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二部 第1話 目覚めた先は、管理下だった

 目を開けると、白かった。


 天井も、壁も、照明も。

 病室のようで、病室じゃない。


 消毒の匂いがしない。


 身体は動く。

 痛みもない。

 ただ、どこか“測られている”感じがした。


 起き上がろうとした瞬間、

 静かな音が鳴った。


 ピッ


 視界の端で、淡い光が走る。


 「無理に動かないでください」


 声がした。


 聞き覚えのある声。

 振り向く前から、分かっていた。


 彼女が、そこにいた。


 学校で見た姿と同じ。

 転校生として来た、吸血鬼。


 けれど今は、

 その立ち位置がはっきりしている。


 「……ここは」


 喉が乾いて、声が掠れた。


 「札幌の管理施設です」


 彼女は、はっきりそう言った。


 逃げ場のない言い方だった。


 「あなたは一度、

  生命維持ラインを下回りました」


 思い出そうとして、

 頭の奥がざわつく。


 美術館。

 空腹。

 血。


 「……死んだんですか」


 「いいえ」


 即答だった。


 「生かされました」


 その言葉に、

 引っかかりを覚える。


 生きている、じゃない。

 生かされている。


 「今のあなたは、

  通常の人間と同じ扱いにはできません」


 彼女は続ける。


 「血液の成分が、

  札幌の基準を大きく逸脱しています」


 基準。


 その言葉が、

 街で聞いた“普通”と重なる。


 「外出は?」


 「制限されます」


 「連絡は?」


 「管理されます」


 質問するたびに、

 答えは短く、正確だった。


 怒りも、嘘もない。


 だからこそ、

 余計に息苦しい。


 「……彼女は」


 動物園で出会った、

 あの女子高生の顔が浮かぶ。


 彼女は一瞬、視線を落とした。


 「札幌では、

  あれが“普通”です」


 その一言で、

 胸の奥が冷えた。


 「彼女は、

  何も間違っていません」


 否定できない。


 嘘も、悪意もなかった。

 ただ、空腹だっただけだ。


 「あなたが同じ選択をしたのも、

  札幌では、特別なことではありません」


 ……また、同じ。


 その言葉が、

 遅れて意味を持つ。


 「昔も、

  似たことがあったんですか」


 彼女は、少しだけ間を置いた。


 「……はい」


 それ以上は、言わなかった。


 説明しないのではなく、

 できないように見えた。


 沈黙の中で、

 頭の奥に、

 意味不明な単語が浮かぶ。


 —— speichern


 朝起きたときから、

 何度も現れては消える文字。


 今は、やけに輪郭がはっきりしていた。


 「……何か、

  気になることはありますか」


 彼女が聞く。


 俺は、首を横に振った。


 まだ、

 言葉にできない。


 ただ一つ、確かなのは――


 ここは、

 俺が思っていた“札幌”じゃない。


 そして俺は、

 もう一度、

 選ばされる側に戻ったということだ。

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