見初められた者は、その隔絶した力を手にするために自然と支配に足る力を持つことになる。

 グレラント王国ではエルネストの死後に地猿グレラントは消え去ってしまったが、エインツ帝国にいる雪龍スウィーフィネのように何世代にもわたって力を貸す神獣に恵まれたならばその国は繁栄を極めることができるだろう。


 無論神獣の力を借りて玉座に就いた王は僅かではあるが、今日において神獣に認められた者は王の資格を持つと言われる程の衝撃を歴史に与えていることを忘れてはならない。


●●●●●


 王都の中ならばどこからでもその白く美しい建物の一部を視界に収めることができる王城において、法務大臣の執務室は窓から色鮮やかな庭を眺められる場所に存在していた。


 法務大臣を務めるオードラル伯爵はギースバル補佐官が纏めた報告書に難しい顔をしながら目を通すと、静かに確認した。


「やはり事情説明を要求しても拒絶されたか。」

「はい、一貫して越権行為であるため陛下の承認を得るようにとの回答が返ってきております。現在は要請に対して回答すら得られない状態です。」

「それができない状況にあることは、あの者たちとて分かっているだろうに。この様な時くらい融通を効かせられんのか。」


 オードラル伯爵はそう不満を口にしながらも、そういう場所だからこそこれまで重宝されてきたことを理解していた。


 グレラント王国魔法技術研究所は国王直轄の組織であり、王の正式な承認が無ければ例え宰相であっても干渉することはできない。

 所属する研究員たちは生涯出ることが叶わないと理解して尚倫理道徳に制限されない研究を望んだ者たちであり、王の干渉ですら法で定められているために仕方なく受け入れている程度の認識だ。

 また非定期便は権力者の都合によるものだが、彼らは実験体が多い方が望ましいために拒まないのであって、その権力に従っているわけではなかった。


 だが容易に権力に左右されないからこそ、正当性を主張できないが必要な殺人や誰も手を下したがらない存在の処分など、必要悪としての役割を担うことが出来る。

 その上で今回のようなイレギュラーが起きた場合には、外界の事情など一切考慮しない狂研究者達が研究に役立つ実験体を拒んだ理由を解明しなければならなかった。


 オードラル伯爵は強い口調でギースバルへと命令する。


「あらゆる手段を使って構わん。研究所から情報を聞き出せない以上は早急に例の冒険者から情報を引き出せ。よくもこの忙しい時期に面倒な話を持ち込んでくれたものだ。」


 現在は宰相の権限を一時的に拡大する形で内政が行われているものの既に綻びが生じ始めており、また間近に迫った聖魔王一団に関する要件も立て込んでいるため、この案件は本来であれば重要性は高いものの緊急性は低いはずであった。

 それこそ、フェリクス王が回復するのを待ってからその権限で研究所に事情聴取を行えば済む話なのだから。


 だが、ここで考えなければならないのは聖魔王の力を以ってしてもフェリクス王が回復しなかった場合のことだ。

 

 先代のアルファド王は正妃との間にフェリクスと2人の姫を儲けているため、現在は先代王弟であるジュライアル公爵が継承権第一位となっている。

 アルファド王は一夫多妻を拒んでいたわけではないし周囲もそれを認めるはずがないのだが、彼が正妃しか持たなかったのはセイレンの蛮行によるところが大きい。

 当時無名だった彼に王宮への侵入を許した挙句に捕縛することも叶わなかったアルファド王の権威失墜は多方面に影響を及ぼし、とてもではないが第二王妃を娶られる状況ではなかったのだ。


 そしてこのことが、フェリクス王が崩御した際に大きく響くこととなる。


 ジュライアル公爵は既に40を超えており、彼が順当に玉座に就いた場合に在位期間が短くなる可能性は決して低くない。

 アルファド王は在位期間が10年程度で期間の大半は不安定な立場にあり、更にフェリクス王の在位期間が僅か数年という状態になった場合、次の王までもが早々に崩御すればこの国は大きく揺らぐことになるだろう。


 グレラント王国は現在隣接する3ヶ国と敵対関係にはないが、彼らと4ヶ国同盟を結ぶことでエインツ帝国の脅威に対向していた。

 唯一エインツ帝国に接していないグレラント王国だけが柔軟に戦力を提供し支援することが可能であり、弱体化すればエインツ帝国の侵略が進行する恐れがあった。


 そしてこれらの懸念を解消するために一部の者たちから出ているのが、ジュライアル公爵ではなくその長男に王位を継承してもらうという意見だ。

 フェリクス王が死んだ場合には王宮が荒れる可能性があるため、研究所の機密性が保たれていない状態というのは拙い。


 加えて言うならば、もう一つ事情がないわけでもなかった。


「ところでその冒険者にはサモンド子爵家が後ろ盾となっていることは間違いないのか。」

「間違いありません。あの家は良くも悪くも中央政治に関心がありませんから、事情を知れば何らかの行動を起こすものと思われます。」


 グレラント王国に存在する領地のほとんどはエルネストが地猿グレラントの力を使って開拓したものだが、サモンド子爵家が保有する領地はエルネストが生まれる前からアルセムの大魔窟に挑む者たちや商人、またはその家族が暮らし一つの街として機能していた場所だ。

 それ故に国の補助がなくともデルムの街単体で生活が成り立っており、経済的圧力をかけても効果が少ない。


 また、本来冒険者はその領地出身でも無ければ防衛義務が存在しないが、デルムの場合は冒険者たちがそこを自分たちの街だと強く認識している。

 それ故にデルムの街を攻めた場合には実力の高い冒険者たちを多く敵に回すことになるため、軍事的圧力も効果を発揮しにくかった。


 サモンド子爵家は代々中央政治への関心が薄く政治権力は強くないため、知ったところでセイランスを守り切ることは難しいが、それもサモンド子爵に相応の覚悟があるならば不可能ではない。

 サモンド子爵家は魔物資源や森林資源、また空白地帯を利用した農業により経済的に潤っているため、政治権力を持つ貴族たちへの根回し次第でセイランスの身柄を確保することが出来るだろうし、上述した通り圧力をかけてサモンド子爵の行動を抑制することは困難だ。


 もっとも、疑問なのはDランク冒険者一人のために果たしてそこまで行動するのかという点だが、彼が後ろ盾を得るに至った経緯を考えるとその可能性がないとは言い切れない。


 つまり多方面から考えて今回の一件に関しては早期解決が妥当だった。


 ギースバルは一旦部屋を退出しようとしたが、ふと何かを思い出したようにオードラル伯爵へと尋ねる。


「念のため確認させて頂きます。情報を聞き出した後は・・」

「無論処分しろ。サモンド子爵も死んだ後ではどうしようもあるまい。」


 オードラル伯爵は表情を変えないまま、そう冷たく返事をした。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ