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ドリームウォーカー  作者: D
第一章
6/8

 声を掛けられている状況、心配そうなのか怪訝を表しているのか微妙な表情、混乱とめまいの中でも声を発しなければいけない、そう思い言葉を返す。


「は、はい。ちょっと……めまいがしたもので」

 この言葉だけは搾り出すことが出来た。

 相手の女性は心配が7割といったところだろうか、表情が少し変わったように感じる。


「あら、今日は日差しが少し強いかしら? それとも何か体のお加減が悪いの?」

 と、柔らかく少しおっとり目な声で、心配するような心情が感じとれる口調であった。そういばクエストの文字テキストでも、しゃべり方は同じだった気がすると思い出す。

 ただこの女性との関わり方が、ゲーム内と明らかに違うことにも思い至る。本来であればそわそわというか、悩んでいる女性に声を掛けることから出来事が始まるはずなのだ。

 しかし今は180度とは言わないが120度くらい状況が変わっている、この状況を打破しなければ飲み物は得られない、いきなり飲み物を要求しようかなどと思い始めていると、


「具合が本当に悪いようね、顔色も良くないわ、中へお入りなさい」

 思いもかけない言葉を貰いとまどいが隠せないが、体の不快感は抜け切らないためお言葉に甘えるように先を立つ女性に続いて、開かれたドアより家の中へと入る。

 ゲーム内ではこの家に入ることが出来なかったことを思い出す。

 内部に入ってみると多数のテーブルに椅子が載せられてた光景が見えた。開店準備前のような広い飲食店風の空間があり、廃業して久しいなどという感じのない、埃を一切感じられない店内。

 いや……すぐにでも営業が出来るような空間がそこにあった。


「少しこれに腰掛けて待っていてね、飲み物を入れてまいりますので」

 こう言葉を掛けてくると、女性は奥へと歩いていった。外から入って一番近くのテーブルの椅子は降ろされているので、その椅子に腰掛けて一息つく。

 待つ間に再度店内を見回してみるが、やはり廃業しているように見えない。綺麗に掃除がなされ休業日のような感じであり、壁に飾ってある城の絵や張り紙のようなポスターのようなものにも、少しも荒れた感じがない。

 なにより気分が沈みこむような空気感がなかった。


 コツコツと奥へ行った時と同じような近づく音が聞こえ、そちらの方へ顔を向ける。

 女性は木製で取っ手のついた、まるで小さめなビールジョッキを持って、こちらに歩いてくる。そして「どうぞ」とテーブルに置き、飲むように促す仕草をした。

 即座に「すみません」と答え、何の飲み物なのか試すように一口含んでみる。さわやかな甘みと柔らかな酸味、何かのフルーツを連想させるようなような味、炭酸などの要素はないが喉を癒すには格好の飲み物であった。

 最初の一口の後は一気に流し込みような勢いで飲んでしまい、「ふぅ」と一息つく。その様子を微笑みながら見ていた女性が口を開いた。


「この町では見かけない方ね、今日はどうされたの?」

 女性は探るほどではないが、さりとて何かを全然期待していなくはない口調を語尾に込め質問をしてきた。

 クエストの内容から考えれば、旅の者と返答するのが正解なのだろうなとは思ったが、そう答えるだけでいいのかとの思いがためらいを呼ぶ。正直に『起きたら芝生に居て』などと言うことがためらわれるくらい、今の状況に現実感があったのだ。

 あまり考えあぐねているのも申し訳ない気持ちが何故か沸き起こり、クエスト内容に沿うような返答をすることにした。


「世界各地を旅をしているんです。訪れた町で何かのお手伝いをして、日銭を稼ぎながら」

 女性の興味を引くであろう台詞を散りばめ、反応を伺いながら言葉を紡ぐ。最初の言葉を聞いた時に、ちょっと頭に疑問符が浮いているかのようにも見えたが、後半になるにつれ表情が明るくなっていくのを感じた。

 これは良い反応であると思う。後はクエストの内容を語ってくるのだろう、先ほど飲んだ飲み物が関係するはずの依頼だ。そして女性の意向に沿った返答をすればいいはずである、そんな浅はかな考えを彼女はいともあっさりと崩す言葉を、この後放ってくるのであった。

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