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5-歪みだす道

 弾けた鮮血が白を染める。慟哭はいっそう激しさを増し、両腕に血がたぎる。振り切った赤はまるで血のように。

 衝撃が全身を駆け巡る。視線の先には、いまだ透き通った天井があった。



   +++


 カチ、カチ、カチ。

 僕の目覚まし時計はずれを知らない。ずれたとあらば、気がつく間もなく僕が直すからだ。

 耳には時計の進む音がいつものように響き渡る。

 右手には少女の温もりを感じていた。


(結局ずっと握ってたのか……)


 ソファに横たわり毛布をかける僕の手を放さずに握っている悪魔の少女アイン。楽しい夢でも見ているのか、柔らかく笑みを浮かべながら寝息をついていた。

 彼女の呼吸と共に、ややとがった耳がヒクヒクと動く。まるで猫でも飼っているような気分になり、同時にイタズラ心もわいた。彼女の耳をピンと指で弾いてやる。するとどうだろう、

「んみゅぅ」


 なんとも可愛らしい声をあげた。

 どうしよう、癖になりそうだ。


「…………」


 しかしなぜだろう。

 なんとも言えない既視感がある。これが世に言うデジャブとか言うやつか。以前にもこんなことがあったと思うのだ。……そんなことはあり得ないのだが。なにせ、昨日出会ったばかりの相手だ、触れ合ったことがあるはずがない。

 まあいい。


「さてと」


 朝食だ。

 教団に言われたテストの時間までは余裕がしっかりある。少しゆっくりする分には問題ないだろう。

 部屋の隅の棚からパンとコップを取り出した。パンはトースターに、コップは水をくむ。

 さて、あとは時を待つだけ。

 アインでも起こすとしようか。

 僕は彼女にかけられた毛布の上から、肩を軽く揺する。


「むぅ、なんだ、もう朝か……?」

「そうだよ、おはようアイン」


 眠気眼を袖で擦り、アインはふらふらと起き上がった。どうやらあまり朝は得意でないようだ。

 僕は彼女に水入りのコップを手渡すと飲んで眠気を醒ますよう催促した。ついでに僕も水を飲み、一度落ち着く。

 

「さて、今日は教団のテストがあるんだ。あんまりのんびりはしてられないよ」

「・・・・・・そうだな、うむ」

「? どうかした?」

「いや、何でもない」

「そっか。――あ、そうだ、これなにか知らない?」


 言って僕は彼女に右手の甲を見せる。そこには僕が今まで見てきたことのないマークのようなものが描かれていた。それを見たアインは少しばかり動きを止めると、すぐさま返答した。


「これは、破魔の刻印だな。私と契約することで発現したのだろう。まったく、人間と言うのは面倒な施しをするものだ。衛よ、お前は以前にどこかで処置を受けているだろう」

「え・・・・・・そう、だったかな? 覚えがないんだけど」

「まぁ、例えるならば病の予防接種のようなものだ。忘れていても無理はない」

「そういうもんかな?」

「そういうものだ」


 思いの外アインの押しが強いので、これ以上聞けそうになくなってしまった。

 すると、トースターの音がチンと鳴る。パンが焼けた音だ。どうやら話はここでしまいなようだ。パンが固くなる前に食べてしまわなくては。僕は渋々といった形で、パンを取りに向かった。



   +++


 教団支部にて、僕の引き取り手でもある篠田と幾度か剣を交えた。人を相手にした戦闘というのははじめてで、その上アインとの連携もいまいち。結果は散々なもので、あっという間にサザナミの餌食。僕は軽く怪我をしてしまった。まったくテストだと言うのに手加減と言うものを知らない篠田には困ったものだ。だがまぁ、未熟だった僕も悪い。

 しかし、いったいこのテストでは何を確かめるのだろうか。そればかりが謎だった。


「まぁ、悪くはない」


 それが篠田の第一声だった。


「だがまぁ、マモ程度ならざらにいるから、あんま調子に乗るなよー」


 一言余計だった。

それよりも、僕は篠田の様子の方が気になるのだが。


「ねえ、篠田ずっと脇腹をかばっているように見えたけど、どうかしたの?」

「あ? あぁ、まぁちょいと怪我してな、大したこたぁない。気にすんな」

「そう……」


若干信じられないが、本人が大丈夫だと言っているのだ。きっとそうなのだろう。


「さて、面倒なテストも終わったし、手続きに移るか」

「て、え? 手続き? え、なんのこと?」


 いきなり話が飛躍しすぎて訳がわからない。この白髪やろうにはもっと説明と言うものを要求したいところだ。


「衛、こいつはいったいなにするつもりなんだろうか」

「僕も知りたいよ・・・・・・」 


 ああ、面倒なことにならなければいいんだけど。

 僕は胸に手をあて、ため息をついた。



   +++


 時は暫し遡り、早朝。

 衛と会う前に、篠田は昨日のことについて思いを馳せていた。


「まさか、ここまでシンクロが早いとはな・・・・・・」


 なにやらいくつかのファイルを眺めながら、ボソッと呟く。


「トモアキ、お前のガキが、とうとうここまで来たよ」


 パタン。ファイルを閉じる。

 窓枠の十字で分けられた青空を眺めながら、一人言葉を漏らした。





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