第十七話 ローグ
フィアの行方を探していたクロエとニーナの元へ無事な事が知らされたが、2人は目撃者を名乗る女性と話していた
女性は【触れば幸運になれる】という付喪神の迷信を信じた貧民であった
最初こそ同情はしたもののフィアの髪の毛を催促し物扱いした事に憤慨したクロエは女性の提案を突き返した
女性と別れニーナとクロエはフィアの無事を知り安堵するが急に消えた理由はわかっていなかった、警察の知らせを待ちながら2人は直ぐに動ける様に旅支度を始めるのであった
…
一方で付喪神に触れる事で人生の逆転を図ろうとしていた貧民の女性はフィアが行方不明になった場所、橋の下の規制線の中でフィアを襲った怪しい男達と話していた
どこに隠れて居たのか…どこまで見ていたのか男達は大金をちらつかせ女性から話を聞き出すと…その場で切り捨てた。
…
フィアとリュールはティターニアの計らいでご馳走を堪能しアールヴヘイムの街で新しい人形や精霊使いの戦い方を教えてもらっていた
その後、双子のお店によったフィアは髪飾りと助けってもらったお礼に自身が入れられていた花一杯のガラスケースに2体の人形をサイズアップし器用に入れた
その姿は双子が花畑で顔を突き合わせて寝ている様だった
双子は深く感謝しフィアと抱擁を交わした後にフィシスの森へ入った
道中、リュールは世界樹について話した
元々は森と世界樹を白竜フレースヴェルグが守り地下の根を黒龍ニーズヘックが世界樹を神獣ラタトスクがそれぞれ守っていた
エルフや妖精は森や守護者の回復をする事で秩序が保たれていた
しかしこの三匹の守護者のうちフレースヴェルグが行方をくらませてからはニーズヘックの負担が大きくなり眷族からは反発されている事を知らされた。
しかしニーズヘックはティターニアとの契約通り根を守り続け、眷属ですら契約を破った離反者として処断を下す事も厭わなかった
そして森を出た2人を迎えたのは馬型の魔物クアドリガだった。
『ここからは関所から街まで馬車で向かいますよ』
フィアもよく知っている魔物だった
『クアドリガ※で向かうんですね!』
※馬の様な魔物で狙って人や家畜を襲わない為、友好的な種と認識されているが、強靭な足腰や興奮した際に暴れた事例がある為魔物に区分されている。
『…いや、あんた達が乗るのはこっちだ』
2人に対し獣人族の御者は引いている魔物のに近づき足をかける用の鐙をおろした
フィアは慣れた様子で近づき軽く撫でた後、跨った
『よろしくお願いしますね』
反対にリュールは手こずっていた
(まさか、こっちに乗る事になるなんて…乗馬の練習なんて…していませんよっ)
フィアは馬から降りるとリュールを手伝った
『前のタテガミと手綱を掴んで…足元の輪っかに足を掛けるんです』
『蔵の後ろの出っ張りを掴んでそのまま跨るんです』
『胸が引っかかって…んっ!、乗れました!』
『よし、行くか…』『まっ待って下さい!』
御者はリュールとフィアが乗ったのを確認すると魔物を走らせた
背に乗り揺られながら草木の無い峡谷を進んでいた
道中リュールが獣人族について教えてくれた
『獣人族は耳が非常に良く、夜目も効くため山々に洞窟を掘ったりダンジョン内で魔鉱石や宝石、鉱石を採掘して数人の群れで生計を立てている者が多いんです』
慣れない馬上でバランスを取りながら続けていた
『一つだけ気を付けて欲しいのは獣人族は縦社会で下の者が上の者に意見を出す事は許されていません、外から来たルールを知らない人には皆友好的なのですが、何があっても彼等の在り方に口を出しては行けませんよ』
(さっきの印象だと少しだけ不親切な感じはしましたが…どの様な人達なのでしょう)
フィアに期待と不安が入り乱れる中リュールは言った
『かく言う私も初めてなので緊張はしていますが』
『そうなのですか!?』
『本を読んで勉強はしていましたが実際に見てみると…感動しますね』
(外の世界はこんなにも枯渇していたのですね)
リュールは精霊も見えず草木の生えない道が果てしなく続いている事に心の中で嘆いていた
『とても力強い感じがしますよね!…そうだ!』
フィアはイースマキナのダンジョンで見た景色を話したリュールは興味深そうに聞いていた
『入国手続きや馬車の手配が完了するまでダンジョンに入ってみても良いかもしれませんね』
フィアは喜ぶとリュールは静かに言った
『その時はお手柔らかに頼みますよ、私はダンジョンの経験がありませんので』
『任せて下さいっ!』
リュールはフィアの言った力強いと言う言葉を頭の中で考えていた
(何も無い死んだ土地もそれがわからなければ力強いと言う表現になるのでしょうか…ギルドの皆は他の種族とは価値観が合わないと言っていましたが、私は…)
『見えてきましたよ!関所です!』
フィアの言葉で前を向くと木製の壁で出来た関所があった
関所に着くと3人はクアドリガから降りた
『俺たちはあっちから先に入って待ってるからな』
御者はそう言うと魔物を引いて別の入り口へ向かった
フィアとリュールは関所の入り口で獣人族に通行書とギルドカードを見せた
確認をした後、荷物の検査をする様に別々の場所へ通された
検査中、獣人族は鼻を近づけてきた
『…匂いは普通の人形と変わらないんだな』
フィアは自身の身体を嗅いだが花の香りがした
『僕たちは匂いを嗅ぎ分ける事に長けているんだ、小物や荷物の中に危険物を隠しても直ぐにわかるんだよ』
(私には花の香りしかしませんが彼らには人形の匂いがするのですね)
フィアは周りを見渡すと骸骨のマークに禁止標識がついていた他にも動物のマークや植物のマークにもついていた
『一通り確認したけど問題ないね、ようこそネメア大陸へ』
奥に通され外へ出るとリュールが御者に乗馬の仕方を教わっており、3匹のクアドリガは水桶から水を飲んでいた
『お待たせしました』
再び魔物に跨り街へ出発した
関所を振り返ったフィアは驚いた
『なっなんですかあれはっ!?』
なぞのもじゃもじゃが壁に集まっていたからだ
『あれはタンブルウィードといってこの地方独特の植物なんですよ、本来ならあちこち風に飛ばされて種を撒き散らすのですが…引っかかっていますね』
『あれが植物なのですか…』フィアは不思議そうに見ていた
それを聞いていた御者が口を開いた
『そういえば嬢ちゃん達は魔鉱石を目当てに行くんじゃないのか?』
『私はローグになりたくて来たんです』
『珍しいな、この時期にローグ目当てに【オレイアス】に来る奴は初めて見たな』
フィアは時期について聞いた
『この時期は気温も下がってきて過ごしやすくなるから殆どの冒険者は魔鉱石目当てにやってくるんだよ、まぁローグ自体に需要が少ないのもあるが…』
『それは…対人向けだからですか?』
『それもあるが、ギルド長があれじゃあなぁ』
『あっでも一つだけ補足するとな、エルフの嬢ちゃんが言ってた縦社会は【強さ】で決まるんだ、決闘を行い群のポジションを狙うんだが…その際にローグが役に立つんだ』
『もちろん決闘以外で人に使ったら群れから追放、他国なら速攻で捕まり、オレイアスに連れて行かれた後は峡谷の最下層へ落とされ無限の荒野を彷徨う事になる』
フィアは峡谷の下を見つめた
照り返す太陽に照らされた切り立った絶壁は底が見えず落ちれば登っては来れない事を理解した
『さぁ…お目当てのオレイアスが見えてきたぜ』
石の壁の向こうには聳える山々が見えていた
3人はクアドリガから降りるとリュールは慣れた様子で撫でており魔物も気持ちよさそうに目を細めていた。
『ありがとうございました』
礼を言うと御者は積荷を慌ただしく運びながら言った
『忘れてた!ローグになりたいなら嘘はつくなよ!』
『…?わ、わかりました!』
その後、門番に冒険者カードを見せると門が開かれた
直ぐ目についたのはアーチ状の大きな看板だった
【オレイアス・ストックヤード】と書かれていた
中にはカラフルで古めかしい石造りの家々が向かい合わせに並んでいたがヒビが入りどこか廃退的なイメージを思わせた
道沿いに向かい合わせで並ぶ街並みはシラヌイと同じだったがシラヌイでは白い外壁に黒い屋根の統一感のある作りだったがこの街は真逆だった。
『さっそく向かいましょうか』
今回は2人とも旅の経験がない為、2人で役所へ向かった
道中沢山の獣人族や人族とすれ違った、クロエが身に付けていた様な甲冑を纏った冒険者や複数の人形を身に付けた人形使いなどがいた
各人形に攻撃や回復などに特化した装飾が施されていた
(あんな使い方もあるのですね)
役所に入ると旅の目的や滞在期間が短い理由を説明し申請を出した
後日冒険者ギルドから発行した通行書を渡す様に言われ
フィアはローグのギルドへ向かいリュールは宿を探す事にした
『待ち合わせは看板の下にしましょうか…』
『待たせてしまうかも知れませんが…いいのですか?』
『問題はありません、それにお買い物で私の方が遅くなるかも知れませんよ?』
遅くならない様に約束し別れた
…
……
『役所で頂いた地図通りならここにあるはずなのですが…』
フィアの目の前には飲食店しか無かった
時間は15時になりフィアは焦り始めていた
(お店の中に入って店員さんに聞いてみた方が早いでしょうか…』
悩んでいると何かに引っ張られ感じがした
『…えっ?』
振り向くと人形を盗られていた、男の懐でサイズアップしそのまま男を押さえつけ拘束した
『まっ待て!すまなかった!これはローグの練習で…』
必死に謝罪する男にフィアは食いついた
『ローグになるにはどこに行けばいいのですか!』
フィアは地図を見せた
男はしばらく考えた後に言った
『うーむ…教えても良いが俺から聞いたって言うなよ?』
『もちろんです!』
『そこの飯屋で…』
…
『本当ですか?…わかりました』
フィアは店に入りカウンター席に座り男に教えてもらったメニューを注文を取りに来た女性に言った
暫く待っていると鉄板の上に分厚いステーキに石窯パンにマッシュポテトにスイートコーンが乗せられていた
『お待たせしました、ラヴェジャーズステーキです』
…騙された、気付くのにそう時間は掛からなかった
固まっているフィアの隣に店員が座った
よく見ると他の従業員の服装とは違っていた
藍色の髪色に肩までのレイヤーカットの獣人族の女性だった。
『誰から聞いたのか知らないですが…冒険者がローグギルドに何をしに来たのですか?』
気付くと鞄の中にあった筈の冒険者カードを盗られていた
(まったく気付かなかった…この早さを見切れる様になれば)
フィアは唾を飲み込んだ
『ローグになりたくて来ました』
女性は暫く考えた後に気怠そうに言った
『それじゃあさっさと、試験を始めましょうかぁ』
『私はヨルダ、ローグギルドのマスターを務めています』
『私は…』
『まず最初にローグになりたい理由を教えてくださぁい』
フィアの自己紹介を無視しヨルダは面接を始めた
『…勝ちたい人がいるからです、その人は私では到底太刀打ち出来ないほどの強さで…』
『はい、それじゃあ次はローグになって何をしたいのかを教えてください』
『その人に勝って自由を手に入れる為です』
ヨルダはフィアを見つめた
(…うーむ、罪人ならギルドから知らせが来てるだろうけど)
『いかんせん話に具体性が無さすぎてね』
『えっと…ごめんなさい、詳しくは…言えません』
『このままだと不合格だったとしても?』
『…』
(やはり無理なのでしょうか…でも見ず知らずの人に迷惑はかけられません)
フィアは俯きながら言った
『言えない…です』
ヨルダは深くため息をついた
『そうですか…』
ヨルダはフィアの前のステーキを素早く切り分けると一切れ口に運んだ
数回噛むと飲み込みフィアに言った
『残念ながら…合格ですね』
驚きを隠せないフィアにヨルダは言った
『ステーキが温かい内に終わらせるのが最初の条件、次に嘘をつかない事、最後に…思いやりがある事。』
『でも不合格だと…』
『本来ならお店の中で謎解きをして貰う筈だったんですが暗号を知っていたので、少しだけ趣向を変えたんです』
ヨルダは紙を取り出し食べ終わったら記入する様に言うと裏に入って行った
事務所に入ると椅子に深く腰掛けた
中ではピンク色の髪をした獣人族の女性がサンドウィッチを頬張っていた
『…んっ良かったんですか?あんな簡単に合格させて』
『今回は完全にこちら側の落ち度ですからね』
ヨルダは辺りの匂いを嗅いだ
『すんすん…バラしたのは最近入ったあの子ですか、はぁ…後で注意させておかないと、今日動けるのは…』
『ヨルダさんだけですよ、私もセリアさんと交代で休憩をとっているので無理ですよ』
ピンク髪の獣人族が食い気味に言った
『マスターなら10秒もかからないじゃないですか、どうして自分で行かないんですか?』
『その10秒がどれだけ疲れるか…また新しい謎謎を考えてましょうか』
事務所の扉がノックされ緑髪の獣人族の女性が入って来た
『マスター…』紙を受け取ると机にしまった
『それではフィアさんついて来てください』
気怠そうに立ち上がると店内の細い道を進み何も描かれていない扉に手をかけた
そこには階段があり地下へと続いていた
『この先がローグギルドの練習場です』
軋む床を降り地下へと着くとヨルダは装備を一式渡した
『いまの装備もとても似合っていますがローグが身につけるべき装備はこちらです』
渡された装備は体型がはっきりと浮き出るタイトな服装だった
『これを来て後日また事務所に来てください』
『わかりました…』
フィアはヨルダに感謝を告げると次の予定を相談した後ギルドを出た
フィアはリュールとの待ち合わせ場所に急いで向かった
『お待たせしました』
そこにはリュールがベンチに座り買い物袋を横に置き本を読んでいた
手を止めフィアは暫く見つめたあと言った
『…何か食べて来たのですか?』
フィアは経緯を話した
『そんな事があったのですね…夕飯はどうしましょうか?』
『まだ…いけます』
ステーキにパン、マッシュポテトを平らげたフィアのお腹は服の上からでもわかるほど膨れていた
『その台詞は限界の人が使う言葉ですよ』
リュールは楽しそうに笑いながら言った
2人は宿に入るとシャワーを浴びた後今後の予定を話した
『明日中に許可証と馬車の準備が整えば明後日には出発出来ますよ』
『わかりました、リュールさんがいてくれて本当に助かりました』
『気にしないでください、森の為に闘ってくれた事への恩返しですよ』
…
……
場所は移りシラヌイ城
王は退屈そうに家臣達の報告を聞いて来た
『それで…下水道に出た"事にした"魔物はどうしたのだ?』
『近隣のギルドから抜け出した事にし、警察が処理致しました』
『そうか…』
王は目配せをしもう1人の男に合図を送った
『異能者の賊についてですが各国で、不審な動きが見られましたが、未だに尻尾すら捕まめてはいません』
『唯一の目撃者はシラヌイの冒険者ですが、それも優れた回復能力を持った年端もいかぬ人族の子供だったと…』
報告を受けた王はため息をついた
『奴等が目を付けた者に危機が迫れば現れると踏んでいたが…そう単純ではないか』
『助け出されると分かっていたのか、ただ見捨てただけか…いずれにせよ完成を急がねばな…』
王の見つめる先にはボロボロの古い紙片がありそこには剣と名前が描かれていた【炎尾の剱】
『異能が呪いとなって降りかかる前に…』
※16話、15話に後書きを追記致しました
獣人族:獣の様な耳と尻尾が特徴の種族
群れで洞窟を掘ったりダンジョン内で取れる宝石や魔鉱石、鉱石を採掘して生計を立てている者が多い
耳や鼻は洞窟内の敵の位置や数を知る為に役立ち夜目は暗い洞窟で灯を無しに戦うことが出来る
尻尾は硬く足場の悪い地面でバランスをとるのに役立ち足裏にある肉球は痛みを軽減するのに役立っている
身体能力が高い反面魔法は苦手であり地属性の魔法を持つが建築物や崩れそうな洞窟を頑丈にする際に使う事が多い
縦社会でありリーダーが互いの実力を認めれば部下同士で決闘を行い勝つ事で相手の立場を奪う事が出来る
ただしこれは部下同士の話でありリーダーは例外である
リーダーに下の立場の者が意見する事は許されていない
職業ギルドは剣士、槍使い、ローグ、弓使いがあり
お店は鍛治屋にステーキ屋、トリミング屋(獣人族専用)などがある。




