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ドリームウォーカー  作者: D
第二章
8/8

 太陽が中天から地を照らし続けている。軽く蛇行を繰り返す街道、両脇の芝は瑞々しい緑の絨毯を広げ、所々に点在する木々や沼以外に視界へ入るものといえば、遥か遠くに見える山脈のみ。

 軽く首を回しながら歩く九一郎は、隣を歩くバーニャに視線を移した。頭2つ近くほど背の低い彼女の黒髪のてっぺんには、赤い花を模した大きめの髪留めが飾られている。ショートカットにはかなり目立つアクセサリーを眺めていたが視線を前に戻し、ぼーっと物思いに耽る。


 

 ******


 

 ロルブズバーから出た後、初日から時間を長く感じ、夢と違うのではないかと不安になった。夜に睡眠を取り、起床してから不安が倍増。2日目は町を彷徨い、3日目には自分は死んだのではないかと思い始める。死後の世界がゲームと瓜二つというのも馬鹿げているが、とにかく行動を起こすことにした。


 バーニャの母との会話からもたらされた依頼は『娘を連れ、ヘンルーの街へ行って欲しい』とのものだった。見ず知らずの冒険者に頼むのは非常識と思ったが、前にも冒険者を頼ったことがあり抵抗がないそうだ。

 その時の相手は女性とのことだが、本当にいいのだろうかと疑問符が浮かんだ。倫理観や価値観などが少し違うのだろう、ゲームでもよくあることだ、ついでに死後の世界だったとしたら分からないが……と思う。


 出発日まで町の外で手近な獲物を探しレベル上げをすることにした。装備や所持金なし、戦い方も殴り掛かるだけだったが、ここでゲームの仕様が作動する。

 『ロスト・ディスティニー』は初期設定になっていると戦闘と防御がオートになる。これはキャラクターが戦闘態勢に入ると勝手にそれぞれの動作をするということだ。プレイヤーは体の向きと場所をコントロールすることで戦闘が出来る、腕っぷしには自信もなく喧嘩などしたことのない九一郎だったが、相手にしたウサギをものの数発で葬った。攻撃を受けることもあったが、軽い痺れと衝撃を受けるだけなのはありがたい。


 人型タイプはお金を落とすことはないが、毛皮や肉を残すため、とにかく狩り続けた。勝手に手や体が動く感覚は異様な体験だったが、最初は疲れを感じることもなかった。

 町の周辺にはウサギ以外にも、直径15cmほどのミミズがおり、いきなり地面から湧き出したが地中の土から栄養を取った後のカスなのか、土を吐き出すと潜るを繰り返すだけで襲い掛かってくるもない。これはゲームと一緒でノンアクティブという、こちらから仕掛けない限りは攻撃してことない獲物。


 勝手を完全に把握した頃にレベル上がった音が耳元で鳴り、レベル2に上がった表示が視界左下に数秒現れ消えた。経験値のことをすっかり忘れていたが、とりあえず視界右下のボタンでメニュー画面を呼び出し確認作業に入る。1万の経験値を稼いていて、本来であればレベル5をとうに越しているはずなのだが、職業なしはあいかわらず。本来の必要経験値が20倍になっていた。


 若干の疲労感を今さらながら感じる、今日中にはレベル5を超えておきたかったがそうもいかないらしい。オート戦闘でも体は動くし疲労はするようだ、そういえばと腹も減っていることに気付き、アイテム欄を確認するとそこそこの毛皮が集まっているので、町に戻り換金し装備と食事をして仕切りなおすことにした。そしてこれを3日ほど続けた結果、レベル5になり装備を揃え旅に出る準備が仕上がった。



 ******


 物思いから意識を戻し、だらだらち歩きながらバーニャに問いかける。

 「ヘンリーの街って、あとどのくらいだっけ?」

 ロルブを出て1日半、ゲームでは感じ得ない距離をひしひしと感じていた。


 「クォン!しつこいよ 今日はこれで12回目」

 バーニャは俺が掛けた声の数十倍もうんざりしたような声で返してくる。さっきまでは顔をこちらに向けてきて苦情を言ってきたが、さすがにあきれ返ったようで顔さえ向けてこない。

 「後少しで2泊目の集落があるわ、そこに泊まったら明日の朝に宿を出てお昼には着くわ」

 

 かなり攻撃的な返事だが、これでも昨日の夕方までは『クォンさん』と呼び、敬語も使われていた。それが夜から今日の昼間で完全に変化して、呼び捨てと敬語なしとなった。

 まあ敬語遣われているよりは気が楽になったので、言葉遣いは気にしていないのだが、すぐにプリプリと怒るバーニャの性格がおもしろくて聞いているだけだ。回数も正確に数えているところもおもしろい。

 「ごめんごめん」と返したが、ふと気になっていたことを思い出して、話題を変えるために聞いてみることにする。

 「ロルブの町が特殊なのか君のお母さんが特殊なのか分からないが、気になったことがあるんだけど」


 少しだけ顔をこちらに向け視線を飛ばしてくる。活発な物言いと性格なバーニャだが、肌の色はその印象を裏切るほど白くそばかすなどもない。年頃の男ならドキッとするような上目遣い、無意識にこれが出来る女は怖い。俺は恋愛に関しては枯れた男なのでニヤリとして見せたが、「気持ち悪いわね、ニヤニヤして」という言葉の刃を突き刺された。


 「そうそう、気持ち悪いと思うよな。あまり知らないニヤニヤした男を見たらさ」

 「なによ、分かってるなら止めてよ。それが聞きたいこと?」

 バーニャは心底げんなりした顔で畳み掛けてくる。


 「違うけど遠くもない、そんなニヤニヤするような男に娘の護衛を頼むのって普通なのかな?ってさ」

 「普通じゃないわよ! 最近オークのお城が冒険者に負けて野良オークが多くなったのはあるけど、私の町程度じゃヘンリーと行き来する馬車は月に1度あるくらいなのよ。」

 ここで彼女は一度言葉を切って立ち止まり、顔の角度を更にこちらに向けてきた。

 

 バーニャはヘンリーの魔法学校に通っている。2週間の休みがあり家に帰省、来る時は馬車に便乗出来たようだが、帰りは父親が送るという話になっていたらしい。それが料理人の父親に結婚式の料理の依頼が急に入り、メニュー構成作業と食材集めや下準備などの仕事で送ることが出来なくなった。そこで母親は手近な人に声を掛けたがヘンリーに行く人もなく、困っているところまでは依頼者の母親に聞いていた。


 「私は大反対したの! いきなり知らない人と一緒にヘンリーに戻るなんてありえないわ」

 ほっぺたをぷっくり膨らませる顔はかわいらしいが、母親への怒りがこちらに飛んでくるのは正直勘弁して貰いたかった。

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