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ダンジョン×キメラ  作者: mebius
バケモノの生まれた日
8/11

ダンジョンに危険はつきものです。


「何見てるんですか?」

「なんで敬語なんだ?」

「え……いや」

 

 朝。事務所前で待ち合わせをしてシズクと落ち合う。

 昨日もそうだったけど、シズクはどうやら予定よりも早く待つ習性があるようだ。

 

 それにしても、だ。

 これは完全に昨日のおっさんのせいだろう。

 自分の中でシズクの見方が少し変ってしまったような気がする。

 無表情ながらに少し俯いて顔を伏せてる様子が、今は距離を測りかねてどう接したらいいか分からない女、なんて風にも見えなくもない。

 

 あいつは良い女だぞ、とすり込まれてしまったか。事実恥ずかしそうにしてる風にも見える今はこう……なんというか……多少。こう胸にくるものがない訳でもない。

 

 性格は置いておくとむしろ性格だけ場外満塁ホームランでどっか行ってこい的に除外してみると、ほんと美人だろうとは思う。

 あまり近寄らずに見てる分には眼福というものなんだろう。


 昨日一晩考えてみたけれど。あの話が本当ならちゃんと治療してくれるようではある。

 かと行ってこれだけ俺との相性が悪そうならコンビで居るんじゃなくて仲間を増やした方がいいんじゃないだろうか?


 次は男の方がいいだろう。その方が精神衛生上にもバランスが取れていい。

 で、そいつとしゃべっているか、シズクを押しつけてしまえばいい。

 

 どのみち、と言う訳ではないけど、自分がアタッカーになるとすればシズクを守れる者がほしい。錬武士の守りに寄ったタイプ。

 そんな仲間がいれば周りを気にせず闘える。

 戻ってきた後もシズクとつきあいがあるのなら。仲間を募集してみるのもいいかもしれない。

 

 白魔力を扱えない以上いつか必ず仲間が必要になってくると思うから。

 

「何呆けてるの?」

「ん? あぁ、今日は三階層を目指す。明後日には一度戻らないといけないから」

「……そう」

 

 この三日でそれなりに彼女の性格はつかめたと思う。

 この後はやっぱり


「好きにしたら」

 

 だろう?


 ◇◆◇


 三階層"グレート バレー"

 

 ダンジョンは異界である。

 そう錬武士入門の書にはある。

 それは魔物ひしめく人外魔境という意味。そう、それは勿論あるだろう。だけど、それだけですべてを指してる訳ではない。

 

 まぁ、だって。この景色を見たら。だれだってそう思う。

 

 一言。


「なんでダンジョンに山があるんだよ」

 

 いやほんと。おかしくないか?

 上を見れば空がある。太陽がある。

 三階層入り口。それは神殿のようになっていて。

 入り口からでてみれば山の上から大事が一望できる。

 遠くに見える森には川が流れてるのが見える。

 

 まぁでもこんな綺麗な景色をみたのは初めてなような気がする。

 

「なぁ、おい見て見ろよ。絶景かな」

「何はしゃいでんの?」

「つってもおい。さっきまでなんかそわそわしてたくせに」

「な……そんな訳ないでしょ」


 つい、一時のテンションに任せていじってしまった。実はこいつ弄りやすいんじゃないだろうか? なんて思うのも一つ。もう一つは昨日話を聞かされたせいでもう少し仲良くしてみようか、なんて思ってしまっているのかもしれない。ただ、こいつの態度からして、ビジネスライクを求めてるのだと思う。その辺りはちゃんと線引きをしないと。


 だからって無駄話しをしない理由にはならないけど。


「すげぇなぁしかし。おい」

「黙って」


 少々へそ曲げてしまったようで。黙る事にします。今日中に気合いを入れてバファロスを狩らないといけないし。これだけ広大だと獲物を見つけるのも一苦労だと思う。

 

 しかしこれだけ広いと闇雲に捜しても見つかるかどうか。


 

「なぁ、三階層に来たことは?」

「……ないわ」

 

 少し期待したけど駄目だったみたいで。まぁ仕方がないだろう。

 シズクはほぼ一日でパーティを解散してきた。


 そのうちダンジョンに潜るパーティもあれば潜らないパーティもある。

 昨日おっさんと話して少しずつ見えてきたけど、あまりこんなに頻繁に潜るパーティはそんなに多くない。特殊錬金術師の多くは、街で仕事をしながら、たまに入る事があるくらいらしい。定職に就く事に一抹の不安がある俺の場合。がつがつ潜らないと稼げない。一般的な暮らしでは少し余裕があるくらいはこの二日で稼いだけどまだ武器の調整も行っていないし。どれくらい金が動くのが分からない以上街にいる間は稼げるだけ稼いでおく方が良いだろう。

 

 危険は大きいけど稼ぎも大きい。それがダンジョン潜入で、案外それがシズクがまだ俺と組んでる理由かもしれない。どちらか片方が嫌ならいつでも解消できる関係なんだから。 

 

 シズクは我関せずを貫いているようなので。一人で決めて歩き出した。

 今日は動きやすいさを重視する為に魔物のはぎ取りはしない。

 バファロス一点狙いだ。

 

 とは思っていたんだけど。

 

 魔物がいない。

 全然。

 控えめにいってもこの第三層、広すぎる。

 これって下手したら一日に一度も魔物も遭わないんじゃないだろうか。

 

 日が高くなっていた。

 ダンジョンの太陽と地上の太陽。時間が合っているのかはわからないけど、少なくとも昼にさしかかろうとしてるような時間になっているのは確かだ。

 三階層に出るために、いつもよりも早く出ていたにもかかわらず。

 

「昼食にしよう。休憩」 

「……」

 

 シズクから返事はない。というより。その顔を見ればあまり顔色がよくない。もしかしたら、失敗したかなって。自分が大丈夫だからって他の人が大丈夫とは限らない。とりわけ彼女は女性だ。いや、それは注意してたつもりだったんだけど。まさしくつもりだっただけというか。バファロス狩りの想いが強かったのもあって。大丈夫だろう。くらいで思ってた。

 

「もしかして疲れてるか?」

「別に……」

 

 どう見てもあまり大丈夫じゃないような気がする。

 一度そう考えると色々考えてしまう。


 昨日そういえば声をかけてきていた。

 あれは、『疲れを取るために休みたい』と続くはずだったのかもしれない。気が強いと思ってたからシズクならずばずばいうだろうと勝手に考えていたけど、もしかして押しに弱いとか、あまり言いたいことが言えない、なんて面があるのかもしれない。


 誰か気が付くリーダーがいればいいんだろうけどな、暫定的に俺の行動につきあってもらってるんだから。俺が気をつけないといけない所だと思う。

 こういう所も考えていかないといけない所なんだろう。リーダーなんて柄じゃないけど。せめて今シズクに対しては俺に責任があるから。

 

 そうと決まれば。俺は甲斐甲斐しくシズクの世話を焼く事にした。

 水を用意して。昨日取ってきた蛇の肉料理……はいやがれそうだったので疑似肉と疑似野菜を炒めて簡単な料理を造った。

 乾パンも用意してあるけど、あれはくっそまずいし。まだ疑似材料の方がましだ。

 

 最悪今日は中止する事も考える。

 

「大丈夫か?」

「なんで世話やくの……?」

 少しいつもの隔絶した空気が温和な気がする。あくまで主観だけど。疲れてると人間甘えたくなる。どれだけ強いやつでもだ。俺はそう思う。


「俺の失敗だから」

「……うざい」

「そんなのしらねぇよ。今日ここに連れてきたのは俺だ。だから俺の責任だ」


 本当うざいかもしれない。

 だけど、俺はそれでいいと思ってる。

 だって、シズクは赤の他人で、何を考えてるか分からない。所詮相手の考えてる事なんて判らないんだから。こうしてやりたい、そう思う事をすればそれで良いと思う。拒否されればそれはそれでいい。そういうタイプなんだなって思って、次に生かせばいい。

 

「……ほんとうざい」

 

 なら、もっといやがれよなお前。

 

 休憩をとって一時間くらい。

 何事もなく過ぎていく。

 

 と言うのはダンジョンにおいては無理な事だったのだろうか。

 それは唐突に起った。

 

 びしり、と音がなる。

 

 それは不可解な音で。

 

 びきびきと亀裂が走る。

 

 それは異常な光景で。


 立ち上がった俺はそれを見る。

 シズクも立ち上がり。武器を手に黒鋼を武器化する。

 

「おい……あれは?」

「……たぶん……エンデミック」


 ダンジョンにおける危険信号の一つ。

 

 エンデミック。エピデミック、パンデミック。

 この三つ。

 

 規模こそ違えど。これをみたら即座に逃げるようにと錬武士の本には書いてある。

 

 ばきばきと音を立てて。"空間"が崩れる。

 

「逃げるぞ」

「間に合わない」

  

 ばりんと、ガラスが割れるようなそこには無いはずの音がなった。

 

 エンデミック。

 どのダンジョンにおいてもその危険度は大きい。

 通常魔物の討伐は大人数に対して一体。各個撃破が基本だ。

 それは人よりも魔物の方が魔力が大きくて、動きが俊敏で体が頑丈で。力も強い。

 そもそもが自分よりも強い存在を相手にしているのだ。

 だから、より強い存在を生み出そうとしてキメラやホムンクルス、強化人間なんて生み出された。

 そんな魔物が自分達よりも多ければ?

 

 逃げるだろう。

 でもそれが数倍、数十倍。数百倍になれば?

 

 それがエンデミック。

 数百の魔物の群れが突如。現れる。

 

 

 目の前にバファロスの大群が現れる。

 体躯大きく。人の身の丈よりも大きく。

 頭部から伸びる二本の角は逆巻き赤い魔力を宿している。


 その性獰猛で人を見れば襲い。

 突進に巻き込まれればひとたまりもない。

 

 

 ぎり、と歯が鳴った。

 自分の不甲斐なさに。

 準備を怠った。

 だってそうだろう?

 連れは体調を崩している。

 

 気が付かなかった。

 それで命を落す。

 浅慮、そう言われても仕方がない。

 

 まさか体調を崩しているとは。

 まさかここでエンデミックに遭うとは。

 

 まさか、まさか。まさか。

 

 そんなもの。通用しない。

 どんなに不運な事でも。

 どんなに理不尽な事でも。

 それは起る。


 死んでからああしてれば、なんてさ。思う事すらできなくなるんだから。

 

 さらに不運は重なる。

 悪い時はとことん悪くなるものだ。

 

 エンデミックの発生現場。

 それはダンジョンの扉側で

 あっと言うまに俺たちは包囲された。

 

 背後は崖。

 俺の後ろにはシズクが控える。

 でも戦力にはならない。

 

 だから。俺がやるしかないんだ。


「はぁあああああ!」

 

 放出系剣技、五月雨。

 

 俺のもてる技はまだ少ない。それこそ一辺倒と言って良いくらい。

 ただひたすら。剣身に青魔力を奔らせ一心不乱に剣閃を放つ。

  

 効果はある。

 現に傷つけてる。

 だけど、そもそも黒鋼は遠距離に向いた武器じゃなくて。

 10等級ナイフの剣閃はそんなに威力が高い訳でもなくて。

 

 次々の剣閃の嵐をバファロス共はかいくぐってくる。

 一匹、二匹と三匹と近距離まで近づいてくるバファロスの正面に立って赤魔力を込めた脚で後ろ回し蹴り。

 吹き飛ばされそうな体を無理矢理足をめり込ませて耐える。

 動きが止まった所を赤魔力を込めたナイフ。

 頭部に突き刺す。

 

 でも、まだ終わらない。

 

 二匹目は少し離れてる。

 三匹目も迫る。

 

 間に合わない。

 

 シズクも赤魔力で体を強化している。

 でも立ち上るオーラは弱々しくて。

 

 感じる。

 あれじゃ駄目だって。

 

 足に青魔力を奔らせた。

 これは、詰む。

 

 だから走る。

 それが起るよりも早く。

 

 判断の遅い俺だけど、ここだけは遅くては駄目だ。

 

 二匹目のバファロスがシズクに体当たりをかます。

 

 結果。

 

 吹き飛ぶ。

 そうだ。吹き飛ぶ。

 シズクの体と、バファロスの体重差を考えれば当たり前だ。

 

 後は、どれだけ飛ぶか。


 だん、と耳朶に蹴り込んだ足音が響いた。

 もどかしい。

 

 俺の足はこんなに遅かったか?

 一歩一歩、死ぬ前と比べて遙かに強靭な踏み込み。それでも遅く感じる。

 

 宙に飛ばされるシズクと目が合った気がした。

 笑ってる?

 あいつの笑った顔を見たのって初めてだよ。

 つか、笑えんのかよ。

 雪女だろ? あ、雪姫か。


 でもさ、なんでそんな悲しそうな訳よ。

 いらっとするぞそれ。

 あぁ、いらいらする。


「間に……あえぇええ」


 地を駆ける。

 その次は?

 勿論。

 

 空を駆ける。

 違うな。

 

 空へ跳ぶ。

 

 手を伸ばす。

 

「な……ん……」

 

 何か言ったか?

 しらん。

 

 そんな笑顔を浮かべるなら。

 お前は驚いとけ。

 

 

 ほれみろ。やったぞ。

 捕まえた。


 間に合った。

 後は簡単だ。

 

 胸に抱く。

 つか、華奢だな。

 男とは違う。

 まぁ~いい。

 

 博打だ。

 そう博打。


 華麗に助けろ?

 無理に決まってる。

 俺を誰だと思ってる。


 誰でもない。


 ただの力のない小僧だ。

 失敗ばかりする小僧だ。

 

 味方を危険にさらした阿呆だ。

 

 だから博打。


「はははぁ! キメラの体はどこまで持つかなぁ」

 

 そうそれだけ。

 後は赤魔力を身に纏ってみる。

 

 俺の体を下敷きに。

 それで助かる?

 助からないかも。

 でも、方法がない。


 おぉ、こぇえ。

 ふわりとした浮遊感が続々と駆け上ってくる。反面。俺の体は落ちる。 下がどうなってるか?

 しるかよ。

 

 つか、こんな事ならもう少しだけ話しておけばよかったかな。

 まぁ、お互い生きてたら、まずは謝るか。

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