怪物
やさしさで火傷を負いました。
あなたのやさしさを受け取るほどに、負債が増えていくような気がしていました。
人から物を借りたときは、熨斗を付けて返すべきなのです。
本を貸してもらったなら、相手の好むお菓子を添えて。
メイク用品を貸してもらったなら、綺麗な小物入れを選んで。
もらったものが感情だったとき、どうすればよかったのでしょう。わたしは何をお返しすればよかったのでしょう。ありがとう、と心からの感謝を示すだけでよかったのでしょうか。けれども、それでは少しも足りないのでは。そんな思いが頭を過ぎり、少しずつ首が締まるのを感じていました。
わたしは鏡を拒みました。
醜い毒虫が映ることがとても耐え難いから。
わたしは写真を拒みました。
毒の痕跡はこの世に残しておいてはいけないから。
わたしは自分自身を拒みました。
存在しているだけで周囲の空気が澱んでしまうから。
わたしには、無償のやさしさを受け取る資格などありませんでした。日陰者が身の程を弁えずに求めすぎてしまったのです。
気づいたら、あなたのやさしさに執着していました。
いつの間にか、あなたの存在そのものに依存していました。
あなたのくれた言葉だけが、生の標になっていました。
だからこそ、終わらせなければならないのです。身勝手に愛を貪り、消費する怪物になってしまう前に。
間違っている、と叱られてしまうでしょうか。
わたしにはわからないのです。正しい愛し方も、正しい愛され方も。
この命を閉じることが、産まれ落ちたことへの唯一の贖いになると願って。
最後に一つだけ、聞きそびれたことがあります。
あなたにとって、わたしは何者でしたか。やはり怪物でしたか。それとも――。綿素材のロープが首に絡み、急激に視界が真っ暗になりました。心地のよい静寂がこの身を包み込みます。宙吊りから見えた今際の際は、思いの外悪くないみたいです。




