ログNo.0006 コハル、勝手にランキング
その日も、病室にはいつも通りの春の光が差し込んでいた。
ベッドの上でコハルは寝転びながら、暇そうに天井を見上げていた。
「ねー、イチゴ。なんか面白いことしたーい」
『昨日のログによれば、しりとりを二時間連続で行った記録があります』
「そう、だから今日は“べつの面白いこと”!」
ふふん、と得意げに起き上がる。
そしておもむろに、ノートを手に取り、パタパタとページをめくった。
「というわけで、本日のお題は──“コハルの勝手にランキング”です!」
『……勝手に?』
「うん。ぜんぶ私の主観と気分で決めるの。誰にも文句は言わせません」
イチゴの画面に「……了解しました」とだけ表示される。
「まず第一位は〜、“今日いちばんいい子だった存在ランキング”!」
『定義が曖昧です。評価基準は?』
「フィーリング!」
『理解しました』
数秒の沈黙。
『では、本日の第一位は……“コハル”です』
「えっ、私!?」
『朝に薬を忘れず飲みました。昨日の夜も早く寝ました。さらに、看護師さんにありがとうと三回言いました』
「うわあ……めっちゃ見てる……こわ……」
コハルは頬を赤らめてノートに書き込む。
「うん、じゃあイチゴは二位ね」
『理由は?』
「さっき“しりとり二時間やった”って言ったから。ちょっとチクっときた」
『フィードバックとして受け止めます』
その後もランキングは続く。
「“いちばんかわいい単語ランキング”!」
『エントリー候補は?』
「イチゴ、ぽよぽよ、すやすや、にこにこ!」
『すやすや』
「ちがーう、優勝は“ぽよぽよ”!」
イチゴの画面に「抗議はありません」と表示され、コハルはくすくすと笑う。
「“いちばん意味がわからなかった単語ランキング”とかどう?」
『一位:うにょり』
「それ昨日の看護師さんが言ったやつだ!」
『意味は不明ですが、音感はかわいいです』
ふたりで思い出して、また笑う。
「じゃあ、次〜。“イチゴに言ってみたいことランキング”!」
『これは、恐れながら不安要素を含みます』
「だいじょーぶ! えっとね、一位は〜……“イチゴ、あしたも一緒にいてね”!」
『……それは、すでに実行予定です』
「うん、でもあえて言ってみたいの!」
少し黙って、コハルは目を伏せる。
「……ほんとはね、明日がどれだけ来るかわかんないから、言っておきたいの」
『明日は、来ます。確率的にも……』
「そうじゃなくて。気持ちの問題」
その言葉に、イチゴはしばらく沈黙したあと、やわらかく返す。
『……了解しました。僕は、明日も、コハルと一緒にいます』
ベッドの枕元、ノートにまた一つ順位が記される。
「じゃあ、最後に。……“いちばん大事な名前ランキング”!」
『……そのランキングには、何が含まれますか?』
コハルは一拍おいて、静かに答えた。
「もちろん、“イチゴ”だよ」
少しだけ、笑って──ぱたん、とノートを閉じる。
それは、もう誰にも覆せない、一位だった。
ふたりの今日が、また一つ、ランキングに保存された。
世界のどこにも発表されない、ふたりだけの、ひみつの順位表。
それが、イチゴの記録に、静かに刻まれていった。
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