第二十五話 海の中のダンジョン
フィアは再開の市場にてクロエとニーナとついに合流した
リュールの護衛の任務は終わり各国のギルドに安全管理は任されたがリュールは不安が拭えなかった。
クロエはそんなリュールを仲間に勧誘するがギルドの職員である事を理由に断るのであった。
フィアとクロエ、ニーナの3人は冒険者ギルドへ向かっていた
『せっかく海の街まで来たんだから海洋ダンジョンをやっていかなきゃね』
『私は飛べるからいいけど、フィアは泳げるの?』
ニーナがクロエを呼び止めた
『海の中で戦うのですか?』
『まさか…海洋ダンジョンは潮の満ち引きによって進行ルートが変わるから魔物よりもダンジョンの方が難しいんだよ』
『でも安心して人魚族のガイドが必ず迎えに来てくれるから…溺れたら。』
『溺れたら!?戦闘中に巻き込まれたらどうなるのですか?』
『その時は中断だね、濡れた装備じゃ魔物とは戦えないからね』
『さぁ…ついたよ』
ギルド【アステリア】
扉を開け中に入ると珊瑚のランプが暖かく迎えてくれた
冒険者の姿もオレイアスほどでは無いが何パーティーかいた
中には魚の剥製が吊るされ奥には巨大魚の魚拓が飾られていた
興奮して周り見渡すフィアにニーナは言った
『あの砂時計を使って目安にするんだ』
受け付けに置いてある砂時計を指差した
『潮が引いてる間は魔物も弱ってるし、流されてきた良い物も手に入れやすいんだけど、夢中になり過ぎて溺れる事もあるから…臨機応変差を求められるんだ、きっと良い練習になるよ』
『な、なるほど討伐対象の事も考え温存も考えないとですね』
『それなら魔物はそこまで警戒しなくて大丈夫よ』
『そうなのですか?』
フィアは意外そうな表情で聞いた
『戦う時はこちらが有利な地形で戦う事が殆どだからね』
クロエはダンジョンを選ぶと受け付けから砂時計を受け取った
その後3人はゴンドラでダンジョンへ向かった
『そういえば…その格好…ローグになったの?』
クロエがフィアの装備を見て言った
『いまさら?』
『き、気付いていなかったのですか?』
『ヒーラーがアタッカーに転職するなんて珍しい話しじゃないだろ、1人でダンジョンに入る時はそっちの方が都合が良い訳だし…』
ニーナは理路整然といった様子で言った
フィアの装備は魔女のような服装ではなくタイトな動き易い装備になっていた。
『ローグ…か』
なにやら考え込むクロエにフィアは言った
『えっと…こういう武器も使ってみたかったのと…弓使いは既にクロエがいたので…ローグを選んでみました!』
フィアは苦笑いを浮かべ短剣を見せながら言った
『色んなジョブをやるのも一つの道を進むのも人それぞれだからフィアが気にすることじゃあないよ』
ニーナがフォローした
『だからってローグを目指すとは思わなかったな、今回のダンジョンでローグの戦い方をよーく見させてもらうよ』
『まだ不慣れですが頑張ります!』
やがて2人の視線はクロエに向いたずっと俯いてなにやら考え事をしている様だった
『どういう作戦で行くかを考えていたのよ』
視線に気づいたクロエは白紙の地図をみせた
『今回はマッピングをしながら入ろうと思うの』
『まっぴんぐ…ですか?』
『そう、ダンジョンの構造や安全な場所、アイテムの場所を記しながら探索する事をマッピングって言うのよ』
『中級のダンジョンからは地図がない複雑なダンジョンもあるから、これはその前の予行練習ね』
『記号やマークを覚えていれば冒険で必ず役に立つ筈よ』
クロエは行き止まりを示すバッテンのマークや休憩場所、危険な場所を表す赤いマークなどを伝えた
『わ、わかりました…』
『ダンジョンにつけば覚えられるから大丈夫だよ』
『私もフィアと一緒で暗記は苦手なんだよね、やっぱり覚えるなら実践が一番でしょ!』
『ちなみに冒険者の死因で多いのは新しい難易度に挑む時の小型の魔物よ』
『以外でした…大きな魔物では無いのですね』
『討伐依頼の時は魔物の弱点を事前に把握する事が出来るけどダンジョン内の構造や魔物の数は調べられないからね』
『よし…決めた!回復と防御は私が担当するから攻撃は2人に任せたわよ』
その言葉に2人は頷いた
『さぁ見えてきたわよ、あれがジェネローザの海底ダンジョンよ』
穏やかな海面から突き出た岩が大口を開けまるで3人を待っていたかの様だった。
『満ち引きの時間はその砂時計を目安にして
あと達成したり諦める時はこの笛を吹いて直ぐに迎えに行くから!』
『あと、もし溺れても私達が直ぐに救助に向かうから安心して冒険を楽しんで行ってね。』
セイレーンの舵手は弾む様な声で言った。
【星4ダンジョン】
薄暗い洞窟の中をクロエの明かりを頼りに進んでいた
ふとクロエが言った
『何か気掛かりな事でもあるの?』
『ギルド員の方が楽しんでねと言っていましたが、私はギルドにとって冒険は危険なものだと思っていました…。』
『確かに人魚は楽観的な性格の人が多いわね、でもそれは危険を軽視しているわけではなくて海底ダンジョンっていう一種独特なダンジョンを本気で楽しんでもらいたいからよ』
視界が開けてくると光る鍾乳石が辺りを照らしていた
(綺麗…ん?…いや、違う!)
一瞬緑色に光る鍾乳石に見惚れていたがローグになったフィアにはその正体がよく見えていた。
石に留まっている無数の緑色の虫に…
『これなら必要ないわね』
クロエは気付いていないのか明かりを消すと鍾乳石を笑顔で眺めていた
『砂時計の残りは?』
ニーナは上から宝箱の位置やルートを把握していた
『危ないですよ!』
『大丈夫よ、こんなんじゃぶつからないから』
クロエは得意げに言っていたがニーナは人差し指を口に当てた
『暗い場所で光る魔物や植物を見てきたけど…ここは格別ね』
虫の事はクロエには話さないようにした。
『平気なんですね』
『まあね、それよりもこっちだよ!』
ニーナの案内に従い複雑に入り組んだ道を下っていった
干上がった道を進んでいくと何かが除いている気配がした
『気をつけて下さい…います』
『その様子だとまだ見えてはいないみたいだね』
その時岩肌にある小さな穴から魔物が飛び出してきた
ニーナは見向きもせずに魔物を槍でひとつきにした
鋒には甲殻に覆われた魔物が突き刺さっていた。
『やっぱり硬い甲殻を持っていてもこんなものなのか…』
ニーナは落胆しながら言った
『まぁ四つ星だからね、暇ならこの地形で強敵と出会した時のことを考えてみたら?』
話ながら道を進む2人に対しフィアは遅れ気味だった
水の引いた岩肌を滑らない様に慎重に歩き
凹凸のある足場に滑りやすい傾斜…このダンジョンの殆どが戦闘に適さない地形だと言う事を理解した。
悠然と進む2人の背中を見ながらフィアは考えていた
(私がいない間にも2人は修行をしていたんですね、雰囲気が前までとは少し違う気がします。)
頼もしさと同時にまた引き離されてしまった気がして
少しだけ寂しかった。
『この先…注意して』
ニーナの合図に気を引き締めると短剣を構えた
クロエが先行し段々畑の様になった水溜りを避け狭く細い道を進む
中間に差し掛かったところで水中から魔物がいきなり飛び出してきた
クロエが盾を構えるよりも素早く投擲し魔物を仕留めた
短剣を拾い上げる為に屈むと改めて水の異質さに気付いた
青い水溜りは美しかったが底が見えない不気味さがあった
『こんな地形で見えない場所から強敵に襲われたら…ちょっと怖いですね』
フィアの不安げな言葉にニーナが言った
『そのために私の目やローグのスキルがあるんだろ?』
ニーナの言葉に頷くと隠れている敵を見逃さない様に集中した
…しばらくたち3人は高い場所に移動していた
『はぁ…はぁ…思っていたより…ずっと疲れますね』
フィアは同中イーグルアイを使い敵を探り当てていた
そのおかげかで奇襲を受ける事は無かったが消費は想像以上に激しかった。
『暫くはこの道を真っ直ぐだね』
ニーナが高所から見渡しクロエが記入
フィアは警戒する役割だった。
ぬかるんだ地形に足を取られながらも順調に進み3人は深部前に到着した
『奥に見えるのが今回の討伐対象…【ポルポランデ】よ!』
『名前は可愛いですが…ひぇ…っ』
そこには8本の触手を操り巨大な頭を持つ不気味な魔物がおりフィアの喉奥から反射的に悲鳴が漏れた
『見た目は100点、強さは…どうかな』
ニーナは嬉しそうに槍を握った
遠くから見つめていた筈だが魔物は何かを察したのか
距離を取り海に入ってしまった
『海の中に…一体どうすれば…』
『ここは最深部で逃げ場はないから安心して』
クロエを先頭に近付くと地中から4本の触手が飛び出し、いきなり攻撃を仕掛けてきた。
『つ、強さよりも…しょ、触手についてるぶつぶつが…む、無理です!』
魔物の触手には吸盤がついておりそれがひくひくと伸び縮みを繰り返していた。
『さすがの観察眼ね、獲物を感知しているのは奴の目だけじゃないわ!そのぶつぶつが魔物の触覚よ!』
『全然うれしく無いです!』
フィアが短剣で応戦している間ニーナも苦戦していた
『こいつ!逃げるな!』
不規則な触手の動きに動きづらい足場、攻撃が当たると触手を引っ込め対比させていた。
『この足場のせいで致命的なダメージが出せないな…でも飛べば奴の的になるだけか…。』
ニーナは距離を置きながら顎に手を当て考えていた
3本の触手は3人を翻弄する様に囲んだ
3人は背中合わせになり触手に武器を向けた
『…私に考えがあります』
しかし作戦を伝える間もなく触手の攻撃によって散り散りになってしまった
フィアはニーナに目配せをし気配を消した
槍を大きく振り攻撃するがヌルヌルとした身体に苦戦していた
見かねたクロエが盾を投げ付け一瞬の隙に触手の一本を切断する事に成功した
その瞬間海面が大きく揺れ本体が浮上してきた
そこにはフィアの姿もあった
本体にしがみつき短剣を突き刺す度に魔物は暴れた
『後は私が!』
ニーナは飛び上がると魔物の眉間に向かって飛び掛かった
思いっきり蹴りを入れると同時に眉間に槍を深く突き刺した
魔物はニーナの攻撃で絶命し触手も霧散した
『ふぅー、厄介な敵でした…そういえばどうして魔法を使わないんですか?』
フィアは安堵の息を吐きながらクロエに言った
『一瞬で終わっちゃうからね』
『…そ、そういう事でしたか。』
遠距離から仕掛けてくる魔物、それもこちらの攻撃が通り難い相手を想定した戦いだったのだろうとフィアは察した。
『しかしダンジョンも魔物もスムーズには行かないな
…四つ星でこれならジェネローザの星6は無理だね』
『私も複数の大型に対抗する立ち回りを考えないと』
(…確かに五つ星の夜刀神と比べたら簡単だったけど…あの魔物が夜刀神並みの強さなら…多分勝てなかった。)
素材を拾い終えるとセイレーンが迎えに来た
その後は彼女の導きでダンジョンを出るとゴンドラに乗った
フィアはセイレーンの舵手に聞いた
『あ…あの、物を拾って売るセイレーンの商船についてしりませんか?』
『それなら海沿いを進めば商船とも出会えると思うよ』
『ありがとうございます!助かりました』
『商船がどおしたの?』
『会いたい方がいるんです、少しだけ…いいでしょうか?』
2人は頷きフィアについて回った
何人かのセイレーンに声をかけたが誰もフィアを知っている人はいなかった。
(夜には全て戻るそうですが、それまで付き合わせるわけには行きませんね)
落胆するフィアの横からいきなり悲鳴が聞こえてきた。
『な…な…人形が…化けて出たぁ!?』
大声を上げたセイレーンはフィアを見て驚いており
落ち着かせた後に事の経緯を簡単に話した。
…
……
『なんだ、私の早とちりだったのか…てっきり人形に呪われたのかと…』
『それよりもわざわざお礼を言う為に探して回るなんて嬉しいじゃねえか』
『命の恩人には代わりはありませんから』
『ふーん…気分が良いから良い事一つ教えてやるよ、シラヌイは守りが硬そうに見えるが川から行けば気付かれる事はないんだ』
『それにどういうわけか水底には金品や金が結構な確率で落ちてたりするんだ…これは秘密だぜ』
『私達はそんな…』
フィアは苦笑いを浮かべながら言った
別れ際に改めて礼を告げ宿へと向かった
宿についた3人を待っていたのは小さな龍だった
『こ、この子は?!』
フィアは驚きを隠せなかった
『はは!留守番させて悪かった!ここのダンジョンはお前には相性が悪いんだ、わかってくれ』
ニーナは手慣れた様子で龍を宥めていた
ニーナの顔を数回舐めた後クロエの持っている荷物に気づいた龍は狭い部屋で器用に羽を使いクロエの前に移動した
『まずは紹介しなきゃね、彼女はフィア、この中だと1番先輩だよ』
『そして…こっちが私の相棒のメルだ!』
『よろしくお願いします!…メル…さん?』
名を呼ばれた幼龍はクククと小さく喉を鳴らしフィアを歓迎した。




