0.プロローグ 天界異変
歯車は未だに回り続ける――――
天使という存在を信じるだろうか。
清く美しく、白い翼を持つ高潔なる存在。大体の者が持つ天使のイメージ像であろう。
地上とは異なる異界。そこには天使が棲みついて生活を営む、人はこれを天界と呼ぶのだろう。
その天界で、白い翼をはためかせ空を鷹が如きスピードで移動する影がある。その後ろには、それを追わんとばかりに影にせまりつつある別の幾つもの影が見える。
追尾される側の白い翼の持ち主――――天使は、人間の少女の姿をしていた。
そろそろ追いつかれる。そう感じたのか、途中でその真下にあった森林に身を隠そうとそのまま突っ込んでいく。
追尾する側の白い翼の持ち主――――天使は、人間の青年の姿をしていた。
逃すものか、そう呟いて彼女と同じように森へと突入する。
森林の中での飛行は枝という障害物が密集するため、非効率的である。
青年天使は地へと足をつけて、腰に携えていた西洋風の剣を抜き、歩き始める。
ふと、足が止まる。
後ろから感じる熱気に振り返り、次の瞬間には青年は生命的危機を感じて地を蹴り後退していた。
その僅差で木々が次々と倒れて青年の眼前に横たわっていた。その木々は傷つけられており若干熱を帯びている、その熱を利用した切断ではないかと青年は予測した。
青年は視界の端で、少女の姿を捉える。
「待て! この天使殺しが……――――!?」
青年が見たのは、井戸へと身を投じる少女の姿。
その井戸は、天使の誰もが知っていた。
その井戸に落ちた者は地上界へと導かれていく。そういう昔からの言い伝えであり、そしてまた誰もがその井戸はあくまで都市伝説であり、実際に存在しない架空の存在だとずっと思い続けてきた。
青年の額に嫌な汗が伝う。
「これは、厄介な事になるぞ…………」