10.彼は知る。
「今はもう全く聞かないけれど、随分と昔は探検者を名乗る人達が私達の集落に訪れてくることが稀にあったらしいのよ。そういう人達からもたらされた話になるわ。」
まだ話が始まったばかりなのだが、この時点で既に頭が痛くなりそうだ。
この様子だと、思ったよりも本格的に俺達は他種族から孤立しているらしい。
心の中にあるお姉さんへの苦情ノートに項目を一つ追加しつつ、俺は話を聞き続ける。
「まず私達獣人は、魔力がほとんどないけれど身体能力が他種族と比べて高いそうよ。森を超えた先にも獣人はいるらしいけど詳しくは知らないの。」
つまり他種族と交流あるいは一緒に生活している獣人もいるということだろうか。
もはや獣人に生まれたことについてとやかく言うつもりはないのだが、せめてそちらに生まれさせてほしかったというこの想いすらも、現状を踏まえると俺には過ぎたものであるらしい。
閻魔大王様から逃げるという行為はやはり罪深きものだったに違いないと少し反省をしながら、俺は母の話を聞き続ける。
「妖人は4つの種族の中で最も高い魔力を持つけれど、身体能力がかなり低いらしいわ。どこかの森に集まって暮らしているそうよ。」
こちらは獣人とは正反対のような種族だが身体能力と魔力は相容れないのだろうか。
あるいは高い魔力で何でもするせいで身体が退化しているのかもしれない。
車やネット通販に慣れてしまったがために運動量が減少し、肥満と体力不足に悩まされる現代人に通じるものがあるためどこか親近感が湧いてくるというものだ。
「魔人は、私達には及ばないけれど高い身体能力と、妖人には及ばないけれど高い魔力を持っているらしいわ。ただ魔力切れが問題みたいね。普人や妖人は魔力が尽きると気絶するけど、魔人だけは命の危険に晒されるようね。」
魔人は妖人と獣人の長所をいい所取りしたような存在だが、魔力切れのリスクが高いようだ。
どちらかというと体力のない妖人の方が魔力切れで問題を起こしそうなものなのだが、優秀さの中に欠点を潜ませるとは中々どうしてあざといではないか。
「最後に普人ね。普人は突出しているものもないけれど、致命的な何かもないといったところね。なんでも普人はたくさんの人達が集まって暮らしているらしいわよ。」
普人は可も不可もない種族であり、前世の人間に一番近いのだろうか。
もちろん親近感を覚えずには居られない。
獣人として生まれた今は当然この種族にも愛着が湧いているためどの種族にも悪い印象は抱いていないのだが、いずれにせよ人族にはこの4種類がいるのは確からしい。