エピソード6 奴の弱点
メールと電話の攻防でやっと食事するまでにこぎつけると奴はとたんに態度を変える。
というか、むしろ本性を出しはじめるのだ。
「食べ物の好き嫌いは無いほうなんよ。じゃけど卵は生では食べれんのよー、半熟もあまり好きじゃねー。野菜はあまり食わんなー、ピーマン、セロリ、パセリ、香草もダメじゃ。」
食べ物の好みはお子ちゃま並である。
「ワシは自由でええんよー。誰からもかまわれたくないんよ。」
どうやら束縛は嫌いだが、されているらしい。
「ケータイも要らんわ。仕事で電話ばっかりかかってくるし、着拒否ってできんのかなぁ。ワシまだ女房のケータイもメモリーに入れてないんよ。どうせかかってくるし、要らんと思って。」
メモリーはほとんど女の子(飲み屋のおネーちゃんだ。)
言ってるそばから奴の携帯の着信バイブが…。
「あ、家からかかってきた。静かにしとけよ。バレたらまずいけー。」
大きなことを言ってる割には丁寧に応対している。
「今飯食ってるところ。帰りに灯油を買って帰れば良いんじゃな。はーい、わかりました。」
どうやら帰りのお買い物を頼まれたようだ。
「帰りに灯油忘れんように覚えとって!」
そんなの知るか!
「1回女房に浮気がバレたんよ。独身のときじゃけどな。それ以来いつも疑われてー。」
バレないほうがおかしいくらいの短絡思考だ。
「女房の事は好きじゃねーんでー、ただ子供が居るけーなー。この前子供を実家に預けて映画観に行ったけど全然イケてねかった。子供の話しばっかでなー。別れるつもりはないんよ、ワシの子供を育ててくれよーんじゃけー感謝しとるし。子供が居らんかったら別れとるわ。女房もそうじゃと思うよ。」
都合の良い解釈だ。
「ワシみたいな人は他におらんでー。珍しかろー?」
特別扱いされたいのだろうか?他人と同じと思われたくないらしい。充分変態だ。
「この前風邪ひいたんよ、夏のこの時期に風邪ひくのってワシぐらいじゃろ?」
だから頭に膿みがたまってるのか?
「ワシ、首すじ弱いんよ。鎖骨のところとか。」
ヒットポイントここにあり!
「隣の席の団体は何を話しとると思う?さっきから気になるんじゃけど。」
ファミレスで団体での討論会?メモ用紙を広げたり熱心にカタログを見ていたり…。
「リーダーみたいなのが来たけど、どー見てもうさんくせーな。ワシの方が売れるで。」
プロの営業マンなのだから当たり前だろう。一体何を売るつもりなのか。
「昨日も2件決めてきたんじゃけど、これがまたメンドクセーんよな。銀行ローン通らんかも。自慢じゃねーけどワシの客はそういうの多いんよ。」
自慢なのか、愚痴なのかハッキリしろ!
「そういやこの前、全社の年間売上トップを取ってな、会社から報奨金と旅行招待があるんじゃけど、どこに行こうかな?多分グアムかハワイかじゃろうけど。休みが取れんからなぁ。」
自慢だった。
「警察は嫌いじゃー。善良な市民を捕まえて金を摂る。ワシついこの前捕まったんよ、酒気帯びで。居酒屋からつけてきて、自分の家の駐車場で声かけられてアウトじゃった。会社にバレたらまた怒られるわー。」
自業自得である。
「罰金も高いなー。女房に言うたら小遣い1万減らされてサンザンじゃった。まだ怒って口も聞いてくれんのよ。」
最低男の愚痴と自慢話に付き合いながら1つだけ確信した。
奴の弱点は数々あるが、最も奴が恐れているものは奴の女房なのである。
お盆を過ぎてもまだまだ暑い日が続きますねー。思考も体力もバテバテ気味です。なかなか奴のエピソードが思いつかず苦戦してます。