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異世界で生きよう。  作者: 579
5.彼はこうして王都で動く。
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97.彼は尋ねる。

「おはようございます、セイランスさん。やはり神殿に泊まったほうがよろしかったのではないでしょうか。すごく疲れているように見えますよ。」

「いや、野宿自体は間違いなく慣れているので問題ないはずなんですが、今朝にちょっとありまして。」


 あれをどう説明すればいいかなど分かるはずもなく、神殿へと到着した俺はベルナディータさんに曖昧な返事をする。

 

 ゼファシール教グレラント分殿はさすがに王都に建っているとだけあって、デルムの物よりも更に大きく神殿の前には広場のようなものまである。

 広場の中央には池があり、その真ん中には少年神様の銅像が存在していた。


 様子を見ていると時間がある者は神殿の中へと入り礼拝堂で祈りを捧げているが、急ぎの者は池にある銅像に軽く祈り去っていくようだ。


「そう言えばゼファシール教では知識の還元を行っているんですよね。王都についての説明とかもお願いできるんでしょうか。」

「えぇ、とは言っても王都は私も初めてなので他の神官に願うことになるのですが。誰か連れてくるので少し待っていて下さい。」


 軽い思いつきで言ってみたのだがどうやら大丈夫らしく、彼女はそう言うと奥へと入っていく。

 

 それからしばらくして彼女が連れてきたのは、白い神官服の上から青いローブを羽織った男性だった。

 口の周りには整えられた髭があり、清潔感を維持しながらもどこかしら威厳を醸し出している。


「お待たせしました。王都についての知をお求めなのですね。私がお与えしましょう。」

「よろしくお願いします。ベルナディータさん、一つ尋ねておきますがこの方はどなたでしょうか。」

「分殿長のクリフォード様です。彼に王都の観光案内紛いのことをさせるとは、セイランスさんもなかなか肝が座っておいでですね。」


 いや、連れてきたのはベルナディータさんあなたです。


 どうやら本当に彼が王都について説明してくれるらしく、俺たちは少し場所を移動して設置されている椅子へと腰掛けた。


「王都の一般的な説明ということでよろしいですか?」

「えぇ、ご迷惑でなければお願いします。」

「構いませんよ。ここグレラント王国王都は周りを高さ25mの壁に囲まれております。門は東西南北にそれぞれ一つずつあり、それぞれ貴門、貧門、商門、平門と呼ばれています。」


 彼の話によると、東には貴族が多く住まう地があるため貴門、西には貧民が多く住まう地があるため貧門、南には商人達が多く店を構えているため商門、北には平民達が多く住まう地があるため平門と呼ばれているようだ。

 そして中央には王城があり、王城の門は貴門側に存在している。


「セイランス殿は確か冒険者でしたか。ならば平門側を利用することが多くなるでしょう。ギルドもそちらに設置されています。」

「何か王都特有の法律などはあるでしょうか。気がつけば犯罪者というのは嫌ですから。」

「特にはありませんが、あえて言うならば今は巡回中の青銅騎士団に気をつけた方が良いかもしれません。」


 どういうことか意味が分からずに首を傾げると、彼は話を続ける。


「騎士というのは国ではなく、王に仕えていることを誇りとしています。だからこそ、その王の命令ならばと貴族であっても青銅騎士団として平民を含めた王都の民を守護しています。ですが、今王は臥せっているでしょう。それ故に総騎士団長が騎士団に全命令を出しており、王に仕えているという形式に綻びが生まれているのです。」


 普段も実質的には総騎士団長が命令を出しているのだが、やはり建前上でも王が命令を下しているという点は大きいらしい。

 もしかしたら、こういったこともバーナードの件に関係があったのだろうか。


「後は目立った何かと言えば、正式な日は知らされぬものの、時期に王の病を癒すべくヴァレリア聖魔王の来訪があることでしょうか。」


 どうやら王の病態は思ったよりも良くないのか、本来ならばもう少し後に来る予定だったヴァレリア聖魔王の来訪が早まったようだ。

 ダルク様と同じ原初の魔王にして、グレイシアさんよりも優れているという治癒魔術師、機会があれば一度あってみたいとは思う。


「ヴァレリア聖魔王の訪問自体もそうですが、魔人が集団で王都に訪れるというのもまた滅多にないことです。王都は賑やかになることでしょう。」


 街を歩いていれば分かるがグレラント王国は、住民の8割が普人で残りの2割が獣人、といった具合だ。

 魔人や妖人はこれまでに一度も見かけたことがない。


「こんなところでよろしいでしょうか。」

「はい、お忙しい中ありがとうございました。まさか分殿長に説明してもらえるとは思ってもいませんでした。」

「話に聞けば神官ベルナディータの見聞の勤めにご助力頂いたとか、その事を思えばたいしたことではありません。それに、彼女から一度面識を持っておいた方が良いだろうと言われれば尚の事です。」


 どうやら本神殿長の孫という身分は大きいようで、彼女の助言一つで分殿長が動くらしい。

 そう思っていると、俺が何を思っているのかわかったのか彼は首を横に振る。


「いえ、いくら祖父が本神殿長と言っても、彼女はあくまで神官という身分です。それを理由に私が助言を受け入れることはありません。そうではなくて、彼女自身の持つ力がそうさせるのですよ。」

「力?」

「特殊系スキル『直感』、彼女の助言は純粋に有益なことが多いのです。なにせその力で祖父を本神殿長の座に押し上げたという話もあるくらいですから。」


 俺がベルナディータさんの方へと視線を向けると、彼女は何を言うでもなく微笑む。

 初めて聞く話だが、無論彼女が俺に自身のスキルについて語ってみせる必要はない。

 

 それでも一つだけ、尋ねておきたいことがあった。


「あの、俺が助言をもらったことってありましたか?」

「セイランスさんは、助言をしようがしまいが関係なく乗り越えてしまいそうでしたから。拗ねないで下さい。」

「それもまた『直感』ですか。後、別に拗ねてはいません。」


 ただ少しだけ、冷たくないだろうかと思っただけだ。

 

 だが、これで少しだけ彼女の図太い神経の理由が垣間見えた気がする。

 前世に女の勘という言葉があったが、ベルナディータさんのはそれの異世界版のようなものだろうか。


「つまり、俺はその『直感』に選ばれた頼りになる人物だったってことですね。」

「えぇ、依頼料以上の働きをしてくれたことは間違いありません。さて、それではギルドの方に依頼完了を報告しに参りましょうか。」


 そう言って立ち上がる彼女に、俺は告げた。


「いや、銀貨1枚以上の働きって全く褒め言葉になっていませんからね?」


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