第二十一話 思いは拳に断ち切るは刃に
夜道を歩いていたフィアは道で横たわる見慣れた男を発見する
その男は過去にフィアから練習と称し人形を奪い、ある時は凶悪犯に居場所を教えた男だった
名前をエヴァンと名乗りフィアはその男はお詫びに秘密の特訓状を教えると言ったが
案内された場所は貧民街だった
襲いに来た数人の獣人族を蹴散らしたフィアは自分以外にも囚われている人がいる事を盗みにくいしたか会話から知る
賊達の見張りを掻い潜り囚われている鳥人族の少女を発見する
無事に街の広場まで来るとリュールとセリアと合流する
リュールの魔法で目を覚ました少女は名前をアリアと名乗り礼儀正しく頭を下げるとお家に帰って行った
3人はアリアの事や貧民街であった事を警察に伝えた
その後はいつも通りに終わるのであった。
その頃収容所にはヴィクターを脱獄させるためにアリアと真那が遣わされてい
看守はアリアの魔法で眠っており
真那は鎌で壁を切り裂くと堂々と脱獄した。
翌朝フィアは警察署に呼ばれていた
原因はアリアと呼ばれた滞在書の無い子供が事件を引き起こしたからだった。
もう何度目かの来訪で署の雰囲気に慣れていた
現場からはフィアの匂いと子供特有の匂いが残っており
フィアがアリアを抱いていたからだろうと署員は言った
質問が始まりフィアは改めてアリアの外見の情報を伝えた
署では以前とは違い慌ただしく動いていた
フィアの様子を察してか
担当をしていた男は手短に概要を話してくれた
まず少女は鳥人族では無く人魚族だと言う事。
鳥人族と同様羽をもち子供の頃は尾に羽毛があり成長すると共に抜け落ちていき海を泳ぐための魚の尾になる。
歌で魔物を操り本来なら魔物の鎮静などに用いられる魔法だったが今回は悪用され眠らされてしまった。
そしてフィアを驚かせたのはエヴァンの死だった
留置所で惨殺されていたと…
(人を騙したからと言って殺していい理由にはならない筈です)
フィアは話を聞きながらやるせない気持ちになり拳を硬く握り締めた
『わかっているのは相手は3人組である事、ヴィクターとアリアそして最後の1人は匂いから人形使いと特定されています』
『拘置所の壁を切り裂いた事からエヴァンさんを殺害した者と同じでしょう…』
フィアは何故ここまで教えてくれるのか不思議だった
『この3人目がシラヌイに現れた人形使い真那である可能性が高いと考えております』
男はフィアの目を真っ直ぐ見つめながら言った
『…フィアさんは彼女との交戦経験がありますよね?』
『その前にも一度会っています、彼女について知っている事を全て教えて欲しいのです』
『…』
『知っている事なら彼女の過去や話し方、好きな食べ物でもなんでもいいので…』
『それは…戦いとは関係ないのでは?』
『知っていると言う事でよろしいですか?』
真剣な眼差しに背筋が冷えるのを感じた
『安心して下さい、極力傷付けたりはしません…が、それは無辜※1の命とどちらが大切ですか?』
※1:何の罪もない事
沈黙が流れ男は言った
『どちら側に立つべきか…ここで決めていただけると助かります』
儚い善意に流されたフィアの行動はもはや隠し通すのは不可能な領域に達していた。
同時に胸中には真那を助けると言う思いもあった
ここで彼女の話をしてしまえば2度と手を差し伸べる事が出来なくなる気がしたからだ。
真那に助けられた事もあれば許せない事もあった…
彼女が戦えば多くの人が犠牲になる
フィアの答えは一つになった。
『わかりました…』
フィアは真那の過去を語った
人形使いの母と僧侶の父弟が1人いる事…
彼女に手を差し伸べてくれる人が1人でもいる様にと祈りながら
優れた回復能力を持ちその異能で敬虔な信徒である母からは虐待を受けていた事
回復魔法で色んな人を助けたが誰も助けてはくれなかった事
フィアの言葉は徐々に強くなって行った
暴力による傷は言えたが心の傷は癒えなかった事
村が魔物に襲われ家族も自身も殺されかけた事
家族を人形にくっつけて蘇生した事を…
フィアは知っている限りの過去を話した
言葉にしいて改めて思った、どれほど悲しかったのだろうか…
愛してくれる筈の親から嫌われる…その辛さは筆舌に尽くしがたかった。
『ありがとうございました、後は我々にお任せ下さい』
署を出たフィアはリュールを待たずに人形に語りかけた
『魔力の豊富な場所に行きたいのです、案内してくれますか?』
人形の指を刺した方向に向かい植物園に入った
道中様々な植物が紹介されていたが中にはシラヌイで狼煙に使われている草もあった
奥まで進むとそこには巨大な花があった
『ここはリュールさんが言っていた…』
フィアは虚空に向かい声を掛けた
『…見ているんですよね』
魔力が枯渇している筈の大地で転送魔法が使える場所は限られていた
魔法陣が浮かび上がり背後に真那が現れた
『どうしてエヴァンさんを…殺したのですか?』
フィアは後ろを見る事なく言った
『だって…嘘つきなんだもの、あんなに嘘をついてたら私達も信用できなくなっちゃうよ』
首に冷たい物が当たる感覚がした
『それよりも…そっち側に着くんだ?』
『…っ!』
フィアが振り返ると真那の背後にはリュールが弓を構えていた
放たれた矢は鎌の一振りで弾かれた
真那はフィアを掴むと魔法陣が浮かび上がった。
『用があるのはお姉ちゃんだけだからね』
転送された場所は海岸だった
『ここなら誰にも邪魔されないよ』
真那は子供のイタズラの様に笑って見せた
鎌を構える真那の背後に黒いドレスを纏った人形が大鎌を携えて降りたった。
『家族はどうしたんですか?』
『押収されちゃった…ああ見えて生きているから今頃、暗い場所で凍えてるか、調べるために解体されてるかもね』
『…』
フィアはサイズアップし短剣を構えた
(私が無理でも…場所はリュールさんが見つけてくれる筈です!)
真那が指を鳴らすと黒い壁が2人を包み始めた
『フィアさん!逃げて下さい!』
リュールが壁の上から侵入したが既に遅かった
壁は頭上を包み込み逃げ場は無くなっていた
『余計な相手まで付いてきちゃったけど…まぁいいか
これで邪魔者を排除できるし!』
人形と真那は左右に分かれフィアを左右から挟む様に鎌を振るった
フィアは後方に避けリュールは上空に飛び矢を放った
真那は地を蹴り上空のリュールに向けて武器を振るった
『そんな攻撃じゃ効かないよ』
真那は挑発する様に言った
『貴女の能力は卓越した回復能力なのは知っています
大技を撃たせ疲労を狙う作戦なのは見え透いてますよ』
『ちっバレたか…』
一方でフィアは人形の振るう大鎌をなんとかやり過ごしていた
精霊の宿った人形は遠距離から魔法を放つが大鎌に全て捌かれていた
それを見ていたリュールが弓を人形に向けた
『余所見しちゃダメだよ』
真那は手に炎の魔法を溜めていた
『!?』
真那は炎を忌々しい目で見つめていると灼熱の中から
短剣が飛んで来て真那の肩に突き刺さった
『魔法、使えたんですね』
真那は短剣を引き抜きながら言った
『本当はあんまり使いたく無かったんだけどお姉ちゃんを捕えるためだから…ねぇ!』
真那は一気に距離を詰めて鎌を振るった
リュールは飛び退きながら矢を放ち真那の接近を防ぐと
離れた位置から技を放った『乱れ打ち』
真那は鎌に魔力を込め大振りで振るった『パニッシュ』
無数の矢は全て弾かれ地上に落ちた
『もう回復したんだ…それならこっちでやるしかないか』
『人間族にとって特殊でも私達は元々回復能力に優れていますからね』
真那は鎌に魔力を込め始めた
『今です!』
左右から魔法を放ち同時に捌けない様にしたが人形は素早く回避するとフィアに向かって大鎌で振り払った
短剣で受け止めようとするが逆に弾き飛ばされてしまった
防御魔法のおかげで衝突のダメージを軽減できたが
大鎌を軽々と振り回す人形に苦戦していた
『先程一瞬だけ動きが鈍った時がありましたが…もう一度あの隙を狙えれば…』
フィアは魔法で牽制しながら距離を空けて応戦した
真那は魔法を連続で放ちリュールは紙一重で回避していた
『精霊が見える程の特殊な眼、魔法が触れるギリギリの範囲が分かるんだね』
『エルフならみんな同じですよ』
冷めた顔で言い放つと弓を構えた
(狙うのは背後…お願いします!)
『私もエルフに産まれていたら普通に生きられたのかな』
その言葉に一瞬だけリュールは動揺してしまった
過去にリュール自身が何度も願った事だったからだ
エルフには世界樹の下層と上層で役割が分かれていた。
下層は従来の役割を担い森や世界樹の樹幹の世話を行い
上層の世話をする者は護人呼ばれ特別な役目があった。
天高く聳える世界樹の樹冠は果てしなく広く護人となったエルフはその世話に一生を費やす事になるからだ。
そしてその激務は数千年生きるエルフが数百年で寿命を迎える程だった
リュールは両親が選ばれ離れて暮らしていたが別の種族に産まれていたらと思わずにはいられなかった。
鈍色に輝く弓形の刃がリュールの首を捉えていた
その刹那、真那は吹き飛ばされた
フィアの人形が殴り飛ばしたのだった
『どうしてこちらに?!』
リュールが驚いてフィアの方を見ると
フィアは動かなくなった人形の腕を切り落としていた
『ブルータル・エッジ!』
真那はゆっくりと立ち上がると口を拭った
『流石に2対1は厳しいですね…』
『4対1ですよ、人形はもう戦えません』
真那は一呼吸つくと
『流石に使うしかないか…』
真那は人形を背後に移動させた
リュールがトドメを刺そうと矢を放つが
真那は避けずに受け止めた
『うっ…ぐッ"…』
人形から伸びたチューブの様な管が真那の背中から血を啜っていた。
『はぁ…はぁ…』
管が外れると真那はその場にへたり込んだ
矢の跡に背中の痛々しい傷跡は直ぐに回復していった
人形の腕は徐々に再生していき身体には赤い紋様が浮かび上がった
『私は劇から降りさせて貰うね』
リュールが矢を放つが人形が真那の持っていた鎌を受け取り全て弾いた
真那は一礼しながら後ろに下がると黒い壁を通り抜けていった
人形は跳躍し大鎌の元へ着地するとそれを片手で持ち上げた
フィアとリュールは遠距離攻撃を仕掛けるが
ほとんど弾かれていた、幾つか当たってはいたがそれも一瞬で回復してしまった。
壁に視線を移したリュールにフィアは言った
『…以前戦った時は突破は出来ませんでした』
『方法は他にもありますよ!』
リュールは地面の一点を見つめていた
魔力が先に枯渇する事を悟ったフィアはシャドーウォークを使い人形から距離を置いた。
『気配を消しても無駄なのに』
真那は壁の向こう側からフィアを目で追っていた
『乱れ打ち』
リュールは無数の矢を放ち人形の動きを封じていた
背後からフィアが奇襲を仕掛け蹴り上げた
人形は空中で立て直しフィアに鎌を振り上げる
『フィアさんっ!』
リュールの放った矢が振り上げた腕を貫いた
フィアは頷くと短剣に妖精を宿らせ関節部分を両断した
『ブルータル・エッジ!』
片腕を落とされた人形は微動だにしていなかった
腕は直ぐに再生し片腕でフィアの首を捉えると地面に叩き付けた
『ぐあっ!』反射的に声が漏れ
防御魔法はかけてあったが背中に激痛が走った
リュールはフィアを回復したが
人形は馬乗りになり鎌を振り上げた
フィアは鎌が振り下される寸前で避けた
ガキンと鈍い音がしてフィアの耳を劈いた
鎌は岩に深々と突き刺さり
避けなければ首を刈り取られていたのは容易に想像出来た。
深く刺さった鎌を見てフィアは短剣で人形の肩を突き刺した
『これで…終わりですっ!』
両手で力を込め思いっきり掻っ捌いた
リュールは人形の頭を射抜いた、隙を与えずに
反り返った人形をフィアの人形が蹴り飛ばした
フィアは立ち上がり短剣を構えた
『やっぱり戦闘は他のメンバーに任せた方が良いのかな』
真那は不機嫌そうに指を動かした
ぼろぼろになった人形はフィアに抱き付くと魔法陣が浮かび上がった
真那がフィアを掴むとフィアは黒い壁の外に移動されていた
『これで1対2…形成逆転だね』
真那は人形の腕を再生させながら言った
フィアの人形とリュールは黒い壁に囚われたままだった
『驚かないんだ?お姉ちゃんは相変わらず甘いね、その短剣は何の為にあるの?来るのがわかっていたなら突き刺す事も出来たのに…。』
真那は嘲笑しながら炎の魔法を放った
フィアも魔法で相殺したが人形に邪魔され回避に専念せざるを得なかった。
『埋火!』
人形ごとフィアを炎で薙ぎ払ったが炎の中から現れたフィアは真那に掌底を放った。
『ぐ…っ防御魔法があるのを忘れてた』
(攻撃をしても回復されるのはわかっています、私が勝つには…)
思案するフィアに真那は言った
『お姉ちゃんは知らない様だから教えてあげる、あの人は私を捉えるためだけにお姉ちゃんに近づいたんだよ』
そう言いながら真那は両の手に魔法を溜め始めた
フィアは真那を止めようとするが人形に阻まれた
(これじゃあ…手が出せない)
フィアは目線だけを動かし真那を確認した
『でも、一発だけだなんてお姉ちゃんは優しいね、人形使いならコンボを使わないと…勝てないよっ!』
『火炎!』
(ーッ!?避けられない!)
地面には焦げ跡が残りフィアの身体から煙が立ち上っていた
『今度はこっちの番です!』
真那はフィアの身体ではなく鞄から炎が燃え上がっている事に気付いた
フィアは鞄を放り投げると一気に間合いを詰め真那の腹部に拳を叩き込んだ
鞄から煙が立ち上りそれはSOSのサインを指していた
(エヴァンさんが殺されたのは私がアールヴヘイムで伝えなかったのが原因、アールヴヘイムの事だって、ここで私が…私が止めないと!)
吹き飛ばされた真那は人形を使いフィアを攻撃しようとしたがフィアの方が素早かった
(もし私が無理でも…ヨルダさんや警察の方が捕まえてくれる筈です)
そのまま真那を蹴り上げ空中で跳武三連撃を叩き込んだ
(イースマキナでは執事を誑かし、アールヴヘイムではニーズヘックの眷属を解放した、そして地の国オレイアスではエヴァンを手に掛けた…)
善人なのか悪人なのか一発一発蹴りを入れる度に罪悪感の様な感情が湧いてきたがフィアはそれを押し殺した
かかと落としには派生せずに短剣を構えた
真那の怯える目が見えたがフィアに迷いは無かった
『私が…止めるんだっ!!ブルータル・エッジ!』
…
……
『黒い壁が消えていく…決着がついたんですね』
壁の外には倒れた真那を心配そうに見つめているフィアの姿があった
(切り傷は無い…彼女も言っていましたがほんとに甘い方ですね)
リュールは蔦を取りだすと蔦は真那に絡みついた
『お願いします』
その言葉で蔦には精霊が宿りより強固になっていった
『あの…』
『安心して下さい、絶対に傷付けたりはしませんから』
『それよりも…利用していて申し訳ありませんでした』
リュールはニーズヘックの眷属をたぶらかした犯人を探す為に案内を任された事などの経緯を話し深く頭を下げた
『謝るのは私の方です、自分の勝手な判断で迷惑をかけてしまいました。』
フィアは謝罪をすると真那に何度も助けられていると伝えた内容が内容だけに具体的には言えなかったが。
『あの…会う事は出来るのですか?』
『30分程ならお話は出来ますよ、ですが…彼女はいろんな大陸で問題を起こしましたから…どこに収監されるかは会議で決まりそうですね』
真那は目を開けて言った
『お姉ちゃ…』
『もうこんな事はやめて下さい、なんで…私を助けてくれたのですか』
フィアは泣きそうな顔で真那の言葉を遮りながら問い詰めていた
アールヴヘイムでクロエ達に手紙を出そうとしていたがシラヌイの王直属の暗殺者、黒闇天の存在をフィアに教えクロエとニーナに被害が出るのを防いでくれた事があった。
時の街イースマキナでは王子同士の決闘に魔法人形として参加し第二王子のルカを勝利へ導くがフィアが魔法人形ではない事が世間に知られればルカの立場が危ぶまれる可能性があった。
それはイースマキナへは素顔で入る事は出来ないことを意味していた、その事を真那は利用されていると教えてくれたのだ。
『良いように利用されているのが許せなかっただけょ…』
真那の声は小さくなって言った
話していると重い何かを引くような音に紛れ聞き慣れた蹄の足音が聞こえてきた。
夷隅真那 人間族
LV35 ジョブ:ブラッティナイオ(人形使い)
HP:300 STA:190 (80) DEF:80(20) INT200(90)
MEN:90(30) AGL90(40) LUK30
専用技:パニッシュ:威力80+INT
魔力を込めた鎌で衝撃波を放つ
クリムゾンリーパー:威力150+INT 火属性
炎を這わせた鎌で相手を焼き切る
テンダネス:威力100+STA
異能:超回復 傷が自動で回復していき
回復系の魔法を少ない魔力で使う事ができる
本人の魔力が枯渇していても自身の傷は回復する
その力が何処から来ているのかは不明。




