第1話 自由だと言われた街の話
札幌は、吸血鬼に占領された街だ。
それはもう、世界では常識になっている。
吸血鬼は日光に弱い。
けれどそれ以上に、彼らは人間をはるかに上回る身体能力と、いくつもの超能力を持っていた。
サンフランシスコ。
ウラジオストク。
すでに世界のいくつかの都市では、吸血鬼による独立運動が成功している。
札幌も、その流れの中にある街だ。
もっとも――
ニュースでは、そうは言わない。
「独立都市」
「自治権の拡大」
「共存モデル」
そんな、聞こえのいい言葉で飾られている。
人間にも最低限の自由はあるらしい。
働けるし、暮らせるし、娯楽もある。
ただし、街の外には出られない。
危険だから、という理由で。
……本当かどうかは、分からない。
札幌は、吸血鬼によって厳格に情報を封鎖されているからだ。
だから俺は、そう言った。
「見ないと、判断できません」
自分の口から出た言葉に、少しだけ後悔した。
だが、それでも取り消すことはできなかった。
数日後。
俺は札幌行きの列車に乗っていた。
向かいの席には、彼女がいる。
吸血鬼。
しかも、その中でもかなり偉い立場らしい。
年齢は、見た目だけなら俺と同じくらいだ。
黒い髪。整った顔立ち。
感情の読めない赤い瞳が、窓の外を見ている。
彼女は、俺の護衛だ。
札幌では、人間が吸血鬼の管理下に置かれる。
最低限の自由は保証される――と、彼女は言った。
俺の場合は、彼女の管理下になるらしい。
それが、どれほど特別なことなのか。
あるいは、どれほど例外的な扱いなのか。
まだ、俺には分からない。
彼女は、ふとこちらを見た。
「……怖いですか?」
少しだけ、言葉を選ぶような声だった。
「正直に言えば」
俺は、視線を逸らす。
「分からない、です」
彼女は、すぐには答えなかった。
「札幌について、
私が知っていることが、すべてだと思わないでください」
その言い方が、胸に引っかかった。
「私は……
すべてを代表しているわけではありませんから」
それ以上、彼女は何も言わなかった。
札幌は、自由だと言われている街だ。
人間は、優しく扱われているらしい。
けれど俺は、まだ知らない。
その“自由”が、
誰にとっての自由なのかを。




