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ダンジョン×キメラ  作者: mebius
バケモノの生まれた日
10/11

和解したようです。

 丸い月が暗闇を照らしてる。

 第二層へと戻る扉の前で月明かりを浴びて双眸を赤く光る。

 それは人のようで明らかに人と違う。

 蹄の足を持つそれは逞しい。けれどもそう見えない。

 上半身が異常なのだ。

 盛り上がった筋肉は赤銅の皮膚の上からでも瘤が見えるほどで雄牛の顔に逆巻きの双角は赤く光っている。

 赤く。大きく。強靭。その手にもつのは斧。

 斧からは赤い液体がしたたり。岩肌をぽつぽつと赤くしみを作っている。

 強靭な魔物は空へ向かって吼える。

「ブォオオオオオオオオオオオオオオオッ!」

 大気が震える。

 近くで聞けば鼓膜が破けるほどの音量で吼える。憤りを発散させるかのように。

 雄牛の周りには三つの赤く染まった肉。

 最早何の肉だったのかも分らなくなってしまったその近くに黒い金属と白い金属で作られた武器が転がっていた。

 

 今にも暴れ回りそうなその魔物はしかし、扉の前で陣取り。身動きしなかった。

 

 ◇◆◇



「疲れたらいえよ?」

「うん……まだ、大丈夫」

 

 密林。

 崖から落ちた俺たちがどれくらい流されたのか分らない。ひとまず川伝いに上りながら、丘になった所を捜していた。

 闇雲に捜すよりもそっちの方がいいと思った。それに水を確保する手段でもある。荷物がけの上に置きっぱなしで水筒もその場に起きっぱなしの俺たちには水源の確保は必要な事だ思ったからだ。

 

 少し遅れ気味のシズクを振り返って見る。

 

 疲れてきては入るみたいだけどまだ、大丈夫。顔色はいい。

 

 昨日のようにシズクの体調が悪くなる前に、念の為によく見ておくつもり。今の所は大丈夫だと思う。自己申告だけでは少し難しいと思うから。ナイフで周りの草を刈り取りながら進んでいるから。シズクもまだ歩きやすいはずだし。


 一日経って。気恥ずかしくなったのかシズクはあまり顔を合わせようとしなくて、でもそれは今までの険悪なムードがある訳でもなかった。

 相変わらず二人の間に言葉はすくないけど。それでも今までとは雲泥の差だ。


「……ごめん。遅れてるよね」

「無理に急いで余計疲れる。そっちの方が困る」

 早く帰りたいのは二人とも同じだけど。何があるか分らないから一定の体力は残しておかないと。

 現にここまで来るまで既にバファロスを二体討伐している。荷物を運べないから回収はしてない。


 それにしても、

 

「エンデミックの影響だよな?」

「さっきのバファロス?」

「あぁ。多いよな昨日はほとんど出てこなかったのに」

「うん……助かる……居てくれて」

「そうだな、一人じゃどれだけ居ても辛いよな」

「そうじゃなくて、あのバファロス」

「バファロスがどうかしたのか?」

「普通は三人から四人くらいで狩るから、二人だけの状況で、相手がタツヒトじゃなかったらもっと危なかった」

「はは、心強いだろう?」

「うん……心、強いよ」

「…………」

 

 いや、冗談で言ったつもりだったんだけど。薄くほほえむシズクの笑顔が少しまぶしくて、タツヒトは顔を背けた。まさかそんなに素直な返事が返ってくるとは思わず。あれ? 何話そうなんて。少しテンパっている。

 

「ねぇ、少し気になってたんだけど……いい?」

 助かった。多少息を荒げながらシズクが尋ねてくる。俺はというと動揺を悟られまいと黙々と草を断ち切っていた。


「え? おお。何?」

「魔力、減ってない? そんなに使ったら」

「何? 魔力って減るのか?」

 驚いたよ。

 何か減ってるような気なんてしなくて。昨日ぶりにシズクの冷ややかな目線を見た。


「……ううん。教えてない私が悪いから。普通はそんなに長時間使ってってられない。だからみんな節約しながら使ってる」


 魔力の話しを聞いてから便利だからって歩いてる時も青魔力を纏ってる。うっすらとだけど。これだけ便利なんだからシズクもずっと使ってればいいいのに、なんて思ってたけど。


「へぇ、これくらいなら丸一日使ってても何か減ったような気はしないけど?」

「……呆れた」

「そうか、まぁ多いのに越したことはないな」

「そうだけど。黒鋼に奔らせるのは注意して」

「どうして?」

「武器が消耗する。魔力を使い出してから三日間一度も調整してないでしょ?」

「持ってる俺が頼んだ記憶もないしな」

 大げさに首をすくめる、ちょっと真面目な顔でシズクは睨んだ。

「……ちゃかさないで。10等級ならそろそろ調整がいるかもしれない。最悪ダンジョンを抜ける前に壊れるかもしれない」

「それは困る……」

「うん、ごめん、これも言ってなかった事だから……今はタツヒトが頼り……頼りにしてる……」


 だからなんでいちいち人を照れさせるよう事をいうんだこやつ。


「そうか、俺も頼りにしてるぞ。回復、頼んだ」

「え……うん」

 シズクから注意を受けて俺はナイフを見る。

 頼りない。

 10等級の最低品で魔力を奔らせられる量も少ない。刃渡りも短いこのナイフは直接攻撃は急所を突くくらいしか効果がない。魔物の体は強靭でちょっとやそっとの切り口じゃ魔物は倒せない。思えば、自分の攻撃力にも不安が残る訳だ。

 壊れるって言葉を聞くと、不安にもなる。唯一の生命線と言えるのがこれだから。今は贅沢を言ってられないけど、割合緊急性も高い。


 

「ねぇ!」


 森を抜けた先は行き止まりだった。

 川を挟むようにして崖になった岩がそそり立っていて。頂上はかなり高い。ごつごつとしたいわばは直角でどこにも行きようがなかった。


「どうする?」

 シズクが頂上を見上げながら尋ねてくる。この崖。多分だけどこの崖を登った所から進めば。落ちた所へ辿り着くと思う。

 

 崖沿いに歩いて行くのもいいけれど。俺は崖を見上げながら隣に立つシズクに言った。


「登ろう。崖がどこまで続いてるか分らないし。もし距離があるなら水場が確保できるかどうかも分らない」

「……でも」


 岩肌を撫でてみる。凸凹した岩はとっかかりにはなると思う。

「やった事はない……と思うけど。ボルダリングの要領で上がれるんじゃないかと思う。多分、赤魔力を使えば大丈夫だと思うし」


「……私は登れない」

「俺にしがみついてろよ。それなら大丈夫だろ?」

「……嫌!」

「なんで?」

「なんでって……その……重いし……」

「別に? 軽いだろ?」

 

 あ、そうか。ひっつくのが嫌なのだろう。なら、


「嫌ならその辺にある弦で俺とシズクを繋いで引っ張り上げながら登るけど……?」

「……もっと嫌……」

 あれ、少し緊張した顔してると思ったら、今度は氷点下の視線が帰ってきた。おぉ、熱い日にはよく効く絶対零度の視線だな。

 

「じゃあ、いくつも弦をつなぎ合わせて頂上に行ってからロープのように垂らす」

「……嫌」

「じゃあ……ん~思いつかない」

「……背負っていって」

「いいのか?」

 大きくため息をついたシズクは頷くとでも、と付け加えた「絶対に落ちないでね」


 崖を登る。

 それは言うほど簡単な事じゃない。

 なだらかであればまだしも90度 直角。所か場所によってはそれを超える場所もある。

 すぐ上にある岩を掴んで登る。

 片腕で大半の重力を支えながら足場を捜して。また次へ。

 場合によれば、指一本しか引っかけられる部分がなくて、時折足を固定する場所すらなくて指の力だけで体を持ち上げてまた次の支えにできる場所を捜す。

 以前までの体ならできない事だと思う。赤魔力とキメラの体。この二つの要素でシズクを背負いながらでも筋力と言う面では難しい事じゃない、時折次のとっかかりになる場所がなくて一段下がる事もあったけど。

 ただ、自分で登ってる俺よりも。背負ってるシズクが怖かったんだと思う。緊張のせいか震えが伝わってきて。きゅっと首が絞まる事があったり。

 

 まぁそんな初めての崖登りだったけど、なんとか登りきる事ができて。 二人でその崖に沿って歩いていると、昨日崖から落ちる前の荷物があった場所まで辿り着く。

 魔物に荒らされた様子もなくて、エンデミックで発生した魔物達はもういない。

 

 

「無くなったものは?」

「……大丈夫。全部ある」

 自分の荷物のチェックを終えて。崖の近くを見るシズクは何か捜している様子だけど。

「黒鋼か?」

「うん、一緒に崖に落ちたから、きっと見つからないと思う」

「さすがに諦めるしかない、か。ひとまず休憩しよう」

「うん……」

 

 多くの荷物が無事だったのは助かる。特に水だ。これからまだダンジョンを登らないといけないんだから。


 

「これから、どうするの?」ってシズクが少し疲れた顔で言った。足が痛いのかさすっている。

「まっすぐ戻るけど、戻る途中に魔物を見つければ狩るつもりだけど」

「違う、その後の話し。この先。タツヒトはどうするつもりなのかって」

 そっと地面に寝そべると「あ~、あんまり考えてないんだけど、とりあえず街で生活基盤をつくることかな。仲間でも集めてダンジョンをこれからも攻略して」

「そう……記憶を取り戻したりとかは?」

「どうやって?」

「分らないけど」

「あんまり記憶には興味がないんだ。多分シズクほどじゃないかもしれない」

「私も、今はそんなに……ない」

「そう」

「うん、同じ、記憶が無い人が見つかったから」

「まぁ、今の生活の方が大事だわな。何か大切な事があったとしても」

「そうだね。あの、さ?」シズクはこちらへと向き直って。少し姿勢を正した。

「これからも一緒にいていい?」

「え? なんで?」

「あの。少なくとも一度家に戻るまでって言ってたからそこから先は……」

 言ったっけ?そういえば言ったような気がする。よく覚えてるな。

「あぁ、まぁそうだな」

 こういうのあんまり得意じゃないんだけど。何故かシズクは真面目な表情で深刻そうに捉えてるから。立ち上がるとシズクの前に立つ。

 

 手を、差し出す。 


「そんじゃまぁ、これからもよろしく頼むわ。錬命士として。頼りにしてる」

 まさか、断れると思ってたんだろうか。少しびっくりしたような顔して。シズクは笑い返してきた。


「うん」

 握り替えしてきたその手は小さくて。暖かかった。

 

 

 ◇◆◇


 丁度よく、一匹のバファロスが現れて、そいつを狩って。二層へ戻る神殿までそろそろか。なんて時だった。

 

「なんか言った?」

「? ううん何も」

 

 そう。なんだかちょくちょく話しかけられてるような気がする。声がする訳じゃないんだけど実際シズクが何か話しかけたりしてきてない。


「な~んか呼びかけられてるような気がするんだよな」

「空耳?」

「そんなイメージかな、それにしては多いような気がするんだけど、そうか~俺ってキメラだからそろそろ寿命かもしれないな」

「嘘!? そんなのあるの!!?」

 シズクが凄い勢いで食いつく。いや。錬命士だろお前。

「いや、知らないけど」

「そう、びっくりさせないでよ」

「ちょっとした冗談だけどでも、空耳?は本当な」

「そういうのは……やめて。でも。私も気になってる事がある」どこか焦ったようにシズクはそわそわしてる。

「何?」

「何か空気が重たい気がしない?」


 空気が重い。

 言われてみると異変に気が付いた。

 肌がひりつく。

 それが適切だろうか。


 まるで自分の体重が増えて。動きづらい。ごくり、とつばを飲み込んで、シズクに答えた。


「確かに、何か変なな感じがする。なるべく早く戻ろう」


 また、誰かに話しかけられた気がした。

 シズクに声を掛けて。少し早足で歩き出す。神殿まではもうすぐの筈。焦燥感はとまらない。

 

 と、不意に立ち止まった。遠くには神殿が見える。やっぱり何かおかしい。神殿は?大丈夫だ。

 来たときと変わりない。周りをぐるりと見わたす。

 荒れた岩場はだだっぴろくて、周りには何もない。


「タツヒト?」

 どうしたの?と不安そうな顔でこちらを怪訝そうに見ている。

 

 何がおかしい?もう一度、ゆっくりと周りを一望する。


 そうか。

 濃い。

 何が、と言われると正確には答えられない。

 ゴブリン達とたたってる時、バファロスと対峙している時。戦気とでも言えばいいのか。

 

 方角は神殿。


 後からは感じない。


「多分、魔物がいる。神殿の……中かな?」

 声が低くなる。シズクを怖がらせてしまうかも。いや。それよりもどんどん眉間に険がつく。

 ナイフを顕現させて。バックパックを下ろす。


「悪いんだけど、神殿までの間だけバックパックを持っていて貰えるか?」

 

 闘える準備をしておきたい。


 いる。

 

 そう感じる。しかも是までのやつよりもずっと強い。

 

「わかった」

  

 緊張感が伝わったのか、シズクは行きを飲んで俺からバックパックを受け取る。


 息を吐いて。心を落ち着けようするけど、荒ぶる。

 足が竦むけど。敵は退路にあり、なんだからどうしようもない。

 

 神殿の前に立つ。


「待っててくれ……何もなければ呼びに戻る」

 

 一人ではいる。

 神殿の奥は暗くて、二階層への扉まで少し距離がある。

 足音を聞きながら周囲を警戒して、歩みを進める。

 

 ――勝てないよ?


 え?

 

 目を見張った。

 赤い。

 

 赤い目だ。

 目を開いたのか、暗闇の中赤い双眸が光る。

 

 手が震える。

 

「ヴォオオオオオオオオオオオオ」

「ぐっ!」

 

 咆吼で魂が揺れる。

 足が止まった。

 まずい。

 すぐここをでなければ。

 そう思った時には遅かった。

 

 赤い目の上。逆巻く二本の角が赤く光りだして、片足で地を蹴る。

 

 突進。

 咆吼で萎縮し足が止まり。

 

 気が付けば、吹き飛ばされていた。


 宙を舞う。文字通りに、あろう事か神殿の入り口で体をたたきつけられてまだ止まらない。勢いのついた突進の慣性で一度、二度、三度と体を地面に打ち付けながらも神殿の外まで吹き飛んだ。


「タツヒト!?」

 

 血が出ていた。

 すぐに体勢を立て直して叫ぶ。


「離れてろ!!」

 

 一撃で足下がふらついた。体が揺れる。

 神殿の外にでてきた魔物が全貌があらわになる。

 

「バルケロス! そんな!?」

 

「馬鹿、叫ぶな!」

 

 その手にもった巨大なポールアクスをどしんと地面に打ち付け。声を発したシズクの方に意識向く。

 

 動け動け動け動け。

 

 歯が砕けそうな位かみしめて。全力で前に進む。

 

 魔力を爆発させろ。

 脚に纏った青魔力の疾走でぐんぐんバルケロスに近づく。意識を俺に向けさせるんだ。

 

「こっちだぁああああああああ!」

 

 叫んだ。恐怖をぬぐい去るために。注意を引きつけるために。

 頭を狙うために地を跳び空から襲いかかる。

 赤い魔力をナイフに込めて狙うは頭。逆手にもったナイフを。


「死ねぇえええええ!」

 

 全力で振るった。

 こちらと目を合わせた魔物が笑った気がした。

 嘲り。虫けらを見るような目で。

 

 何故?


 それはすぐに分った。

 ナイフが牛頭に吸い込まれていって。やった。そう確信した時だった。

 

 魔物とナイフの接地面。

 バキンっと甲高い音を立てて。

 ナイフが柄を残して折れた。


 え?


 ずん、とバルケロスは腰を落してポールアクスを腰だめに構える。

 瞬間。

 腹で爆弾が破裂した。

 

「が……!?」


 視界が一瞬にして空や岩を映し出し、吹き飛ばされた体はまた遠くへと飛ばされる。

 

 体の反応が鈍い。二度吹き飛ばされただけでもう体が動かない。

 緩慢な動きでゆっくりと立ち上がると残ったナイフを見る。

 またしても折れていた。次にはぐらりとローブの中に着込んだ革のプロテクターが壊れ、地面へと落ちた。

 ポールアクスの一撃、腹に打ち込まれたそれを残ったナイフで防いでこれだ。

 

 意識は朦朧として、まずいな。そう思った時だった。


「タツヒト!」


 放出系白色魔力、キュア。

 白い魔力に包まれて。体の傷がゆっくりと治る。

 

 見ればすぐ傍に白鋼の錫杖を構えたシズクが居た。


「大丈夫!? 待っててもうすこしで全快させるから」

 いや、そんなに時間はない。

 白鋼を使った回復は遠距離、複数人に特化した仕様だ。その分一人に対する治癒力はそれほどなくて完治させようと思えば時間がかかる。

 

「あれは?」

「バルケロス……10階層の魔物……」

「……なんで、こんな所に……」

「ゲートキーパー……私も初めて遭ったけど……エンデミックからは主が現れる」


 扉の前に陣取って退路を断つ。


「はは……いやに作戦じみてるな」

「それよりも早く傷を治さないと」

 シズクが俊敏な動きで何度も白魔力を放ち傷を治していく。

 でも、それよりもバルケロスが来る方が早い。


 手に、武器はない。

 武器を使ってさえ傷を付けられないのだ。体躯に似合わず駆ける脚は速いあの魔物はその化け物じみた体で突進するだけでこちらは致命傷になる。逃げたとしても追いつかれるだろう。

 

 勝てないな。

 

 勝算はない。吹き飛ばされた影響でまだ体は痺れて力が入らない。

 膝が笑っていた。

 

 やけにでかく見えやがる。

 対峙するバルケロスの視線で首がちりりと恐怖を伝える。

 

 誰だって怖い。

 無力感を味遭わせるだけの実力差がある。

 このままでは、殺される。

 タツヒトも、シズクも。為す術もなく。

 

 どの道死ぬならなぁ……


「なぁ、シズク」

「何! 今忙しいのに――」

「逃げろよ」

 

 どしどしと、ゆっくりとした動作でバルケロスが近づいてくる。弱らせた獲物をただ狩るために、戦いにすらなってないのが、向こうも分っているのだろう。

 

「何を――」

「早く!」

 

 そうだ、こんな所で二人揃って死ぬことはない。

 これは俺のま蒔いた種だ。

 だから、


「……嫌」

 とっさに返ってきた言葉でバルケロスから視線を切った、シズクはこちらを見上げるようにして歯を食いしばっていた。


「嫌もだってもない。さっさと逃げろ」

「絶対に嫌!」

 

 何言ってんだこいつは。


「この――」

 俺が言葉を継げる前に。シズク俺の前に出る。


「死なせない」


 バルケロスが立ち止まると、片足で地を蹴る。また突撃をする気だ。

 バルケロスの強烈な踏み込みは一瞬にして距離を埋める。 

 勢いを付けたポールアクスは横薙ぎに振るわれる。

 

 死ぬ?

 二人まとめて。

 こんな所で?


 死。


 体が動いた。それは思考の外で。だけど本能的な動きな筈もない動きで。

 気が付けば、シズクを抱えて。俺は左半身でポールアックスを受け止めた。

 断ち切られる。

 そう思ってたけど。

 やけに堅い金属のような反響を聞きながら。

 俺の意識は途絶えた。

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