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異世界で生きよう。  作者: 579
5.彼はこうして王都で動く。
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98.彼は再会する。

 神殿を出た後、ベルナディータさんと俺は二人並んで街を歩く。


「王都の人達って、デルムに比べると朝が遅いですよね。俺が神殿に向かった時はまだそこまで人が多くなかったですし。」

「おそらく、生活環境が影響しているのでしょう。」


 デルムの場合冒険者の他にも、森の木を伐採する者達など街の外で肉体労働を行う層が多いため自然と朝が早くなるようだ。

 それに対して王都は街の中で活動する者達が多いため、朝早くに拘る必要はない。

 また、王都の方が街灯といった夜を過ごしやすくする設備が充実していることも関係しているらしい。


 今は職場に向かう人々の朝食を狙った屋台が多く開かれており、所々から食欲を刺激する匂いが漂っていた。


「美味しそうな匂いですね。少し買っていきましょうか。」

「えぇ、お願い致します。セイランスさんがそう言ってくれると信じて、今日は朝の恵みを求めるつもりはありませんでしたから。」


 果たしてそれは俺への信頼と言えるのだろうか。

 どちらかというといい鴨にされているだけな気もするのだが、ここは大人しくねぎを背負うとしよう。


●●●●●


 鴨ねぎと化した俺とベルナディータさんはやがて、冒険者ギルドへと到着する。


「ここが王都の冒険者ギルドですか。デルムのものと比べると確かに大きいですが、派手さみたいなものはないですよね。」

「そもそも冒険者ギルドに派手さなど誰も求めはしないでしょうから。それとセイランスさん、最初に言っておきますが冒険者をデルム基準では考えない方がいいですよ。」


 民に寄り添うためか王都の神殿は冒険者ギルドと同じ平門側にあり、ここに来るまでに一般民が暮らす建物を眺めてきたのだが、色とりどりの風景が広がっていた。

 それに比べると冒険者ギルドは土色の壁で構成されており、無骨な雰囲気が漂っている。


 いや、そもそもギルドの場所自体も平門側の中でもかなり貧門側よりにあり、周囲の雰囲気自体もいいわけではない。


「どういうことですか?」

「お忘れでしょうか。デルムのギルドは登録の際に試験を設けて冒険者の選別を行っているのです。それに対して王都のギルドでは特別に幼くなければ登録制限がありません。まぁ、中に入ってみれば分かるのではないでしょうか。」


 彼女はそう言うが、つまりギルドの中には人が大勢いるということだろうか。

 確かに扉の中から喧騒が聞こえてくるのは間違いない。


 何故か俺の後ろを5歩程下がって付いてくるベルナディータさんをよそに歩を進め扉を開くと、薄汚れた鎧を着けた男が突然目の前に現れて俺と衝突する。

 彼はそのまま尻もちをつくと、手を抑えながら叫んだ。


「いてぇ、いてぇよ。こりゃ骨が折れちまったかもしれねぇ!」

「あぁ、なるほどこういうことなんですね。」


 どんな者でもなれる、いつ死ぬとも分からないその日暮らしの職業、冒険者か。

 そう言ってみると、確かに碌な者達が集まりそうにない。


 デルムでは短期間に功績を上げた俺を非難する冒険者はいても絡んでくる冒険者はいなかったから、今になって思えばそういう部分にも試験の効果が現れていたのだろう。

 クリークさんの凄さがようやく分かった気がする。


「おいいてぇよ!お前俺の折れた手をどうしてくれるんだ!?」


 そう言って喚く男性を見て、俺は決断をする。

 仕方がない、ここは穏便に解決するとしよう。


「それは失礼致しました。こちら少ないですがどうぞ。」

「治療費を払えこのやろ・・・お、おう?悪いな。」

「いえいえ、気にしないでください。」


 ポカンとした顔をする男を横目に、俺はベルナディータさんの手を握ると再び扉をくぐり外に出る。

 隣へと視線を向けると、彼程ではないが彼女もポカンとした表情をしていた。


「この短い間である程度理解しているつもりでしたが、相変わらず予想外の行動をとるのですね。」

「いや、ベルナディータさんには言われたくありません。ここ最近は少々荒事が続きましたし、穏便に済ませたくなったんですよ。」


 最近の自分を振り返ってみると、盗賊団を壊滅させたり青銅騎士団と一悶着起こしそうになったりと、暴力に偏った行動を取っているように思うのだ。

 さらに初めて訪れたギルドで暴力に頼った日には、もはや只の戦闘狂になってしまうのではないだろうか。

 ここはぜひ軌道修正を図らねばならない。


「さすがに入り口から再び入るのはまずいですね。仕方ありません、別の手段を取るとしましょう。」

「セイランスさんにお任せしますが、別の手段とは一体なん・・・!?」


 疑問を口にするベルナディータさんは、しかし俺に抱えられたことによってそれを中断する。

 彼女は今、俺にお姫様抱っこをされている状態と言えば分かりやすいだろうか。


 やがて彼女は自分の状況を理解すると、腕を胸の前でクロスさせて口を開いた。


「あぁ、神よ。少年の抑えきれぬ情欲をどうかお目こぼし下さい。この身に何が起ころうとも、私はあなた様の忠実な下僕です。」

「いやいや、急に抱えたのは悪かったですが、何かやましいことをするわけじゃありませんからね?」


 彼女も俺がそういう目的で抱えたのではないことが分かっているのか、言葉とは裏腹に特に抵抗する様子を見せなかったのだが、ふと何かを思い出したかのように言葉を続ける。


「それはそうとセイランスさん。昔祖父が言っておりましたが、私が欲しければ本神殿に控える神殿騎士の最高位、神護騎士達全員を相手取らなければならないそうですよ。」

「いや、だからそういう話じゃありません。」


 第一、名前からしてその騎士達は神や神殿を護るためにいるのではないだろうか。

 孫娘の相手を見定めるために使うのはどう考えても職権乱用だ。


 このままこの話を続けるつもりもないため、俺はそうそうに目的を果たすべく冒険者ギルドに向き直る。

 そしてもう一度しっかりとベルナディータさんを抱えると、ギルドの壁に向かって走り出しそのまま駆け上がった。


 時間にすると10秒程だろうか、壁を登りきると俺達はギルドの屋上に到着していた。


「題して、入り口が駄目なら屋上から入ればいい、作戦です。」

「随分と斬新な作戦ですね。」


 屋上に扉がない可能性があるのがこの作戦の欠点だが、幸いにも建物内へと続く扉が存在しているようだ。

 鍵もかかっていなかったため、俺はベルナディータさんと共に下へと降りていく。


 建物の高さを考えると、最初に到着したのは3階だろうか。

 人があまりいる場所ではないらしく、人の気配はあるものの周囲は至って静かだ。

 無骨な外観とは裏腹に掃除は行き届いているようで汚れは見当たらないし、廊下に置かれている観葉植物が良いアクセントになっている。


 どう考えてもここはギルドの偉い人がいるような、冒険者が通常入ってはならない場所だろう。


 俺は立ち去るべく2階への階段を探すのだが、その途中でどこからか声が聞こえてきた。


「こっちは依頼人として来てるんですがねぇ、その辺り考えちゃくれやせんか!!」


 周囲が静かなため、部屋の中で話している会話が離れたところからでも聞こえるようだ。

 おそらく、俺が進もうとしている方向の反対側に見える、大きな扉の中からだろう。


「別にあなた達の立場を踏まえて言っているわけではありません。純粋に、今回の依頼に該当する者がいないと言っているのです。」

「おたくら豊富な人材抱えとるんと違うんか!アナベラ姉さんの目に適うもんの一人や二人用意できんのか!!」

「確かに我がギルドは多数の人材を抱えています。ですが先程申し上げた通り、まず条件の一つにある獣人自体が、当ギルドが抱える冒険者の2割から3割程度しかおりません。次に、Dランク以上の冒険者となるとその数は明らかに減ることとなります。Dランクと言えば一人前の冒険者とされ、社会的にも一定のステータスを確保できるようになりますから。この時点で既に数が限られてくるのですよ。」


 耳に入ってくるギルドの情報に思わず足を止めて聞き入っていると、さらに会話は進んでいく。


「それだというのにあなた方が出した条件は、これに加えて16歳以下の少年という制限です。この3つに該当する冒険者がいるというのならば、むしろ私が連れてきてほしいくらいです。」

「それをどうにかするのが・・」

「よしな、バジル!無理言ってんのはあんたも分かってんだろ。すまないねぇ、ギルド長さん。部下があまりにも共を付けずに動く私にうるさいもんで、つい無理難題ふっかけて見つけられるもんなら見つけてみなって言っちまったんだよ。この国に少ない獣人で腕っ節の立つ、しかも若いやつなんてそうそういるわけがないだろう?」


 新たに今まで話をしていた女性とは別の女性の声が加わったが、つまりそういうことらしい。

 確かにその3つの条件をクリアする人物を探すのは例え冒険者ギルドといえども難しいだろう。


「邪魔をしたね。失礼するよ。」


 その声と共に唐突に会話が終わりを告げ、中から葉巻を加えた女性と左耳から口にかけて大きな傷痕のある男性が現れる。

 先程の会話も加味すると、積極的に関わりたくはない類の者達であったため早々にこの場を後にしようとするが、ふと女性と目があった。


 彼女はこちらを視界にいれた途端その鋭い目を一瞬大きくさせ、すぐに元の表情へと戻ると何事もなかったかのように歩を進める。

 俺は彼らの行き先を見れば2階へと続く階段が分かることに気づき、ベルナディータさんと目で会話して廊下の端へと移動する。


 俺たちに絡む気はないらしく前をそのまま素通りするのだが、ふと鼻にどこかでかいだことのある匂いが入ってくる。


 あぁ、思い出した。


「この匂いはアナベルお・・んぐっ。」


 俺が答えを言い終わるよりも早く、前を通り過ぎていたはずの女性の手によって塞がれる。

 その動きは今朝感じた強者のそれに違わず素早く無駄がないものだった。


「何故・・・いや、私について来い。」


 そう耳元で告げる彼女の目は怖く、その口調からは有無を言わさぬものが感じられた。

 今までに経験したことのない謎の迫力も伴っていたため、俺は咄嗟に・・・


「んぐ、んぐぐんぐ(はい、喜んで)」


 そう返事をしながら頷いていた。


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