第十九話 赫灼のヴィクター
フィアはローグギルドで最初の授業を受けていた
そこでは気配を消す練習や弱点部位を狙ったり距離によって短剣の持ち方を変える新しい戦い方を学んだ
一方でリュールはフィアから情報を探っている事に後ろめたさを感じていた
フィアの授業が終わる頃には夕方になり
宿で2人次の目的地の話をしていた
そんな時に外からこちらを覗く怪しい獣人族の男がいた
リュールは飛び出すと矢に精霊を宿らせると矢を放った
しかし男は路地裏に入り2人は後を追った
そこにいたのは赫灼のヴィクターと呼ばれる、数十年前に追放の刑を受け処された筈の男だった。
翌朝フィアとリュールは警察署を訪れあの夜の状況を説明していた
警官は証言を記入し用紙をデスクに置いた
『これで質問は終わりです、ありがとうございました』
『あ…あの、かくしゃくのヴィクターってなんなんですか?』
老人の事が気になったがどう聞いたらいいのか、わからなかった
『少し長くなりますが宜しいですか?』
獣人族の警官は困った様に頬を掻いてから聞いた
『ヴィクターも元々は仲間と共に冒険をし、それを人生の是とする、立派な冒険者でした。』
『豪胆な性格に加え回復系の異能を持っていたヴィクターは破竹の勢いで冒険者の道を駆け上がり上級冒険者にまで至る程でした』
『彼の異能は血を浴びると回復する能力で、彼のジョブであるアサシンと相性が良く,血を浴びるように闘い長い髪を紅く染め赤鈍色に輝く、その姿から赫灼の異名がついたのです。』
(あの赤い髭は…返り血…だったのですね)
『問題が起きたのは上級冒険者になってから直ぐの出来事でした、ダンジョン内で仲間割れをしたヴィクターは…仲間を手に掛けたのです。』
『仲間殺しは連れ添った時間が長いければ長いほど重くなります、そこに掟が合わさり…ヴィクターは極刑に処されました…これが我々が知っている彼の最後です』
『当時、獣人族の上級冒険者が起こした事件は直ぐにオレイアスに広がりました。』
『流刑は奈落にある無限の荒野へ落とされる刑の事です』
『御者さんも無限の荒野と言っていましたが…一体どんな所なのですか?』
『光は差し込まず大地も枯渇し魔物もいない、そんな場所で餓死するまで放置されるのです…ですがどうやって…』
フィアは真那の転送魔法を思い浮かべていた
『あの…転送魔法を使えば戻れてしまうのでは無いでしょうか?』
『大地が枯渇しているって言うのは魔力が殆どないって意味なんです、転送魔法は移動する場所に魔力が潤沢で無いと使えないのです』
そんな問答をしていると大柄な男が入って来た
『いつまで聞き込みをしているんだ?』
『それは私が…』
フィアは自身が質問を投げかけていたことを説明した
『ははっ!逆に聞き込みされていたのか!』
大柄な男は豪快に笑いながら言った後、男にそっと耳打ちした
(男が目を覚ました)
それを聞いた男は椅子から立ち上がると扉を開けフィアに退出を促した
(…何かあったのでしょうか?)
フィアが部屋から出ると男は帽子の鍔を軽く触りながら会釈をした。
『ご協力ありがとうございました。』
フィアは会釈をするとリュールのいる入り口へ向かった
『随分と時間が掛かっていましたが何かあったのですか?』
『うっそれはですね…』
…
『なるほどフィアさんの質問の方が多くなっちゃったんですね、それなら私からの質問はまた今度にしましょうか』
『質問ですか?それなら…』
『そう言えば関所が封鎖されて外には出れませんから…宜しければダンジョンに入ってみませんか?』
『行きたいです!でもなぜ封鎖されているのですか?』
フィアとリュールは冒険者ギルドへ向かった
『侵入経路やどうやって流刑を生き延びたのかを徹底的に尋問するらしいです、封鎖は逃さない又は奴らの仲間を街に入れない為の策ですね』
『罪人の侵入を許した事が余程効いたのでしょう… さぁつきましたよ』
扉を開けカウンターまで行くと依頼を見せてくれた
『…どの依頼も受注料が高いですね…どれにしましょうか?』
『魔鉱石などが採れるからでしょうか、迷いますね』
2人で悩んでいると背後から声をかけられた
ローグギルドで出会ったピンク色の髪の獣人族の女の子と同じく獣人族の緑髪の女の子だった。
『宜しければ私達と入りませんか?、丁度そちらも2人の様ですし』
フィアとリュールは快諾し2人の依頼を手伝う事になった
『私はセリアと言います…フィアさん?ですよね』
緑髪の子が言った
『実は厨房から見ていたんですよ?』
『あのステーキをセリアはさんが作ったんですか?!』
驚くフィアに照れながらセリアは言った
『僭越ながら…』
次にピンク髪の子が自己紹介をした
『私はフラウ、ギルドの事務室で一瞬だけ会いましたね、覚えてます?』
『はいっ!カラフルな色だったので…』
『この色の良さがわかるなんて、センスがありますね』髪を触りながら鼻を高くして言った
次にフィアとリュールが自己紹介をし
4人は依頼を受け目的地に赴いた
前衛 セリア:聖騎士
後衛 フラウ:ラヴェジャー(ローグの上位職) フィア:ローグ リュール:精霊使い(ヒーラー)
この様なパーティー構成となった
歩いていると冒険者の往来が激しくなっていった
みな袋一杯の鉱石を両手で抱え何処かへ向かっていた
唯一違っていたのは表情だった、まるで全てから解放された様な表情の人から絶望的な表情の人まで様々だった。
興味深げに見ていたフィアに気付いたのかセリアが教えてくれた
『ダンジョン内では鉱石と魔鉱石は取り放題なんですが、昔はそれを悪用して洞窟を爆破したりする異邦人も居たみたいですね』
『どの国も規則やガイドラインが広まるまでは相当苦労したみたいです、ティターニア様も思い出しては愚痴られていましたよ』
(それで冒険の話を聞いてきたんですね…そんな昔から生きているのに森の外には出たことはないのでしょうか?)
リュールとフラウの会話にフィアは考えているとセリアは洞窟の前で止まった
『最奥にいる魔物の討伐が今回の依頼内容になります、難易度は四つ星、巨大な両翼を持った蝙蝠が対象になります』
セリアは壁に手をつくと魔法を使い始めた
『少し離れていてください』
『なるほど、それでフラウさんは弓を持ってきたのですね』
フィアの言葉にセリアは笑いながら言った
『ははっ…フラウの弓は敵の攻撃が痛いからですよ、弓を使うなら弓使いを選べばいいのに…』
『悪かったですね、でも布装備で敵に近づくのはめちゃくちゃ危ないんですよ?』
フラウはフィアに言った
『近づかずに戦える弓使いってジョブがありまして…』
セリアは茶化す様に言った
フィアは2人のじゃれあいを楽しそうにみていた
『これはダンジョンに強化魔法を使っているのですか?』
不思議そうに見つめていたリュールが質問しフラウが説明してくれた
『強度を上げて戦闘や採掘中の崩落や落石を防ぐんです』
『獣人族(わたし達)がいなければギルドがやってくれますよ…少しだけ手数料を取られますが』
『なるほど、既にいくつか見えていますね』
リュールの言葉通り洞窟内は岩肌から突き出た鉱石の発光で外からでも明るく見えていた
『あれは魔鉱石の発光ですね、本来なら受注時にツルハシを借りるのですが今回は私達がいるので必要ないですね…石に目を奪われて魔物から不意打ちを貰わないで下さいね?』
『き、気を付けます』鉱石に目を輝かせていたフィアは一瞬だけ言葉に詰まった
四人はセリアを先頭にダンジョンに入った
フラウはツルハシを取り出すと軽く叩くと鉱石を掘り出した
『こうやって!…壁から突き出た鉱石を採掘するんです』
青い魔鉱石をどうですかと言わんばかりに2人に見せつけた
『私もいいでしょうか?!』
フィアとリュールは採掘を学びながら進んだ
楽しんでいるとセリアは小声で注意を促した
『気をつけてください、この先…いますよ』
フィアはローグギルドで学んだイーグルアイを使い
他3人は種族特有の瞳で明かりのない洞窟の中でも見ることが出来ていた
暗闇の中には黒い鱗で覆われた二足歩行の蜥蜴の様な魔物がおりフラウは盾を構えた
『フィア、ローグの先輩として戦い方の見本をお見せしますのでよく見ていて下さい』
『既に警戒されています、ここは…』
フラウはセリアの言葉を無視し横を通り過ぎる際にウインクをすると暗闇に消えた
洞窟の中を飛び上がり空中で身を翻すと魔物首を逆手持ちのダガーで掻っ捌いた
スタッと着地しこちらに向き直った、ドヤ顔で見つめていたが仲間がやられた事で周りの魔物から総攻撃をくらっていたがギリギリで避けた。
『あ、あの!敵視を…取って頂かないと!』
『フィアさん…アレがパーティーの輪を乱した者の末路です』
セリアは盾を投げ付け跳ね返ってきた盾を掴むとフラウに迫っていた魔物を切り捨てた
フィアは遠距離からダガーを投擲し魔物を倒した
『ふう〜っリュールさんが防御魔法を使ってくれなかったら危なかったよ』
『あの数を相手にいなし続けたフラウさんもお見事です』
セリアはフラウを注意した
『ローグだと初めてだと言いましたよね?不慣れな人がいるのに勝手に先行しないで下さい。』
『…はい』
(耳が垂れてる…可愛い)
みんなで魔物から戦利品や鉱石を集めているとセリアが止めた
『あの魔鉱石は可燃性なので気をつけて下さい。』
『私達の中に炎属性を使う人はいないのでギルドでも注意はされませんでしたが…よっと』
『こっちが可燃性の魔鉱石でこっちが火属性の魔鉱石です』
『なっなるほど…』
赤とピンク色の鉱石は見比べるとわかるが、洞窟で急に出てきても分からないほど色合いは似ていた。
『ちなみにこれが可燃性の鉱石です』
『…』
黒い鉱石は洞窟に溶け込み完全に見分けが付かなかった
『まあ…わからなくとも鉱石鑑定士が見分けてくれるので安心ですよ』セリアは笑顔で言った
ダンジョンを進むと広い空間が広がっていた
そこには先程の蜥蜴の様な魔物と銅像が鎮座していた
『大量にいますね、私が先に仕掛けます』
『私も協力します』
リュールは弓を構えフィアとフラウは影に身を潜めた
『あの石像はストーンマンって言う魔物で、倒すには身体の繋ぎ目を狙う必要があります』
フィアは頷くとセリアは敵に盾を投げ付けた
それを合図にリュールは乱れ撃ちを放った
矢は弧を描き魔物を射抜いた
フィアとフラウは魔物と一気に距離を積めると足を背後から切り裂いた、その場で膝をついたストーンマンの首にフィアはダガーを突き刺し切り落とした
『さよならです』
フィアが一体の魔物を倒している間に周りの魔物は殲滅されていた
『凄い…早いですね』
『私達(3人)は上級職ですからね、フィアは先輩を頼ってもっと思いっきり戦っても良いんですよ』
フラウの言葉に感謝しダンジョンを進んでいると宝箱が見つかった
『私が手本をお見せしますね、ローグなら…こうやって』
フラウは宝箱をぺたぺたと触りながら調べると罠を発見した
『これは…毒針ですね』
罠の解除を仲間は静かに見守っていた、解除には精神力と集中力が必要なのを知っているからだった。
『ギルドでも練習は出来るけどダンジョンの中では仲間の状況によって今開けるべきか考えるんですよ、場合によってはピンチを招いたり…あっ』
飛び出した毒針がセリアの頬を掠めた
『みんなが気を使って静かにしていたのに…なんで解除する本人が話し続けているの?しかも失敗してるし…』
セリアはリュールの解毒魔法を受けながらキレ気味に言った
洞窟の奥から羽ばたく音が聞こえてきた
『…蝙蝠と聞きましたが相当なサイズの様ですね』
リュールは警戒しながら言った
弓に持ち替えようとするフラウにセリアは言った
『先輩として短剣で空中の相手と戦う方法をレクチャーしては如何でしょうか?』
『…』
『本来なら私の様な前衛が敵を叩き落としたり気を引いてる間に仲間に攻撃させたりするのでそこまで難しくはありませんがこの魔物はラヴェジャーの課題になる事もあるので…よく見ていて下さい』
フラウは深呼吸をすると短剣を構え闇に消えた
『あの魔物は音の反響で位置を特定するので、ローグのシャドウウォークが効かないのです』
空中でぶら下がる魔物目掛けフラウは壁を蹴り上げ空中から攻撃を仕掛けるが、かわされてしまった
魔物が獲物を見逃すわけもなく翼を広げフラウに掴みかかった
フラウは振り返り短剣を投擲するがそれも避けられ天井に突き刺さってしまった
『大丈夫なのでしょうか?』
心配するフィアにフラウは言った
『よく見ていて下さい!』
フラウは短剣についていたロープを引っ張ると魔物は空中で止まった
そのまま地面を蹴り上げ天井に突き刺ささったダガーに掴んだ
『ブルータル・エッジ!』
引き抜くと同時に一刀で魔物を真っ二つにした
『あんな隠し機能があったのですね』
『教本に色々書いてあるので見ておいて下さい』
フィアとセリアが話しているとフラウが言った
『ふぅ…地属性の魔法が使えたら楽だったんですけどね』
『それではフィアさんの見本にならないでしょう?』
『これは…フィアさんの新しい防具に良いのでは無いでしょうか?』
リュールの言葉で下を見ると青い玉と翼や牙が残っていた
ダンジョンを出た4人は鉱石を鑑定してもらい
フィアの装備を整えた
『あの…ローグの装備はみんなこんな感じなのでしょうか?』
最初に渡されたタイトな服だったが蝙蝠の装備も露出が多い装備だった
鍛冶屋には列が並んでいた為リュールとフラウは夕飯のお店を予約しに行きフィアとフラウは列に並び鉱石で新しい武器の製作と強化をした。
はじめの
『武器の強化なら鉱石が10個、魔鉱石は15個必要だな強化の回数に応じて必要な数は増えてくるから気を付けてな』
今回のダンジョンでは鉱石が36個、魔鉱石が41個手に入っていた、
(分けようと提案しましたがフラウとセリアに断られた理由がわかりました、30や40では強化2回分にしかならないのでしょう)
結局ほとんどの鉱石を使い2回武器の強化をして貰った
(…2回目で鉱石が20個、魔鉱石は25個も要求されましたが最大まで強化するなら何日掛かるんでしょうか?)
(1日に2回やって二つとも80個近く手に入るとして要求数が10個ずつ増えるなら1人分なら5回は強化出来ますね…良く考えればそこまで大変じゃ無いんですね』
フラウはフィアの武器を強化している最中に自分で武器を修理していた
鍛冶屋を出るとリュールとセリアが待っていた
外は陽が傾き空は茜色になっていた
『依頼を手伝って頂いたお礼に奢ります…フラウが』
『っ!?』
『私の為に依頼を受けてくれたんですよね、お二人には感謝しかありません。』
『私も大変勉強になりました』
フィアとリュールは2人に頭を下げた
(…これ断れない空気になって無いですか!?ダメだ、誰も足を止める気配がない)
ローグギルドで4人は夕飯を堪能した
『昨日は夜中に急に駆り出されるしで…大変でしたよ』
マスターのヨルダはカウンターに座りながら言った
ヴィクターを捕まえたのってヨルダさんなんですか?!
『捕まえたって言っても全く抵抗して来なかったけどね』
『おかげで上層部が訝しんで私まで警備に駆り出されましたよ』
ヨルダは相変わらずの怠そうな声で言った
『普通怪しみますよ』
フラウがジト目で言った
『まぁ…良い事も会ったんですけどね』
ヨルダの視線はフィアに向いていた
『良い事ってフィアさんですか?』
セリアの問いにヨルダは答えた
『ちゃんとローグの技を教えられるからね』
なんだか期待されている様で嬉しかった
ヨルダの話を聞いていたリュールは考えていた
(ギルド経由で不審者の報告は言ってる筈…それでもまだ動かないと言う事はヴィクターからは有益な情報を引き出せていないのですね)
(犯罪者の仲間かも知れない男が近くにいるのに何も出来ないなんて…)
…
……
場所は移り拘置所
ヴィクターは両手に手錠をかけられ檻の中にいた
(結局…街を盛り上げる方法なんて浮かばなかったから捕まったけどこれで良かったのか?)
(適当なタイミングで脱獄して報告に戻らねえとな)
男は手錠で何度も手を擦ったのか赤い字出来ていた
フラウ ピンク髪の獣人族 ジョブ:ラヴェジャー
サブ:弓使い 職業:ローグギルド員
セリア 緑髪の獣人族 ジョブ:ラヴェジャー
サブ:聖騎士 職業:ローグギルド員
ローグギルドの看板娘
フラウはローグがカッコいいと言う理由で入り
セリアは地位を手に入れる為の強さを得る為に入った
自信家なフラウと堅実なセリアは出会った時は互いに話すことすら無かったが飲食店の方の経営が傾くとマスターの代わりに協力して経営を支える様になった。
傾いた理由はヨルダがギルドの生徒に無料で食事の提供などを行っていたからだった
協力する内に3人の仲は徐々に深まっていき軽口や冗談を言い合える仲になって行った。
セリアとフラウは当初は別々の目的が合ったが今ではギルドの従業員兼生徒として働いている。




