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異世界で生きよう。  作者: 579
5.彼はこうして王都で動く。
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side.直感

 『導きの乙女』ベルナディータ、彼女の持つスキル直感は所謂チートと呼ばれるだけの力を持っている。


 実際、稀有なスキルではあるもののこれまでにも何度か保有者が現れており、彼らは皆歴史にその名を残していた。


 例えばアルセムの大魔窟を含めて3つの大魔窟を踏破する偉業を成し遂げた数百年前の探検者『心眼』シリル、例えばエインツ帝国において二代に渡り皇帝を暗殺しながらも捕まることがなかった『大罪人』フェイ、例えば大陸中に散らばる亜人達を集め保護をした第12代ウォルフェン国副王エルヴィーン。


 スキルに宿るエネルギーには差があるためベルナディータが彼らと同等の能力を持っているかは定かではないが、ルイエントにおける実績を踏まえるに大きく劣っているということはないだろう。

 また彼女はスキルを頼られることに嫌気がさしている反面で、何より自身がその効果をよく分かっているが故に大きな信頼を寄せてもいる。


 だが確かに直感は持って生まれれば歴史に名を残すことができる強力なスキルだが、何も欠点がないわけではない。

 無論それはちょっとした発動条件であったりだとか、長所と裏表の関係にある短所であったりだとか、その能力に比べれば些細なものではあるのだろう。


 そんな長所と裏表の関係にある欠点の中の一つに、使用者本人の理解を越えて効果を及ぼすというものがある。

 例えばベルナディータがセイランスを見て彼ならば大丈夫だと判断した時、そこには何故大丈夫なのかも、具体的にどうやって大丈夫になるのかも存在せず、ただ大丈夫だという結果だけが存在していたのだ。


 ここで一旦話が変わり、今回の一件においてセイランスとアナベラが収容所へと連行される確立は本来とても低いものであった。


 例えば大前提としてアルドス準男爵が助力することが必要不可欠だったが、彼は初代当主アルベルトに多大な敬意を払っており、何としても回避したいはずの家の没落とアナベラを陥れるという行為を天秤にかける程だった。

 仮にセイランスの明らかに非のある言動が無ければ、罪を捏造してまで騎士団を呼んでいたかは怪しいだろう。


 そしてそのセイランスも、本来ならばアルドス準男爵を怒らせるような行為を行わなかったはずだ。

 普段の彼ならばアンドルに同行を拒否された時点で無理に乗ろうとはしなかっただろうし、そうするにしてもサモンド子爵の後ろ盾を利用するという手堅い手段があったのだから。


 また、罪の捏造によりアナベラが陥れられたとしても、本来ならば彼女が素直に騎士団に連行されることは無かっただろう。


 彼女を頂点とするスラム街の勢力と国家権力の関係は、現在膠着状態にあると言っていい。

 例えば両者が本気で衝突すればまず間違いなく後者が勝利するが、国もまたその過程で大きな被害を受けることになるからだ。


 一方で両者は衝突を全く避けているかといえばそうではなく、特に国家権力の方は隙あらばアナベラたちの勢いを削ろうとしている。

 そのような状況下において、完全にセイランスに非があるにも関わらず強引に連行を拒絶すれば国側に大義名分を与えることになるため、アナベラは大人しく捕まり連行されることを選んだのだ。

 クライヴ小隊長がセイランスの行動を評価したのも、わざと逆上させることで騎士団の非を誘い今後の展開を有利に進めようとしていると判断したからであった。


 いずれにせよベルナディータが口にした『今日一日尊大な態度をとってほしい』という指示は、本来ならば起こるはずの無かった出来事を無理矢理に起こし、本来解決に長期間かかるはずの事件を強引に早期解決へと導くためのものだったと言える。

 そしてその代償として彼女が告げたのが、早期解決に『だけ』は繋がるという言葉だ。


 彼女はこの言葉を告げた際、セイランスが困難な状況に出会い苦労するだろうが最終的に何とか早期解決へと持っていける、という認識を持っていたはずだ。

 無論エインツ帝国で名を馳せた組織相手に早期解決を図る以上は当然のことであるし、彼女も悪意があったわけではない。


 だが、ベルナディータはその意味を正しく理解していなかった。


 セイランスはその性格故に斜め上の行動を取るため今ひとつ実感が湧きにくいが、常人と比べれば遥かに優れた能力を持っているし、実際アルセムの大魔窟踏破という偉業を成し遂げた実績もある。


 そして彼はダルクと別れてからというもの青銅騎士団副団長のソラルが呆れるほどの困難にいくつも出会っているが、クラリネスが傷つけられた時を除けば果たしてこの言葉が正しいのか分からないが彼基準での平常運転だった。

 ではそんなセイランスが困難だと感じ、実際に苦労し、何とか早期解決にだけは繋げられる出来事とは何を指しているのだろうか。


 歴代の直感スキル保有者は確かに歴史に名を残しているが、全てが思い通りになったわけではない。


 例えば『心眼』シリルは新人時代から苦楽を共にしてきた無二の親友を自分の目の前で失い、『大罪人』フェイは最愛の人を三日三晩に渡る苦痛と恥辱に満ちた拷問の末に殺され、そして第12代ウォルフェン国副王エルヴィーンは自分が集めたはずの亜人によってその命を奪われている。


 直感スキルは間違いなくチートと呼ばれる代物だが完全でもなければ万能でもなく、何よりそれを使用するのは人に過ぎないのだ。

 それ故に大きな落とし穴が待っており、歴代の直感スキル保有者は後悔と共にそれを胸に刻んできた。


 セイランスは直感スキルを盲信していなかったために途中で切り捨てたが、大きな落とし穴に片足を突っ込んでしまったことは間違いないだろう。

 

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