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ダンジョン×キメラ  作者: mebius
バケモノの生まれた日
7/11

歪な関係


 二階層"ルーキー狩り"

 とてもわかりやすい名前だと言わんばかりのダンジョン二階層。

 名前の通り一階層に慣れた頃、二階層に到達したものが足下をすくわれる。なんて所に由来する。

 過去最高到達回数である15階.その先は未だに誰もみた事は無いけど、それまでの各階層の情報は事務所で情報を閲覧できる。


 戦力としても貴重で決して代えの利かない特殊錬金術師。その数を守る為には死んでもらっては困るとお互いの足を引っ張る、と言う事は数少ない。討伐よりも魔物が増える方が多い。そう判断されているから。皆魔物の情報や各階層の報告は必ずと言って良いほどみんなするそうだ。


 パンデミック、そう呼ばれるダンジョンから魔物があふれかえって街を襲う現象はいつか起りうるものとして日々研鑽を積む毎日なわけだ。

 

 そんな二階層"ルーキー狩り"は薄暗くて壁に生えてる光る苔が唯一の光源で、いよいよダンジョンらしくなってきたな、なんて暢気に思われるかもしれないけどそんな感想だ。

 

 シズクは後を歩いていて。相変わらず終始無言だ。今日こないんじゃないだろうか? そんな風にも思ってたけど約束の時間にちゃんと来た所か先に来て待っていた。挨拶くらいは返したけど、やっぱり冷たい態度は相変わらずで二階層に行く事を伝えたら「好きにしたら」くらいしか返してこなかった。

 

 完全に合わない相手ではあるのだけど、二階以降彼女の協力は必要といえる。

 二階層に出てくる敵は魔力に慣れてきた者の足下を掬ういやらしい敵が出てくる。

 毒や麻痺といった気を抜けない攻撃をしてくるものがいる。

 特に麻痺は即効性が高く、麻痺させられた後動けない所をさらに毒を与えられたり、なんて事がある。一応応急処置用に解毒薬は用意してきたけど不安は不安だ。

 

「なぁ、今何か聞こえなかったか?」

 暗闇の奥から。

 何かが飛び出そうな気がして。念のためナイフ状態にした黒鋼をもった。 

「さぁ」

 と帰ってきたのはにべもなく。

「さぁって。なんたらバイパーとかいうのかもしれんぞ」

「知らない」寸断無く言われる言葉は人の話を聞いていないようにも感じられる。

「知らないって……はぁ、まぁいいや。とりあえず、麻痺か毒。そういう申告な表情がでたらすぐに回復してくれ。金は払う」


 分かったのか分かってないのか。頷きもせずにそっぽを向かれる。

 正直、男だったらぶん殴ってる所だろう。俺ももはや教師として見ているわけでもないから敬語で話してないけど、もしかしたらそれが不機嫌の原因かもしれないとも……試す気は起きないけど。


 治してくれるかすら分からないけど。その時は自力でなんとかするしかない。元々一人で潜る気ですらいたんだからそれくらいの心持ちでいた方がいいだろう。

 

 と、また音が聞こえた気がした。


「おい」

「……なによ?」

「いや、なんでもない」

「……そう」


 藪蛇だろう。声と彼女を見て分かった。怖いんだろう。声は震えて、自分の体を抱くようにしたその姿は気丈に見せていても隠しきれてない。


 すこし、まいった。

 だって、自分で思っていた以上に俺はこの女を頼ってる。

 こいつがどんだけ経験が深いかはしらないけど、俺よりは経験があるだろうと、だけど。考えてみたら錬命士は大して戦闘力を持たない。


 回復が主なものでサポーター役。あの棒術にでも使いそうなものだって。どこまで使えるものか分からない。そもそも錬武士である自分が前にでて闘わないといけないもので、パーティでもない、たった二人のコンビで。しかも相方は頼りなさそうなルーキー一人。そりゃあ不安にもなるか。

 気合い入れるか。

 

 どちらにせよ。戦闘は俺がメインで。こいつは後衛。


「前を行く。後から着いてこい黒鋼でサポートを頼む」

「……命令しないでよ」


 とはいいつつ。黒鋼をちゃんと武器化するんだから。思うよりも根は素直なのかもしれない。後は俺がしっかりすれば。武器化して。両手にもったナイフに赤の魔力を奔らせる。準備は万端。いつでも闘える。


 ◇◆◇


「ふっっ!」


 気合い一閃。

 暗闇の中赤い軌跡が宙に描かれる。

 目の前に威嚇するヒュージバイパーを一撫に断ち切る。

 上空から突撃かましてきたパラライズバットに脚部強化した足で蹴りくれる。メキリと致命的な音を残して吹き飛ぶパラライズバット。

 

 奥、三匹。

 

 放出系剣技。五月雨。

 

 青の魔力を宿した幾重もの剣閃が乱れ飛ぶ。

 大まかな狙いしかつけない適当な技で、10等級の黒鋼で速さを優先する青魔力の刃は弱くそれでも傷つけるには十分で首、胴体と三匹の蛇を切り刻む。一度に20も30も切りつければそれだけで致命傷だ。

 まぁ、技というのもおこがましい。青い剣閃をただひたすら飛ばし続けるだけなんだけど。勝てば官軍。なんでも良いだろう。

 

「意外にあっけなかったな?」

「何で私に聞くのよ」

「なんとなく」

「なにそれ」

 

 なんて息を飲んでたシズクに話すけど。実は結構気分がいい。これで二度目だし、気がついた事がある。闘うと自分は昂揚するようだ。と誰しもそういう部分ってあるんだろうけど。愉しむなんて程だとは思ってなかった。シズクの冷たい態度でも気が萎えない程度には昂揚してた。

 

「はぎ取り、する?」

「しない」

「さいですか」

 

 うちの冷血姫ははぎ取りがお気に召さないらしい。ふむぅ。なんて思ってたら睨まれた。蛇のはぎ取りは牙に皮に肉も使える。コウモリの方は羽だけだ。コウモリの魔石はかなり小さいが、蛇の方はヒュージなんていうくらいだから魔石も大きい。

 

「……なんで笑ってるのよ」

「いや……結構高く売れるらしいから」

 

 蛇皮って財布とかに使われてなかったっけ?

 あれ……財布?

 蛇皮の財布?

 なんか頭に引っかかるような。

 まぁ、いいか。俺は細かい事は気にしない男だ。

 

「それに蛇の肉は結構いけるらしい」

「ぞっとするわね」

「まぁ高く売れるならそれでいいし、今日は蛇肉だ」

「ちゃんと私の分は換金して渡してよね」

「勿論」

 

 蛇四匹にコウモリ。大物の獲物なだけにそれだけでバックパックがいっぱいになった上収納していた袋も使ってしまい今日はこれで帰る事になった。

 上機嫌な俺と違ってシズクは相変わらず無愛想なままだったけど。気にしても仕方がない。


 

 ◇◆◇

 

 換金して金を渡す。

 明日の待ち合わせ時間を決める。

 それだけだ。昨日とほぼ同じやりとり。

 ただ。昨日と少し違う出来事。

 

「あの……」


 別れようとした時に珍しく自分から話しかけてきたシズクに少し驚いて振り向く。


「なんだよ?」

「……なんでもない」

「あっそう。それじゃあまた明日な」

 

 ただ、それだけの事だった。

 上機嫌だった俺は宿に戻ると蛇肉を渡して調理してもらえるように頼んだ。

 記憶を失って以来、疑似肉以外の肉を食べるのは本当に久しぶりで。生前の俺が蛇を食べたことがあったかどうか、少なくとも味に記憶はなかったけど。くにゅくにゅとした歯ごたえに淡泊な味わいは久しぶりに満足いくものだった。

 

 二日続けて一階層、二階層の攻略。明日には三階層に向かおうと思っている。こちらに来て4日が立っていた。実の所ばあさんの誕生日は明明後日に迫る。明日にはバファロスを仕留めて明後日には家に向かいたい所だ。

 そんな事をテーブルでゆっくりとお茶を飲みながら考えごとをしている時だった。

 

「なぁ、兄ちゃんが今"雪姫"と組んでるやつか?」

 

 雪姫? なんて言われて少しぴんとくるものがある。あいつだろう。

 

「なんて呼ばれてるか知らないけど、組んでる女ならいるな」

「シズクってやつだろう?」

 

 腕を組んで男を見てみる。何か面倒事か? とも思ったけどなんとなくそんな感じはしなかった。だから正直に話そうと思った。そもそもそんな腹の探り合いみたいな真似はできんし。


「そうだな」


 それにしても雪姫って。まんまだなおい。イメージできてしまうんだから仕方がない。


「すげえな兄ちゃん」


 なんて言われても意味が分からない。首を傾げる。何故組んでるだけですごいんだろうか。


「いやな、雪姫と組んで二日ともったパーティはいないんだよ。コンビなら尚更。誘われればパーティに参加してたんだけどな一日参加すればリーダーに首を言い渡されてすぐに追い出されてた」


 まぁ、それもそうなのかもしれない。あれだけ協調性がないというより、協調しませんなんて自己主張してそうなあの態度は反感を買いやすいだろうし。だからと言って俺にはあまり関係がないような気がする。


 いや、こんな風に"関係ない"なんて切り捨ててる時点で駄目なのかもしれない。ほとんど会話もせず、自分にとって都合のいい関係であるから一緒にいるだけ。なんて風に考えてるけど曲がりにも一応は仲間なんだからもっと興味を持つべき……だろうか?


 だからと行ってすぐすぐじゃあ興味を持ちますか、なんてできる訳もなくて、俺はただ「へぇ」なんて気がつけば答えてた。


「なんだ兄ちゃん。気の抜けた返事しやがって」

「あ? いや。ちょっと考えててな。それで? 意外と普通だと思うけど? あいつ」


 お? なんて表情されても困る。何を気をはってるのかしらないけど。慣れてこれば打ち解けるのかもしれない。それまで一緒にいるかどうかは知らないけど。

 

「分かってるじゃねぇか兄ちゃん。いや。むしろあいつはいい女だと思うぞ」

「見た目はな」

 正直な感想だ。

 見た目は確かに飛び抜けてるものがあるけど、仕事に関しては分からない。性格はあれだし。魔力の使い方を教えてくれた事は素直に感謝している。だけど昨日は兎も角今日ははぎ取りもしなければ、回復だってやって貰えるかどうか分からない、なんて点はどうかと思う。

 

「まぁ見た目もいいけどよ。雪姫がよ。うちのパーティに居た時によ。俺が酷い怪我をしたんだよ」

「へぇ、 それで?」


 少し興味が沸いた。自分が怪我した時、どういう行動を取るのか分かるかもしれないし。


「足がいかれちまってすぐには直せない傷だったんだけどよ。あの子一人残ってずっと治療してくれたんだよ」

 

 こいつ……泣き上戸か……酒が入ってるせいかおっさんの涙声は少し……いやここは我慢しよう。

 

「へ、へぇ……それは献身的だな」

「そうなんだよ!」

 がばっと顔をあげるおっさんは鼻水垂れ流しだ。厳ついおっさんが涙でくしゃくしゃになった顔は子供なら泣きそうなものだと思う、だからぐいっと顔を近づけてくるのはやめてほしい。


「『頑張ってって』あの子はずっと俺につきっきりになってくれたんだよ」



 なんだそれ?

 想像してみた。

 シズクが俺の手をとって頑張ってって涙ぐましく……

 

 ないな。

 ないわ。

 普通にない。

 想像ができん。

 

「だからな、お前みたいにちゃんと一緒に居てやれるやつが出てきて――」

 

 つらつらとおっさんはシズクの良いところを立て並べられて夜は更けていった。


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