9.彼は質問する。
彼は知識を身に付け始めるようです。
あれは、自分のいる環境について質問した時のことだ。
「まま。しゅーらくってなぁに?」
「集落っていうのは色々な人達が集まって暮らしている集団かな。そうやって皆で集まって暮らすことでお互いに助け合っているのよ。」
まずは軽いジャブとばかりに、集落の意味を質問した。
そしてここから、徐々に懐へと潜り込んでいく作戦だ。
「そうなんだぁ。でもおうちってみんなだいぶはなれていない?もっとちかくでたててあつまったりはしないの?」
「近くに他の人の家があると色々と面倒でしょう。離れているくらいがちょうどいいと思うわ。」
二つ目の質問にして、既に予想の斜め上の答えが返ってくる。
確か数秒前に、お互いに助け合うと言っていなかっただろうか。
懐に潜り込もうとしたら既に瞬間移動で躱されていた気分だ。
いやまだだ、異世界の考えを前世の常識だけで判断してはいけない。
俺は再び懐に潜り込もうと次の一手を放った。
「えっと、まま。みんながはなれてくらしていると、どうぶつやまものがおそってきたときにこまらない?」
「魔物は森の奥深くにいるから滅多にこちらにはやって来ないわ。集落に近付こうとする動物なんてほとんどいないわね。まぁやって来ても仕留めるだけだし。」
「へ、へぇ。そうなんだ。そういえばたたかうときってどんなぶきをつかっているの?」
「素手よ。武器があった方がいいんだけど、面倒なのよねぇ。」
まるで荷物を持ち歩くのが面倒みたいな雰囲気で言わないでもらえるだろうか。
どうやら何があっても懐に潜り込ませる気はないようだ。
もしかして俺はとんでもない種族に生まれてきたのだろうか。
獣人の身体能力が高いことは自分の身体で実感しているが、いくら何でもそれは筋力にステータスを振りすぎていると思うのだ。
彼女の話が本当であるならば、おそらく動物達が近づいてこないのは彼らにとって集落が獣人達の縄張りのようなものだからだ。
確かに集落に敵の侵入を防ぐようなものはないし草原だというのに辺りに動物の姿を見かけない。
だが魔物が森の奥深くにいてやって来ないというのはどういうことだろう。
まさか、獣人が魔物にすら避けられる種族ということはないと思うのだが。
「まま、まものってつよいの?」
「ほとんどないことだけど、どこかの集落に魔物が現れたという話を聞いた時はその集落が半壊したそうよ。」
どうやら素手で全てをなぎ倒すとんでもない種族とまではいかないようだ。
魔物によって集落が半壊したと聞いてほっとするとは夢にも思わなかったが、魔物がやって来ない理由は別にあるということなのだろう。
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この世界の種族について質問してみたこともある。
「ねぇ、まま。ぼくたちはじゅうじんっていうやつなんだよね。ぼくたちとはちがうひとたちがほかにもいっぱいいるの?」
「そうね。私達獣人以外にも普人、妖人、魔人がいるわ。」
ふむ、どうやら俺達以外にも三種族がいるらしい。
「そうなんだぁ。ぼくはそのひとたちにあうことはできないの?」
「彼らは森を隔てた場所にいるそうよ。私達は森で狩りをしているわけだけれど、森自体はとても深いの。言い伝えによると森を抜けるのに何年もかかるし、森の奥には魔物もいるだろうからとても抜けられる状況ではないわね。」
どうやら森を超えた先に他の種族たちが住んでいる場所があるようだが、森自体が超えるのに数年かかる深さな上に奥に進むと魔物が跋扈している。
実質的に他種族とは隔離されて俺達は生きているわけか。
とはいえ、情報収集をしておくに越したことはないため、さらに質問を重ねてみた。
「ママも獣人以外の人達をみたことがないの?」
「ないわね。」
「せめて、どんなひとたちなのかしりたいなぁ。」
「そうね。自分達以外の人がいるって言われたら気になるわよね。いいわ、ママの聞いたことがある話を教えてあげる。」
動物「シッ。近づいちゃ駄目よ。」