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6-思い出と約束

「俺の、いや、少し癪だが、教団の目的はここからだ」


 篠田の表情が一瞬にして絞まる。真面目そうに僕の目を見ていた。こんな顔を僕は知っている。篠田が僕を叱っていたときの目だ。僕のことを、本気で心配するときの。


「どういうこと?」

「念のため聞くが、それは私の目的を害するものか?」

「あー、あるいはそうかもな」

「……そうか。ならば、衛が間違った選択をしないよう見守ろう」

「そうしてくれると助かるよ」


 篠田は脇腹を押さえ、冗談めかしく言った。


「さて本題だ。……マモ、お前は力を手にいれた。教団はお前に選択肢を与える。これまで通り普通の学生として平凡に暮らしていくか、迷宮に挑み、人類に貢献する道を選ぶか、だ。マモ、よーく考えろ」


 教団の選択肢か。

 僕は今まで、迷宮に挑み、自分の運命に抗おうとしていた。この都会にやって来たとき、希望を一瞬にして崩されたとき。僕の家族と、アイツを亡くしたとき。神に意思に、引かれたレールに、絶対に従うものかと抗い続けるのだ。何としても僕は勝つ。――だから僕は、平凡な生活なんて望まない――!!

 

「先生、僕は――神に抗います!」


 僕の渾身の一言に、しばし沈黙が続いた。

 篠田の視線と僕の視線が交錯する。まっすぐと来る彼の視線。何があろうとも、僕の決意は揺るがない。


「・・・・・・そうか。わかった。お前の決意、受け取ったぞ」

「それじゃ、僕が迷宮にいくのを許可してくれるの!?」

「バーカ、そう簡単に許可するかよ。まずは力をつけろ。それと、パーティを組め。ソロで迷宮の深層に潜ったところで、早々に魔物にほふられてジエンドだ」

「じゃあ、僕は教団の管理下で頑張ればいいの?」

「それこそねえ。てかめんどくせー。なんで俺らが面倒見ねえと行けねえんだ。お前はこれからも学校にいく。つってもただの学校じゃねえ。シーカー養成校イルミナ――まぁ要するに、この業界の専門学校ってことだな」

「専門学校・・・・・・」


 つまり、そこに通っていけば僕でも正式に迷宮に挑むことができると言うことだろう。しかしならば、ひとつ気がかりな点がある。どうして今まで篠田は僕に戦い方を教えてくれなかったか、だ。こうして僕が専門学校にはいり戦いを習うことになるのなら、もっと前から僕にそれを教えることもできたはずだ。

 篠田は僕を引き取った親代わりでもあるが、同時にここ血十字教団府中支部の支部長でもあるのだ。不可能ではないはずだ。


「篠田、ひとつ教えてほしいことがあるんだ」

「ん? なんだ?」

「どうして篠田は、僕に戦いを教えてくれなかったの?」

「・・・・・・!?」


 僕の一言で篠田の表情が一変する。まるで意表をつかれたように、ポカンとしてしまった。


「そうか・・・・・・いや参ったそう来たか」


 髪をわしゃわしゃとかきながら小声でこぼす。


「なにか、言いづらいことでもあるの?」

「いや構わん。そうだな、何から話すか。――マモ、お前は父親のことどのくらい覚えてる?」

「え、お父さん? 人並みには覚えてるよ。家族の思いでもたくさんある。まぁ、こっちに越してくる前のだけど」


 昔の楽しかった日常を想像すると、少しだけ胸がいたんだ。


「実はな、俺はお前の父親とは同級生だったんだよ。ずいぶん前の話だけどな。だから、お前を引き取ったんだ。お前に戦いを教えなかったのも、それが理由だ。亡き友人の息子を戦場につれてけるわけないだろ?」

「え・・・・・・」


 初耳だった。この東京を災害が襲ったあの年に篠田に引き取られたが、共に生活をしたなかで一度もそんな話を聞いたことはなかった。


「なんで、黙ってたの?」


 不思議とわいてきた怒りが、僕の声を震えさせる。


「悪いな。訳あって隠してたんだ。本当はまだ言うべきじゃなかったんだけどな」

「どうしても、言えないの?」

「・・・・・・ああ。どうしても、これだけは言えない」


 言いづらそうに言葉を紡ぐ彼の顔には、まるで悪意はないように見えた。きっとこれも、僕を思ってのことなのだろう。・・・・・・だけど、それでもやっぱり僕は――。


「――!?」


 強く握った拳に温もりを感じた。それは、アインの手だった。

 彼女は黙って首を降る。それはまるで、僕の感情は筋違いだとでも言うように。しかしそんなことはわかってるのだ。だがどうして、僕は諦めがつかなかったのだ。

 すると今度は、篠田が急に口を開く。


「マモ、お前が無事に学校を卒業できたら、この秘密を話そう。約束する・・・・・・」


 言うと、篠田は僕に頭を下げた。


「篠田・・・・・・。ごめん、無理いって。わかった、約束だよ?」

「ああ」


 問題は解決したわけではないが、不思議と落ち着いた。僕は心のなかで、密かにアインに感謝の言葉を言ったのだった。



  

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