第十四話 罰せられし人形
装備を整えた三人は中級冒険者になる為の試験を受ける
三人に与えられた試験は村に住み着いた夜刀神の討伐だった
ギルドから香花が試験官として同行する事になった
夜刀神との戦いでは、奇襲を仕掛ける事に成功するが
その大きな体と強靭な筋肉に苦戦を強いられることになる
ニーナの槍ですら貫けない身体にフィアは力の上がる魔法を重ね掛けする
意図を理解したニーナは上空に舞い上がった、一撃で仕留められる様により高く…
そのころ地上ではフィアが丸呑みにされていた
クロエの制する声も届かずニーナは全身全霊の一撃で夜刀神を突き刺した
一撃を喰らった夜刀神は激しく暴れた末に森へ逃亡をしてしまう
逃げた先で何かにぶつかった事で夜刀神は止まりフィアも体内から無事に脱出するが
視界に映ったのは森ではなく白い建物だった
追ってきていた香花が到着しフィアは見た物について話すが
再び振り向くとそこには森だけが続いていた
夜刀神に逃げられたことにより試験は不合格となったが
魔物から得た素材をもとに三人は先に上位ジョブを目指すのだった。
…
……
施設の目撃者された事によってシラヌイの王はフィアの暗殺を部下に命令するが
フィアの存在は付喪神としてシラヌイに知れ渡っていた、その影響力を考えた
忠臣は王の提案に難色を示すが王はもう一人の男に命令を下した
陰に潜んでいた男は異を唱える事もなく了承し男はその場から消えたのだった。
翌朝、三人は上位ジョブになる為の試験を受けに来ていた
フィアはパペッティアにクロエは聖騎士をニーナは竜騎士を
試験後はニーナの提案で全員合格だった場合クロエの家で合格祝いを行うことに決まり
一度橋に集まり三人でクロエの家に向かう事になっていた
約一名、猛反対していたが多数決で決まってしまった。
…
……
クロエは剣士ギルドに来ていた
『炎龍!!』
剣で切り裂くと灼熱が身体を覆い悶える魔物にクロエは追撃を放った
『烈火!』
燃え尽き焼失した魔物を確認した審査員は聖騎士の証である聖盾を抱え祭壇の前に立った。
『これから就任式を行う!』
高らかにそう宣言するとクロエの前まで近づき本を開いた
『初めに仲間の命を背負う者として、聖騎士は高潔で無ければならない。』
『次に聖盾に刻まれている翼を守る盾の紋章は我々からの信頼の証であり神々の護り手である証明!これからは紋章に恥じぬ様に高潔な…』
(神々の護り手は眷属なら全員同じなのに…)
数分後~話がようやく終わりクロエは解放された
(…この式が無ければ剣士を目指す人がもっと増えるんだろうけど)
西洋風の格式高い装飾で彩られた剣士ギルドは和風のシラヌイの町では明らかに浮いていた
太陽はまだ真上にあり時間は昼前を告げていた
『まだこんな時間か、二人を待っていてもいいけど…いくつか食材を買ってから行こうかな』
(急に帰って合格祝いなんてしたら叔母さんには迷惑だろうし…)
…
………
槍使いギルド
『ハルピュイアか…それなら試練の相手はこいつが適任か』
案内された部屋にいたのは吊り上がった目に細長い身体を持った不気味な鳥だった
『【姑獲鳥】だ』
『ヴィルヘルム※だと不合格だったけど…今の私には【妖槍・夜刀神】がある!』
※ヴィルヘルム:ニーナの故郷
ニーナは自信満々に槍を構えた
『…それでは、始めっ!』
開始の合図でニーナは飛び上がり空から突き刺そうとしたが
姑獲鳥は後ろに飛び退きながら口から何かを吐き出した
『これは…唾?』
槍で素早く薙ぎ払うが地面に飛び散った粘り気のある液体は異臭を放っていた
姑獲鳥は飛び上がり遠距離から唾を連続で撃ち続けた
『こんな攻撃』
ニーナは攻撃を避けると一気に飛び掛かり距離を詰め槍で突き刺した
その場で倒れた姑獲鳥だったが消失することは無かった
『悪いな、直ぐ楽にしてやるからな』
ニーナは槍を首に宛がった
(せめて一撃で葬ってやる事が、生命への慈悲であると教えられて来たのに…)
ニーナの一瞬の逡巡を姑獲鳥は見逃さなかった
姑獲鳥は顔に目掛けて胸から何かを放った
『瀕死のふりをするなんて賢しい魔物じゃないか』
槍を振るい液体を捌くが捌き切れなかった液体が羽に掛かってしまった
『これは…毒?胸からは毒を出せるのか』
姑獲鳥は後ろに飛び退き毒と唾を飛ばした
(またか!…このままじゃ埒が明かないな)
素早くいなし地面を蹴り上げたが上手く飛行できなかった
羽に着いた毒が凝固し飛行能力を失わせていたのだった。
姑獲鳥は甲高い声を出しながら空から攻撃を続けた
『勝利の雄たけびのつもりか?…上等!』
走りながら放たれる毒を回避すると地面に槍を叩きつけ土煙を巻き上げた
小さな窪みに身をかがめ様子を伺った
(さっきの唾や毒は武器の切れ味を低下させる物だったんだな)
槍を確認すると凝固した毒やこびりついた唾で刃先がコーティングされていた。
『これじゃ、槍は使えないな…』
姑獲鳥は土煙に向かい毒を吐き続けていた
土煙の中からは相手は出てきていない、飛ぶことも出来なくなった少女がどうなったか…
目を細め様子を窺う姑獲鳥に目掛け槍が飛び出してきた
身体をしならせ回避した姑獲鳥の眼前には足が迫っていた
ニーナは鋭い足で顔を鷲掴みにした後、地面に叩き伏せた
『鳥人族の武器は槍だけじゃないんだよっ!』
ニーナは毒をばら撒き抵抗する姑獲鳥の顔をそのまま握りつぶした
霧散したのを確認すると審査官が急いで駆け寄り解毒剤を手渡した
『良い戦いだった…姑獲鳥は槍使いの天敵なんだが、よく勝てたな』
解毒剤を一気に飲み干すとニーナは言った
『せっかくの新武器だったのに…思い通りにはいかないな』
それを聞いた審査員は箱を取り出して言った
『落ち込んでる暇はないぞ、竜騎士になるのだから
さぁ!この中から相棒を選んでくれ、その後で新しい技も授ける』
そこには緑、青、赤の卵が並んでいた。
ニーナは青色の卵を選んだ
『それでいいのだな?一度選べば変更は出来ないぞ?』
ニーナは頷いた
『それでは選んだ卵に手をかざすのだ』
ニーナが手をかざすと卵が孵り藍色の細長い小さな竜が生まれた、弱弱しい声でニーナに吠え何かを訴えていた
『よしっ次は指を差し出すんだ』
竜は手に嚙みつくと血を啜った
喜びの声を上げるとニーナの肩に飛び乗った
『無事に認められたようだな、餌と見なされなくて良かったな…そうだ、名前は付けるか?』
ニーナにはずっと決めていた名前があった
『【メル】はどうだろうか』
(私の好きな龍…メルテンシアから名前をとってメルにした、メルテンシアはその名を知られながら存在しないと言われた伝説の龍、昔読んだ本には竜騎士を背に乗せ共に空を舞い魔物と戦ったと記載があった)
『メル…良い名前だな』
『それでは最後に竜騎士の技を一つ教えるぞ』
(私もこの子とその様な相棒になれるだろうか)
メルは不思議そうにニーナを見つめ返していた
………
人形使いギルド
『なるほど…それで上級職を先に目指すんだね』
ギルドの受付は本を見ながら言った
『上級職になって新しい技を先に習得するか、中級冒険者になって装備を整えるかは誰しもが悩む問題だからね』
受付はペラペラと本をめくっていた手を止めた
『よし、それじゃあ付いてきて!』
案内通りについていくと奥の部屋に案内された、そこには舞台ががり床が開くと下から
細長い犬の顔に獅子の身体さらに蛇の尾を持った生物が檻に囚われていた
『☆4妖獣【鵺】審査は引き続き私が行わせていただきます、危険と判断した場合試験はその場で中止、その時は不合格と判断させて頂きます。』
形式通りの説明を終えた受付は一息つくと言った
『フィアのステータスならきっと合格できる筈だよ』
『…なにより夜刀神の装備を持っているんだから!自信を持って!』
審査官のエールを受けフィアは人形を見つめた
夜刀神の皮で強化された人形は黒く艶やかな衣装を身に纏い妖艶な雰囲気を漂わせていた
(…いまの私達なら、きっと勝てる)
フィアは頷くと開始の合図を送った
『お願いします!』
檻が開くと同時に鵺は甲高い声を上げ真っ直ぐフィアに向かって行った
(初めて見る魔物です…様子を見ながら戦いましょう)
人形と左右に分かれ挟み撃ちの陣形になるが鵺は尻尾の蛇で人形を視界で捉えていた。
(これじゃあ挟み撃ちは出来ない、不意がつけないなら…)
フィアは覚悟を決め一歩を踏み出した
近づいてみて改めて大きさに驚いた
巨大な腕は引っ掻かれれば軽傷ではすまない事を容易に想像させた
じりじりとにじり寄る鵺に後ずさりをしていると
甲高い声を上げ腕を振り上げ地面に叩きつけた
めり込んだ拳が力の高さを物語っていた
(…防御魔法では受けきれない、人形も恐らく一撃で…どうすれば)
悩むフィアの頭にリモンの言葉を思い出した
『避けられないあるいは負けられない戦いの場合は人形を下げて戦うことをお勧めします、格上の相手とまともに戦えば人形を破壊されるのがオチです、敵の懐で人形をサイズアップし避けられない位置から攻撃しましょう』
『対人なら顎や関節部分を狙い魔物なら頭部や弱点部位を狙うのがいいでしょう』
イースマキナで教わった強者との戦い方…
フィアは覚悟を決めると鵺と再び向かい合った
人形を小さくし手元に戻した
走ってくる鵺の背後に放り投げた
蛇は人形ではなくフィアを見つめていた
(いまなら…っ!)
後ろ足で立ち上がりフィアに攻撃をしようとした瞬間、鵺は悶え苦しみ始めた
人形を使い尻尾の蛇を思いっきり締め上げたのだった
フィアは全力で鵺を蹴り上げると同時に人形と同時に
空中で跳武三連撃※1を叩き込み踵落としで地面に叩きつけた
『アセンダント』※2を唱え自身の能力を大きく上昇させた
※1:跳武三連撃【空中で三回蹴りをいれる技】
※2:【攻撃した回数分バフの上昇量が上がる人形使い専用の奥義】
鵺は起き上がりフィアを見つめた
(…狙うのは頭部、気を付けるのは腕を振り上げる攻撃…!)
鵺は近づくと腕を左右に広げた
(いまだっ!)
左右から迫る腕を無視し鵺の顔面にアッパーカットを入れた
メキメキと音を立て鵺はひっくり返った
『これで…どうですか!?』
フィアの言葉の後、鵺はその場で霧散した
安心したフィアはその場でへたり込んだ
(はぁーはぁー、なんとか勝てましたが2人も同じような試験を受けているのでしょうか)
『お疲れ様でしたっ!そのままでいいからで聞いてね』
『はっはい』
『パペッティアからは人形に武器を持たせることが出来て
専用の特別な人形を使うことが出来るわ』
『フィアさんはヒーラーだから…これだね』
審査官は本を取り出し人形と共に実演して見せた
遠距離から人形と共に無数の魔法を放ち魔法が案山子を撃ち抜いた
そして人形がフィアの近くに降り立つと回復魔法を使い、疲れを癒した
『凄い…傷だけじゃなくて体力の回復も出来るのですね』
『他にも色々出来るよ!』
その後人形を改良している間にフィアは魔法を教えてもらい人形が出来上がる頃には日が傾いていた
『ありがとうございました!!』
フィアは受付に頭を下げると裏通りに走り出した
(近道まで教えてくれるなんてシラヌイには親切な人が多いですね)
裏通りに入り階段を降ると川沿いを走った
(こんな道があったんですね!これなら夜前には間に合いそうです!)
川沿いの道は建物の真下から進む事が出来真っ直ぐ橋まで向かう事が出来そうだった
(まだちらほら人がいるんですね)
道すがら荷物を背負う商人のような男、手を繋いで歩く親子とすれ違った。
速度を上げるフィアが民家の下に入ったところで足を止めた
(あの人は…)
黒い笹の帽子を被り黒い装いの男が道の真ん中に立っていた
狭い道なため横になり通り過ぎようとしたとき視界の端に鈍色に輝く物が見えた
『っ!?』
反射的に半歩後ろに下がったが
腹部に激痛が走り刀で斬られた事を理解した
『何をするんですか!?』
お腹を押さえ後ろに下がりながら問いかけるが男は無言のまま近づいてきた
(にっ逃げないといけないのに!)
頭では理解しているが男の威圧感に圧倒され視線を外すことが出来なかった。
後退りしていると背後から口を防がれ硬いものが当たる感触がした
(え…?)
振り返ると背後にはもう1人同じ服装の男がいた
じわじわと熱が広がりそれが徐々に痛みに変わっていった
視線をお腹に向けると背後から刀で突き刺されていた。
(…っ!?)
怯えるフィアの腕を男がいきなり切り落とした
『う"…』
フィアは一瞬声を出したが唇を噛み必死に悲鳴を止めた
目の前の男がもう一度刀に手をかけたのが見えたからだ
一体何をされるのか怯えた顔で見つめていると背後の男がフィアの身体に何かを括り付けた
フィアはリモンの言葉を思い出していた
(格上との戦いでは可能性など度外視で実力でねじ伏せられるのが殆どです…)
可能性など微塵もない状況で恐怖に支配されたフィアは眉ひとつ動かせなかった
男達は周囲を確認した後フィアを川に蹴り落とした。
水の中で必死にもがくが身体は沈んでいくだけだった
足元を見ると何かが鉄の足枷が括り付けられていた
(魔法を使えば…破壊することが出来るかもしれない…でも、そんな事したら生きているのがバレちゃう)
あの男がいつ刀を抜きいつ納めたのかフィアにはまったく見えていなかった
絶対に勝てない相手にどう立ち回るか
必死に頭を回転させ生き残る方法を模索するが
次第に呼吸は苦しくなり魔法で破壊するしか無かった
しかし足枷には傷一つ付いていなかった
(ど…してッ!)
必死になり何発も魔法を放つが限界を迎え意識が遠のいて行った
『…』
『行くぞ』
フィアが意識を失う前、男の声に混じり歌声が響いていた。
…
……
………
シラヌイ城ー王の間ー
フィアの腕を受け取った王はそれを一瞬で焼き尽くした
2人の男は片膝をつき頭を下げ報告していた
『今ごろはナマズにでも食べられている事でしょう』
『付近の区域に規制を敷く様、警備には伝えてあります』
『うむ、良くやった』
『それにしても…教典など厄介な物を先祖は作った物だ』
『少しでも教えから外れれば、民からの信頼を失うからな』
『胸中お察し致します』
王は教典をめくりながら言った
『同族同士の争いを禁じた結果、鉄火塚の様な因習が生まれたのをシラヌイ様はどう思っているのか…一度聞いてみたいものだな』




