第十六話 イグドラシル
マヤとリネアの雑貨店で目を覚ましたフィアは
双子の案内でアールヴヘイムのギルドにいるリュールを
頼る様にアドバイスする
リュールは直ぐに森を出るには妖精の女王ティターニアと交渉するのが早いと言い
ティターニアに直接会うためにフィアは精霊使いを目指す事になった
目に見えない存在に受け入れてもらおうと苦戦するフィアだったが森に危機が訪れた時、自身が森に守られていた事に気付いた
許可の無い者を拒む森でフィア自由に動けるのは既に受け入れられているからだった。
フィアは森を守るために戦い、蛇の様な魔物の棘を破壊するのに成功する
森を守った事によりティターニアから森を無事に出る契約と
精霊使いになる為の精霊との契約を結ぶ
その日の夜、仲間に手紙を書いていたフィアの元に真那が現れ、黒い和服の男に会ったことは控える様に忠告する
フィアを襲った黒服の二人組は黒闇天と呼ばれるシラヌイの王直属の暗殺者だった
なぜ狙われるのか分からなかったが、真那のアドバイスで渡り合うために新しいジョブ【ローグ】を習得する事にしたフィアは大地の女神ネメアの眷属である獣人族がいるネメア大陸に向かうのだった。
シラヌイの冒険者ギルド【アステリア】
フィアがギルドで装備更新をした後
依頼を終えた2人がギルドへ戻ってくると香花は急いでフィアの無事を伝えた
喜ぶ2人の元へ1人の女性がやって来た
年配の女性で腰まで伸び切ったざんばらな髪は雑に後ろで結ばれしわくちゃになった服を見て貧民だとわかった
女性は昨晩フィアとすれ違ったと言い詳しく話を聞く為3人はテーブルについた
『…本当に何も見ていないのですか?』
クロエは橋の下で人攫いに襲われたと考えていた
『偶々すれ違っただけなんだよ、それに人攫いなんかいたら直ぐにわかるだろう?』
異能を持つ子供や女性を狙った犯罪は年に数件あり
攫う理由は異能を持つ子供を作る為だった
誘拐は重罪だがそれでも無くならないのは
経典や聖典に載っている能力を有していればそれだけで一生遊んで暮らせる程のお金が手に入るのが理由だった
『じゃあ、なんでわざわざ会いに来たんだ?フィアが無事だったから良かったけど、それは警察に言うべき事じゃないのか?』
横で聞いていたニーナが言った
『それは…付喪神の恩恵を少しでも恵んでもらいたくてね、あの時は暗くて付喪神だって気付かなかったけど』
女性は口惜しそうに言った
『貴女達なら持ってるんじゃないか?付喪神の…破片とかさ』
『そんなもの持ってないし、破片って言うのもやめてくれない?』
クロエは声を強めて言ったが女性は無視して話し続けてた
『図書館の老婆さんは病気が治ったと喜んでいたよ、私だってね…』
女性は微妙に焦点の合っていない目でいきなり身の上話を始めた
村では農家の手伝いをしていたが洋裁学校に入る為に両親の反対を押し切りシラヌイへやってきたが上手くいかず
退学し今は雑貨店で働かせてもらって何とか食い繋いで生活をしており…抜け出す為に付喪神に会いたいと。
同情はしたが仲間を物扱いしたのは許せなかった
『それで…付喪神の仲間なら髪の毛くらい持ってるんじゃないのかい?なんなら泊まってる宿に案内してくれるだけでも…』
クロエは軽蔑の眼差しを向けた
そもそもフィアは付喪神ではないと言ってやりたかったが
余計な混乱を避ける為我慢した
伝承の付喪神は記憶を持つがフィアは持っていないからだ
最もこの人にとっては人との記憶や思い出など、どうでもいい事なのだろう
『触れれば幸運が訪れるって悪い意味で人気になったわね』
今度はクロエが女性を無視し席を立つとギルドを出た
『オーヴィス大陸か…西か東どっちから来るかな?』
『フィアがギルドにいるのなら連絡手段として手紙を勧められている筈だから、いまは直ぐに動ける様にしておいた方が良いんじゃないか?』
二人は気分を切り替えると旅支度の為に雑貨店へ向かった
道中冷たい夜風が2人を吹きつけ、冷静になった頭で情報を整理した
『話を聞いていた妙に思った事は警察の動きが異常なほど速かった事くらいか…あの様子なら警察の聞き込み調査があった時にフィアのいた場所を直ぐに探しているだろうし、その時には既に規制線が貼られていたのか?』
『だから私達の所に来たのかもね、警察の動きが早いのは国の方針だからってのも大きそうだけど、橋下から誰にも気付かれずに人を攫うなんてどうやって…今は警察の捜査結果を待ちましょうか』
…
……
クロエとニーナが出た後、女性は橋下へ向かうと規制線の中へ入って行った…
『此処からなら大きい管が死角になって橋の溝から一方的に下の様子が見えるのよ』
年配の女性は黒い和服の男2人に自慢げに話していた
『なるほど※橋梁添架管か、これが死角になっていたのか…』
※橋の下を通る下水管
男は顎に手を当てて頷いていた
『きょう…なんだって?まぁ何でも良いけど、殺人をバラされたくなかったら14万Gを渡しなさい!』
女性はギルドでの様子が嘘の様に男に凄んでいた
『こっちは約束通り話してきたのよ、ちゃんと持って来たんでしょうね?』
(付喪神の恩恵が受けられない以上怪しい男だろうが成り上がる為には利用してやるわよ)
『ご婦人落ち着いて下さい、いまお渡ししますから…』
男が懐からお金を取り出す間、気分が高揚したのか女性はもう1人の男に近づいて言った
『なんならその防具でもいいわよ?その質感、カイコモグラよね?それも7星以上…ざっと10万は下らないわ』
服をペタペタと触り男を観察していると何かに気がついた
『あら…その刀は?』
女性が腰に掛けてある刀に手を伸ばした瞬間、視界が紅く染まった
…
……
………
並々と注がれる朱色の液体にフィアは目を輝かせていた
ザウワークロッシュと書かれた名前の下にはさくらんぼが描かれており他にも様々なドリンクが用意されていた
フィアはティターニアの計らいで新しい防具の黒いミニワンピースを貰い朝食のブュッフェにも招待されていた
普段なら喜び勇んで食べ物を取りに行くが手をつけられずジュースだけを飲んでいた
(…美味しいっ!)
『おはようございます、昨晩はよく眠れましたか?』
先にいたリュールと挨拶を交わした
『黒の花飾りはお気に召しませんでしたか?』
渡された装備はどれも強力そうで見た目も美しかったが
髪飾りだけは外せなかった
『この髪飾り…気に入っていまして』
リュールは頷くと食事をする様に促して来た
手に持つお皿には瑞々しい野菜に赤や白カラフルなソースがかけてあった。
『これからフィロスの森を抜けてネメアの谷を越えなければなりません、今のうちに食べておかないと後でバテてしまいますよ?』
3人でいろんな場所を冒険したいと約束した手前
自分だけ先に楽しむのに後ろめたさを感じていた
『わかり…ました』
フィアは好きな食べ物をとりテーブルについた
大きなミートボールを恐る恐る口に運び少しだけ嚙ると、先程のまでの決意はミートボールよってに呆気なく破壊され目を瞑り味に集中した
(しっとりしてなめらかな味わい…見た目の割に落ち着いた味なんですねっ)
ケバブの様な肉肉しい味ではなく上品な味に驚いていた
プルプルと肩を震わせあまりの美味しさに打ち震えた
次はこのソースで…赤いリンゴベリーソースやヨーグルトソースにマッシュポテトなど味付けを変え楽しんでいるとミートボールはあっという間に無くなってしまった
フィアの食事の仕方は落ち着きがなく格式高いお店の雰囲気とは明らかに不釣り合いだったが誰も疑問を口に出す事はなかった、彼女と契約しているのがこの国の女王であるティターニアだったからだ
それは大切な客人の証でありフィアを貶す行為は女王への侮辱に近い行為であった
フィアは辺りを見渡すと香ばしい良い匂いを漂わせるお肉に狙いを定めた。
…
……
『9点でお会計2万2700Gになります…』
『え"っ…』
フィアは食べて数がカウントされている事に驚いていた
好きにとっていいと言われた為、固定の金額で沢山食べられると考えていたからだ。
『3万Gでお願いします』
想像以上に高い値段に声が詰まってしまったがリュールは涼しい顔で財布から数枚のお札を取り出し支払いを済ませた。
『お代はティターニア様から頂いておりますので心配はご無用ですよ』
(良かった、でもティターニア様の自費だったんですね)
フィアは2人に礼を言うと店の外にでた
『それでは、森に入る前にあそこに行きましょうか』
指の刺す方向には人形使いのギルドがあった
巨木に備えられた道を進むが木々の隙間から下が覗け、そのあまりの高さに足が震えていたが何とか壁傳に進んだ
(これ…床が抜けたりしないのでしょうか?昨日は夜だったから下がよく見えず怖く在りませんでしたが…ひえっ)
なんとか辿り着きギルドに入るとリュールが受け付けに説明しスムーズに新しい人形を手に入れることが出来た
『あの…人形をもう2体買ってもよろしいでしょうか?』
フィアは3体の人形を抱えると心の中で挨拶をした
(よろしくお願いしますね)
すると人形の目に生気が宿った様に感じられた
『よく気付きましたね、それは精霊が宿った証ですよ』
人形はフィアのポケットに入り込むと手を振って来た
『精霊は物や自然に宿るのです、弓使いなら矢に人形使いなら人形に様々な戦闘のサポートをしてくれるのですよ』
『具体的にはこれをどうぞ』
リュールは一冊の本を渡して来た
【精霊使いの戦い方と在り方】と書いてあった
ポケットにしまい次に冒険者ギルドへ向い手紙を出した
『フィアさん、クロエさんからメッセージが届いていますよ!』
双子の雑貨店へ入った
『いらっしゃいませ!』『いらっしゃいませ!』
双子の意気のあった挨拶が出迎えた、入るとマヤが直ぐに気付いて駆け寄って来た
『お姉ちゃん!それにリュールお姉ちゃんも!良かった無事に会えたんだね』
(あれってティターニア様の…)
リネアはフィアが大事なお客さんだった事に驚いていた
『マヤとリネアのおかげです』
そう言うとフィアはお金を取り出しマヤに手渡した
『あ…お金はいいからまた遊びに来てくれたら嬉しいな』
マヤは少しだけ恥ずかしそうに言った
『勿論です!あと、2人にこれを…少しいいですか?』
フィアは双子に似た人形を見せた後、花が一杯のガラスケースに近づき人形をサイズアップし慣れた手付きで操作した
そこには2体の人形が向き合いながら手を繋いでいた
『素敵な髪飾りのお礼です』
『わあっとても綺麗ですね』
『あっありがとうございます!…ほらマヤも』
リネアが頭を下げるとマヤも遅れて頭を下げた
『お礼を言うのはこちらの方です、2人に助けてもらわなければ私は死んでいたかもしれない…』
双子と抱き合うと雑貨店を出た…そして村の入り口へ
『いよいよ、森へ入りますね』
『はいっ!』
フィアは気を引き締めリュールの後を離れない様について行った
『普段なら出発前に注意事項を話すのですが、今回はティターニア様の契約がありますので心配はなさそうですね』
『そういえば嘘の道を教えられるとか書いてありましたね』
『それもありますがこの森に住む魔物にも注意が必要なのです』
『そういえばあの言葉を話す竜は…ニーズヘックとは魔物とは違うのですか?』
暫く考えた後に答えた
『魔物とは言葉の通じない生き物全般を指す言葉で反対に精霊含め友好的な種には【族】がつくのです』
リュールは少し困った様に言った
『昔は各大陸固有の生物には種族名があったのですが…他の大陸の人からすればどれが友好的でどれが敵なのか分かりにくい上に騙してくる魔物もいる為その様な分け方になったのです』
『尤も魔物の中にも人に友好的な者もいて生活の支えになっていたりしますが、それらは例外として扱われています』
フィアは昨日のニーズヘックの子供の事を思い出していた
(『我々は貴様らの傀儡などではない!』森で戦った黒龍の恨みのこもった言葉にはとても有効的な種とは思えなかった)
フィアの反応を見てリュールは補足した
『少し昔話をしましょうか』
リュール振り返ると巨木を見上げた
『あの木は…世界樹イグドラシルと言って主神アリエス様は世界樹を守る為に私達エルフ族をこの森に住まわせたと言われています。』
『そしてこの大陸は元々2匹の竜と1匹の神獣の3匹の守護者とティターニア様によって守られていました。』
『地中からくる魔物は黒龍ニーズヘックが噛み砕き、地上の敵は白龍フレースヴェルグが打ち払う、神樹に近付く者があれば神獣ラタトスクが追い払っていたのです。』
『戦いで傷付いた森や守護者達は私達エルフ族が回復魔法で癒していたのです…ですが』
『フレースヴェルグが1000年前に去ってからは大きく状況が変わりました、片翼が欠けたことによりニーズヘックの負担が大きくなったのです』
『収穫した野菜や家畜を供物として捧げてはいるのですが…量が足りないと夜中に咆哮を上げ催促してくるのです』
(最初のイメージとは大きく変わりますね…ですが)
『いまは私達も精霊や妖精と協力して森を護っているのですが…』
フィアはずっと疑問だったことを聞いた
『守護者の子供を倒してしまって良かったのですか?』
『封印はイグドラシルの根を守る為にニーズヘックとティターニア様の間で交わされた契約なのです、契約を破る者が現れれば容赦なく倒してしまって構わないと』
『自身の子供なのにですか?』
『それほどまでにイグドラシルの根を守る責任は重いのです』
『さぁ見えて来ましたよ』
森を抜けると深く亀裂の入った山々が連なっていた
景色に感動していると獣の荒れた息遣いが聞こえて来た
人形をサイズアップし臨戦体制をとるがリュールは気にせずに言った
『ここなら大丈夫ですよ、それよりも見ていて下さい』
獣は木に実っている果物を狙って一直線に突進していった
落ちている果物に近づいた瞬間、蔦に絡まれた
暴れ回る事によって複雑に絡まりやがて獣は動かなくなっていた
『あの様に森で自由に歩き回ると危ないのですが、精霊に好かれていれば、精霊が森を歩ける様にしてくれるのです』
『好かれていなければ私も、ああなっていたって事ですね』
話していると聞き慣れた爪音と何かを引く様な音が聞こえて来た
『ここからは関所から街まで馬車で向かいますよ』
フィアもよく知っている魔物だった
『クアドリガで向かうんですね!』
※12月8日に追記しました
オーヴィス大陸:国土の80%をフィシスの森が占め
森には精霊と妖精が住んでいる
20種以上の木々があり、妖精や精霊達の棲家になっている
妖精族:妖精は森の木の実を主食とし好奇心旺盛で不死であり木から生まれてくる為森そのものとも言われているが怪我が原因で死亡してしまう場合もある
※人との関わり
森に立ち入る者があれば精霊の様子を伺いながら観察しているが精霊が寄らない様な悪い人なら森の養分とし善人ならイタズラを仕掛けどんな人か知ろうとする
妖精の中には人と共生する者もおり家事や育児の手伝い子供の世話などもしてくれている
妖精の魔法は木々や植物を操り来た道をわからなくさせ、エルフが成長を促すのとは違い木を自由に操る事が出来る。
精霊族: 森や湖、大地に宿りエルフからは自然そのものと言われている
エルフと妖精のみ視認する事ができ様々な色を持ちふわふわと浮遊している
波長の合う人に近づき興味深そうに周りを漂うが汚そうとする者には容赦なく鉄槌を下す
木々に宿る事で操る事が出来るが妖精や精霊使いの補助でより強力になる
精霊使い:精霊と契約を結んだ者が習得出来るジョブ
実質、エルフ専用ジョブに近い
契約は精霊が宿っている土地から人に変える際に行われ唯一女王のティターニアのみが行う事が出来る。




