第21話「切断」
三日。
与えられた時間は、短い。
だが。
――十分だ。
私は机の上に広げた簡易地図を見つめていた。
市場周辺。
主要な流通経路。
物資の集積点。
すべて、昨日までに確認した情報。
そこに、さらに書き込む。
人の流れ。
運搬の時間。
停滞の箇所。
やがて。
一つの形が浮かび上がる。
――偏り。
供給は、完全に止まっているわけではない。
だが。
意図的に、滞留している。
流さず、溜めている。
その結果。
市場に出る量が制限される。
価格が上がる。
支配が成立する。
私はペンを止める。
結論は出ている。
――切るべきは、“滞留点”。
そこを解放すれば。
流れは変わる。
だが。
問題は一つ。
そこには、必ず人がいる。
利益を得ている者。
守ろうとする者。
そして。
抵抗する者。
私は立ち上がる。
外套を羽織る。
「行く」
護衛に告げる。
「どちらへ」
「倉庫区画」
短く答える。
そこが、最も濃い。
滞留の中心。
街の外れ。
使われなくなった建物群。
だが。
完全に放棄されているわけではない。
むしろ。
――隠されている。
私は歩く。
護衛が続く。
道は荒れ、人の気配も少ない。
だが。
完全な無人ではない。
視線がある。
影の中から。
私はそれを無視する。
目的は明確。
余計な反応は不要。
やがて。
一つの建物の前で止まる。
扉は閉ざされている。
だが。
中に気配がある。
私は一歩前へ。
「開けろ」
短く言う。
返答はない。
当然だ。
私は振り返る。
護衛に視線を送る。
理解は早い。
扉に手がかかる。
力を込める。
軋む音。
そして。
――開く。
中は暗い。
だが。
目が慣れれば、見える。
積まれた木箱。
大量の。
――物資。
私はそれを確認する。
そして。
「……なるほど」
小さく呟く。
ここが、核だ。
「勝手に入るな」
声。
奥から。
男が一人、出てくる。
粗野な格好。
だが、目は鋭い。
「ここは管理されてる」
「誰に」
私は問う。
男は笑う。
「知る必要はねえ」
当然の返答。
私は頷く。
「では」
一歩、前へ。
「ここは、今から私が管理する」
沈黙。
一瞬。
そして。
「……は?」
男の表情が変わる。
理解できない。
当然だ。
私は続ける。
「この物資は、市場に回す」
「ふざけるな」
男が一歩踏み出す。
「これは――」
「滞留している」
遮る。
男の言葉を。
「流通を阻害している」
「だから解放する」
言い切る。
男の顔が歪む。
怒り。
だが。
それだけではない。
――焦り。
私はそれを見逃さない。
「誰の指示だ」
男が問う。
私は答える。
「私の判断だ」
「勝手に――」
「三日だ」
言葉を重ねる。
男が止まる。
「三日で結果を出す」
「そのために必要な処理だ」
静かに。
だが、圧を込めて。
言う。
男は数秒、こちらを見て。
そして。
「……知らねえぞ」
吐き捨てる。
完全な拒否ではない。
だが、了承でもない。
それでいい。
私は護衛に視線を送る。
「運び出せ」
指示。
即座に動く。
木箱が持ち上げられる。
運ばれる。
男は動かない。
止めない。
止められない。
すでに。
――流れが変わっている。
私はそれを確認する。
倉庫の外へ出る。
空気が変わる。
重さが、わずかに軽くなる。
私は空を見上げる。
曇りは、変わらない。
だが。
わずかに光が差している。
私は視線を戻す。
前を向く。
そして。
理解する。
――切った。
初めて。
明確に。
構造の一部を。
だが。
これで終わりではない。
むしろ。
ここからが、本番。
反動は、必ず来る。
抵抗も。
報復も。
だが。
それを含めて。
私は選んだ。
ならば。
進むしかない。
私は歩き出す。
次の手を考えながら。
すべてを。
――三日で動かすために。
読んでいただきありがとうございます。
ついに“切断”が実行されました。
ここからは一気に緊張感が上がります。
必ず反撃が来る局面です。
そして主人公は、それを受けて立つことになります。
次回、衝撃の展開へ。
続きが気になる方は、ぜひブックマークして追っていただけると嬉しいです。
ここからが一番面白いところです。




