表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界で生きよう。  作者: 579
5.彼はこうして王都で動く。
108/159

side.ソラル&バーナード

 アールノが青銅騎士団の拠点から去った後、ソラルはようやく人心地付けると椅子に座り体をだらりとさせた。

 その様子を見ていたエーリクは苦笑しながら彼に言う。


「お疲れ様でした。ですがあなたも一騎士団の副団長という立場なのですから、例え相手が黄金騎士団だったとしてももっと堂々としていればよろしいでしょうに。」

「出来るわけがないだろう。それに、それだけじゃないからな。」

「もしかして、バーナードの件を気にしているのですか。あなたに責はありませんよ。」


 立場上責任がないはずはないのだが、それでもあえてエーリクはそう告げた。

 

 青銅騎士団において貴族出身の騎士がその高いプライドで平民出身の騎士に絡んできたり、あるいは平民出身の上官の命令を聞かなかったりすることは度々あるが、バーナードの場合はそれが特に酷かった。

 最近では副団長であるソラルの命令に従わないことも多く、職務放棄もみられていたのだが、今にして思うとそうして盗賊達との接触時間を確保していたのだろう。


 エーリクの言葉に対して、ソラルは首を横に振った。


「それを御してこその副団長という立場だ。それにな、今回の一件は何かと自分の黒さに気付かされたのだ。」


 バーナードの罪が公にされないと知り安堵したことや、それに伴いまだ若い冒険者の手柄を無かったことにしたこと、そして血の契約を強要したこと、上からの命令だと言ってしまえばそれまでだが、文句の一つも言わずに実行したのも確かだ。


「それこそ上手く御して下さいよ。綺麗なままで組織が機能するはずはないのですから。それはそうと、手に持っているそれは何ですか?」

「あぁ、これか。」


 アールノに渡したが見もせずに返された紙を、ソラルはエーリクへと見せる。


「ギルドに問い合わせたセイランスという冒険者の情報だ。まさか見もせずに返されるとは思わなかったが。」

「そりゃあ、黄金騎士様は冒険者の情報になんて興味を持たないでしょうね。」


 そう言いながら、エーリクは情報に目を通す。


「セイランス、種族は獣人。冒険者歴は半年未満、登録場所はデルムの街。サモンド子爵家令嬢の護衛と誘拐未遂事件解決の功績によりDランクへと昇格、ですか。」

「サモンド家といえば所有する領地面積の都合上子爵扱いだが、魔物資源の売買でかなり儲けていると聞く。それに、高ランク冒険者との繋がりも複数あるようだ。接触する前に、サモンド家とパイプを持っている可能性があることだけでも理解しておいてもらいたかったのだが。」

「その後の情報も興味深いですね。希少属性の魔石を多数保有している模様、また近接戦闘に長け何らかの身体強化系スキルを所持している模様。」


 その言葉に、ソラルは小さく頷く。


「盗賊や男たちから話を聞いたが、近接戦闘に優れているのは間違いないようだ。それに空属性、聖属性、雷属性の魔石を所有していたらしい。取調室でも好き勝手やってくれていたしな。」

「話を聞くとかなりとんでもない人物のように思うのですが?」

「だから情報の最後に印が押されているだろう。」


 確かに、エーリクの持つ紙の最後には剣と盾、そして狼のような魔物が混じった印が存在していた。


「冒険者ギルドのマークとは少し違いますね。あちらは確か剣と盾が混じっているだけだったと思うのですが。」

「何だ、知らないのか。それは冒険者ギルドが注意を促す際に用いるものだ。無論何かの強制力を持つものではないが、さしずめ取扱注意といったところだな。」


 セイランスがどの程度自覚しているのかは知らないが、記載されていた情報からウィルフリッドを倒したという非公式な情報まで含めると、彼は間違いなく普通の冒険者とは一線を画している。

 そしてそのことに対して、冒険者の街と呼ばれるデルムで支部長を務めるクリークが何もアクションを起こさないはずはなく、既に彼はマーク対象となっていた。


「へぇ、そういったものもあるんですね。」

「あぁ。とはいえこの場合、おそらくAランク以上に用いる本当の取扱注意というよりは、目を付けているから要らぬちょっかいを出してくれるなということだろう。」


 そう言いながらも、ソラルは先程のことを思い出していた。


 黄金騎士団に所属する騎士相手に何ら臆することなく意見を貫き、さらには自分が青銅騎士団を動かすことを暗に告げても全く態度を変えなかったセイランス。

 もしもあの時伝令が来なければ、一体どうなっていただろうか。


 いや、どうもこうも多少の悪あがきの後捕縛されていたに決まっているのだ。

 だが何故か、ソラルはぶるりとその身を震わせた。


●●●●●


 薄暗い部屋の中でバーナードは静かに時間を過ごしていた。

 もはやまともな未来など待っているはずがないことを考えれば、取り乱したとしてもおかしくはないのだが、彼の表情からは焦りも絶望も感じられない。


「私はこんなところでは終わらない。こんなところで終わる人間ではないのだ。」


 バーナードはそう、独り言のように呟いた。


 確かに自分は白銀騎士団に加入する事が出来なかったし、青銅騎士団においても目立った功績を上げたことはない。

 だがそもそも、それは騎士という職業が自分に相応しくないのだ。

 中央学院の騎士課程とて自ら望んだものではなく、父親の指示によるものだった。


 やがて、バーナードの耳にはコツコツと誰かが歩いてくる音が聞こえてくる。


「ようやく来たか。」


 彼がそう言うのと同時に、開かぬはずの扉が開きローブを深く被った男が入ってきた。

 彼は立ち上がると、その男に向かって不満を口にする。


「遅いぞ、空間魔術師。」

「誓約に従い迎えに来たのだ。文句を言われてはたまらない。」


 バーナードは二杖の光に話を持ちかけられた際、当然今回のような事態が起こり得ることを考えなかったわけではない。

 そして彼は保険として、窮地に陥った際の救助を血の誓約により結ばせていた。


 つまり盗賊業が上手くいけば多額の利益をその手に収めることが出来、仮に失敗したとしても二杖の光の元で新たな活動を行うことが出来る。

 青銅騎士団などで下らない日々を送るよりも、よほど利口というものだ。


「俺はまだ終わらない。さぁ、とっとと連れて行け。」

「あぁ、分かっている。あちらで皆がお前を待っている。きっと、派手な音を立てて歓迎してくれるだろうさ。」


 ゲートが開くと、バーナードは男に続き中へと入っていった。

 父親の言うままに人生を歩み、そして青銅騎士団で屈辱の日々を過ごすのはもう終わり。

 これからは、新しい人生が待っている。


 ゲートが閉じる間際に、何かが弾けるような音が何十と聞こえた気がした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ