壊れた世界と異形の頭
こんにちは、どうも私です。
私達は人間が異形と呼んでいるものです。
形は人間とさほど変わらないのですがなにぶん頭が人間でないので差別されております。
「おーい、菓子頭!!」
「はいはい、なんですかー?」
私は様々なお菓子のようなものが首から生えている容姿なので菓子頭と呼ばれています。名前なんて忘れてしまいました。
「知ってるか?王国が勇者を喚んだんだと。」
「おや、魔王とやらは復活してませんよ?」
「なんでも俺らが邪魔になったらしい。全く、誰のおかげで国が発展したのかもわからないバカばかりだな、人間ってやつは。」
そう不満げに話す彼の頭は歯車の形をしていて、くるくると回りながら私の方を見た。目とか、声帯とか私達には関係ありませんけど。
「さぁ…?どうでしょうね。人間は全く同じことを他の種族に対して思っているでしょうし、私はもともと人間でしたし。勇者とお話できるなら話し合いも有りかと。」
「…そうか。ってお前は突然変異型だったか。済まん。」
「いえ、気にしてませんよ。」
私は考える。世界はいつも歪でありながらバランスが取れています。
その歪な部分は歪でないと考えられているものにとって邪魔でしかないかもしれません。
「…私たちを殺しても、また他の異形が生まれるだけなのですけどねぇ。」
死ぬことは不思議と怖くはありません。
私はもともと普通に町娘をしていました。母の手伝いをして、父の下らないギャグを受け流して…好きな人と結ばれることを夢見て。
でも、魔王とやらが人間を滅ぼさんとして私は死んだ…はずだったのですが。
起き上がると周りには町だった場所と骨、そして異形となった私しかありませんでした。
「…ギアさん。」
「ん?」
「もし私が死んで、ギアさんが生きてたらとりあえず埋めて下さいね。」
「…逆もしかりだな。」
「あぁ、逆なら私はギアさんの頭の一部を持ち歩きますよ。」
「全部埋めてくれよ!?」
「ふふふ」
異形となってからは石を投げられたり、頭のお菓子のようなものをねだられて困ったりもしました。
仲間を見つけて、村を作って、ひっそりと生きてきました。
女性での幸せは私はもう掴めません。
人間としての楽しみは味わえないでしょう。
絶望もしました。
けれど、死のうとは思えなかったのです。
「勇者がテンプレでバカでなければいいですね。」
「そうだな。話し合いのできるやつならいいな。」
きっと、私は異形になってまでここに残るくらいこの壊れた世界が好きなのでしょう。
「さ、ギアさん。今日もお仕事しますよ。」
「うげ、忘れてなかったか。」
ギギギと回転が遅くなる歯車に私は今日も変わらず笑えるのでした。