「どうやって突然、鉛筆を動かせたんだろう?」
教壇の前に立つ少女に、クラスの全員の視線が突き刺さっていた。その表情は、見る者すべてを不安にさせる、不穏な何かを湛えている。彼女の瞳は一人一人の顔をめまぐるしく捉え、ごくり、と喉を鳴らした。静まり返った教室に、その音は奇妙なほど大きく響き渡った。
(ありえない……何が起きたの? 論理的な説明なんて、思いつきっこない)
テッサの思考は、今しがた起きたばかりの非現実的な出来事を前に、猛烈な速さで回転していた。自分は特別で、念動力が使えるんだと密かに夢想していたことはある。けれど、心の奥底では、そんなことが現実にあるはずがないと分かってもいた。
「ガーザ先生……?」テッサは震える声で、かろうじて言葉を紡いだ。「あの……今、先生が鉛筆を投げたんですか?」
指導教官であるガーザ先生は、信じられないといった表情で床に転がる鉛筆を見つめながら、ゆっくりと首を横に振った。テッサもその視線を追い、床に落ちた小さな黄色い物体に意識を集中させる。動け、揺れろ、何でもいいから反応してくれ、と念を込めて。一拍の間。しかし、何も起こらない。失望の波が押し寄せ、テッサは肩をすくめると、その鉛筆を拾うために屈んだ。
鉛筆削りへと向かう間、緊張を和らげてくれたのは、機械が立てる「ガリガリ」という無機質な音だけだった。数秒後、鋭く尖った鉛筆の芯先は、先ほどの不可解な謎とはあまりに対照的で、どこか現実味がない。テッサが席に戻ると、クラスメイトたちはまだ身じろぎもせず、こちらを見ていた。その視線の重圧を感じながら、テッサは引きつった笑みを浮かべ、冗談めかして片手をひらひらと振って見せた。そして、再び正面に向き直る。ガーザ先生は、まるで言葉を失ったかのように口を開閉させており、平静を取り戻そうと苦心しているのが見て取れた。
やがて、先生は無理やり自分を奮い立たせるように立ち上がり、ブラウスの胸元を撫でつけた。「え、ええと、皆さん」と彼女は言った。「今日は、文の構造について学ぶ単元を始める予定でしたね。教科書の189ページを開いてください」
生徒たちは、いつもの騒がしさもなく、素直に指示に従った。授業が進むにつれて、文法という退屈なテーマが、奇妙な事件の上に薄いベールをかけていく。皆が鉛筆の一件を忘れたかのように見えても、テッサの頭からは、宙を舞ったあの光景が離れなかった。まるで、ありえない瞬間を切り取ったサイレント映画が、脳内で繰り返し再生されているかのようだ。自分には念動力がある、何か特別な、隠された能力があるのだと、ずっと想像してきた。だが、それが真実である可能性は、あまりにも恐ろしく、手に余るものだった。
(きっと、ただの偶然よ)
彼女は自分に強く言い聞かせた。もう一度試してみたが、結果は無駄に終わった。あれは二度と起こらない、単発の異常現象に違いない。
ついに終業のベルが鳴り、生徒たちが解放されると、テッサはガーザ先生の机へ向かい、鉛筆を返そうとした。普段ならそのままにしてしまうかもしれないが、あれだけの騒ぎを起こした後では、先生がこの鉛筆のことをすぐに忘れるとは思えなかった。
テッサが差し出した手のひらの上の鉛筆に、ガーザ先生は大きく目を見開いて焦点を合わせた。そして驚いたことに、先生は物理的に後ずさったのだ。「あの、これ、お返しします」テッサは戸惑いながらも、静かに尋ねた。
「いえ、結構よ」先生は張り詰めた声で答えた。彼女は椅子に座ったまま、さらに身を引く。「あなた……あなたが持っていていいわ」
腑に落ちないまま、テッサは頷き、鉛筆をバインダーにしまった。時計を見ると、今日の授業は残り一時間。彼女はバインダーと教科書をロッカーに放り込んだ。最後の一時間はSSR、つまり持続的黙読の時間なので、面白い本が一冊あればそれでよかった。しかし、ロッカーの中を慌てて探しても、その期待は裏切られた。また持ってくるのを忘れてしまったのだ。
(最悪!)彼女は金属製のドアをバタンと閉めながら思った。(教室に何か面白そうな本があればいいけど)
次の教室は、広大なキャンパスの反対側にあったため、早歩きに近い駆け足で向かう。走れば指導、遅刻しても指導。この理不尽なルールにはいつも苛立ちを覚えていた。キャンパスの両端に教室がある場合、どちらかの「毒」を選ばなくてはならないのだ。「本当に、ここの運営はなってない」彼女は独りごちた。いつものことながら。
最終ベルが鳴る直前、テッサはほとんど息を切らすことなく教室に滑り込んだ。しかし、淡い期待は打ち砕かれる。急いで教室の本棚に向かい、並んだ本の背表紙を眺めたが、そこは心を惹かれないタイトルの墓場だった。数分間、激しい退屈の中で時計を睨みつけた後、彼女は諦めて先生の机へ向かい、鉛筆と紙を数枚もらった。快く渡してくれた先生に、テッサは感謝の笑みを返す。そして自分の席に戻り、絵を描き始めた。特に何を描くか決めず、ただ鉛筆の動きに身を任せる。
すると、紙の上に一つの顔が形を成し始めた。その線は、自分のものではないような正確さと優雅さをもって動いていく。普段の自分の画力とは比べ物にならないほど、それは巧みだった。まるで手がそれ自身の意志を持っているかのようだ。テッサは首を傾げながらも、その奇妙な衝動に身を委ね、目の前でイメージが完成していくのをただ見つめていた。
◇
ヴェリリは、心臓が肋骨を激しく打つ音で、はっと目を覚ました。見知らぬ環境に、一瞬パニックが彼女を襲う。しかし、車輪が規則正しく線路を叩く音に、自分がまだ列車に乗っているのだと気づき、少しだけ落ち着きを取り戻した。
(お願い、乗り過ごしてなんかいないで)
彼女は心配そうに下唇を噛んだ。まあ、終着駅はシルヴァリッジからそう遠くないから、万が一乗り過ごしても大した問題にはならないだろう、とすぐに思い直す。
(ただ、少し足止めを食うだけ)
不安な時にいつもそうなるように、ヴェリリの声は自分自身の耳にさえ苛立たしげに響いた。
その思考は、次の停車駅を告げる自動アナウンスによって遮られた。「シルヴァリッジ」。安堵の波が押し寄せる。乗り過ごしてはいなかった。隣の席に散らかしていたわずかな荷物をまとめると、ヴェリリは車両の後方へ向かい、階段を下りて賑やかなターミナルへと降り立った。駅は以前のものより小規模で、どこかの巨大なショッピングモールに併設されているようだったが、ヴェリリはそれに目もくれず、真っ直ぐ街路へと向かった。
歩道に出たところで、ヴェリリは足を止め、目を閉じて感覚を研ぎ澄ませる。必死に探すのは、キアラの気配――あの馴染み深く、そして強大なエネルギーの痕跡。もし彼女がここにいなかったら、もし手がかりがここで途絶えてしまったら、自分はどうすればいいのだろう。他に導いてくれるものも、追うべき道筋もない。
その呼びかけに、微かな揺らぎが応えた。冷たい恐怖と、深い安堵が入り混じる。キアラは、いる。それは遠く、意識の縁でかろうじて感じ取れるほどの微かな囁きに過ぎなかったが、間違いなくこの街か、その近郊のどこかに。
そして……もう一つ。別の何か。もう一人の「アセニ」。遥かに弱々しい、第二の力の残響。彼女は頭を振り、そんなはずはないと自分に言い聞かせた。
(思った以上に疲れているみたいね)
方位魔法のわずかな知識を頼りに、ヴェリリは意識を集中させ、街のレイラインが発する微かな引力に従った。呪文は彼女の内なる羅針盤を落ち着かせ、ほどなくして、そこそこ立派なホテルを見つけることができた。ロビーは必要以上に豪華だったが、このような贅沢のために魔法を使うことへの罪悪感は、もはや薄れつつあった。自分は命を救うためにここにいるのだ、と彼女は自らを正当化する。そのためには、数人から金を拝借することなど、些細な代償に過ぎない。賭けられているものの大きさを考えれば、彼らの通貨など何の意味も持たなかった。
案内された部屋を見渡す。ベッドは非常に快適そうで、バスルームには広々としたバスタブが備え付けられていた。窓からの眺めは平凡だったが、全体的に見れば、部屋は申し分ない。この地区を選んだのも、計算の上だった。キアラの存在がまだ微かな囁きでしかない以上、ヴェリリが準備を整え、戦略を練る前に、不用意に遭遇してしまう可能性は低いだろう。
(もし、戦略なんてものが思いつけば、の話だけど)
彼女は不安げに思った。バスルームから寝室へ戻りながら、大きなあくびをする。ここ数日は、精神的にも肉体的にも過酷だった。
「少し休む権利くらい、あるわよね」
疲労困憊でベッドに倒れ込みながら、彼女は自分に言い訳した。睡眠不足では、やるべきこともやれない。
ヴェリリは深い眠りに落ちた。しかし、眠りの中にさえ、逃げ場はなかった。彼女を苛んだのは、無力感と束縛される感覚を伴う悪夢――ヴェリリが何よりも憎むものだった。中でも最も執拗に繰り返されたのは、ケイラの死の記憶。友の瞳から光が消えた、あの虚ろな表情が、恐ろしいほど鮮明に蘇る。ケイラが「隠れて」と叫んだこと、男が武器を振りかざしたこと、そしてケイラが崩れ落ちたこと……その光景が何度も、何度も再生される。
崩れ落ちる……
落ちていく……
その瞬間、夢は変容した。突如として、彼女は街を見下ろす高層の建物の、開け放たれた窓辺に身を乗り出していた。自信に満ちた、蠱惑的な声が頭の中に響く。
――跳べ。
それは提案ではなく、抗いがたい理屈を伴った命令だった。だから、彼女はそうした。窓枠を乗り越え、空中に身を躍らせ、眼下に広がる雑踏へと真っ直ぐに落ちていく――
「はっ……!」
ヴェリリは汗びっしょりになってベッドから跳ね起きた。シーツの下から這い出すと、よろめきながらバスルームへ向かう。蛇口をひねって冷たい水を顔に浴びせ、鏡に映る自分の姿を見上げた。タオルで顔を拭い、悪夢の残滓を振り払おうと努める。時計を見ると、すでに朝になっていた。彼女はため息をつき、バッグの中から着替えを探した。ズボンは二日目だったが、清潔なシャツはまだ一枚残っている。軽く確認して、まあ十分だろうと判断した。服を着替え、バッグから櫛を取り出すと、もつれた髪を梳かし始めた。
その時、これまで考えないようにしていた不安が、ふと頭をよぎった。もし、この任務に成功したとして、どうやって「ソララ」へ帰ればいいのだろうか? この任務が、自分にとって最後のものになる可能性は、アセニの少女としてとうの昔に受け入れていた。しかし、万が一、生き延びたとしたら……帰還する方法を、自分は全く考えていなかったことに、ヴェリリは愕然とした。
まあいい、と彼女はその考えを振り払う。それはまた別の日に考えるべき問題だ。髪が十分に梳けたことに満足し、彼女は再び鏡の方を向いた。
その途中で、彼女はぴたりと動きを止め、首を傾げた。何かがおかしい。何かが、違う。眠気でまだ感覚が鈍っていたが、雰囲気の微細な変化を捉えることができなかったのだ。
あくびをしながら目をこすり、残っためまいを振り払おうとしながら、メインルームへ戻る。そして、それは彼女を襲った。まるで体に殴られたかのような、強烈で、そしてすぐ間近にあるエネルギーの奔流。彼女は凍りついた。微かな囁きだった感覚が、今や轟音へと変わっていた。恐ろしい確信をもって、そこに何があるかを悟りながら、彼女はゆっくりと顔から手を離した。
ヴェリリが顔を上げると、そこには別の瞳があった。その瞳は、彼女自身のものと同じくらい、いや、それ以上に驚愕に見開かれていた。
それは、キアラの顔だった。




