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人形使いの付喪神  作者: 穂積
第二章
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第十一話 暗黒の胎動

図書館で伝承について調べたフィアだったが得られたのは

人との記憶を持ち名前を持たない付喪神の話しだけだった

詳しく知るためにクロエの曾祖母を頼りそこで、付喪神の石碑の場所を教えて貰ったがそこで少女と再会することになる。

退路を塞がれ交戦になるもクロエの決死の攻撃によって灰となった筈の少女だったが

直ぐに立ち上がるとその身体には傷痕一つ付いていなかった

そして少女が指を鳴らすと三体の人形が合わさり一体の大きな人形に合体した

『人形劇の始まりだよ』


『さぁ…人形劇の始まりだよ』

フィアの胸中には様々な感情が入り乱れていた

少女が無事で安堵している自分と仲間を失うかもしれない恐怖、眼前の敵とどう戦うべきなのか…

『あ…フィアっ!』

呼び声に我に戻るとクロエが盾を構え人形と向かい合っていた

『フィアは後ろで回復とサポートに専念して』

フィアが答える前にニーナが言った

『無機物なら私の魔法は効かないか、弱点は戦いながら探るとして…クロエ!さっきの魔法を使うなら事前に言ってよ』

『どうして?』

『私の魔法に操られていれば痛みを感じる事はないからね』

『…なるほど、ありがとうね』

2人のやり取りを何かを言いたげに見ていたフィアにニーナは優しく言った

『私たちが怪我をしたらフィア以外に回復できる人はいないんだ…だから頼んだよ』

『わっわかりました!』

フィアは未知の敵を前に仲間だけを前線で戦わせることに歯がゆい思いをしていたが、ニーナの言葉を聞き人形を自身の近くに控えさせ回復とサポートに専念した。


三人のやり取りを見ていた少女が閃いた様に手を叩くと言った

『それじゃあ演目は…【砕かれる友情】だよ』

大きく腕を振り上げた人形にニーナが槍を投擲したが人形が腕を振るうと弾かれ人形の背後に落ちた

クロエは振り下ろされる腕を前に盾を構える

当然フィアは防御魔法を使っていたが不安で仕方なかった

『来いっロンギケプス!』

ニーナの呼び声に答えるように落ちていた槍が飛んでくると人形の脹脛ふくらはぎに突き刺さり人形は膝をついた

頭を下げた人形にクロエは跳躍すると盾で顔面を殴り地面に叩き伏せた

『身体の肉質、可動域どちらも人とそんなに変わらないみたいだな』

ニーナは素早く移動すると突き刺さった槍を引き抜いた

『今のうちに…終わらせる!』

クロエはそういうと倒れた人形の顔面をぶった切った

【炎斬】切り口から炎が溢れ人形の顔を焼いた

『これで…!』歓喜の声を上げるフィアにクロエは言った

『恐らく違法に作られた人形よ、警戒を怠らないで』

『鎧のお姉ちゃんは賢いね、リペアー』

少女が魔法を唱えると人形の焼けただれた皮膚が徐々に回復し元に戻った

(あれは…)

ニーナは人形から距離を取りクロエは盾を構えた

『私を倒さない限り人形は何度でも回復する、そして人形を破壊しない限り私には近づけない…』

少女はポシェットからエーテルを取り出すと一気に飲み干した

濡れた口をハンカチで拭くと楽しそうに笑みを浮かべながら言った『いつまで舞台に立っていられるかな?』

少女の言葉など無視してニーナがクロエとフィアに合図を送ると宙に飛んだ

人形はニーナを叩き落とそうと腕を振るおうとした瞬間、クロエは炎の魔法を人形の顔に放った。

(こいつが人形なら首の部分は完全には繋がっていない筈)

『やああっ!!』怯んだ隙をニーナは背後から首に目掛けて槍を深く突き刺した後、抉る(えぐる)ように掻っ捌いた

人形の首が地に落ちると同時にニーナは少女の方に向かって槍を投擲したが魔法の壁に遮られてしまった…。

『だから無駄だって!』

少女の嘲笑する声が洞窟に反響した

人形は胴体から糸が飛び出すと首と頭が繋がり始めていった『埋火』クロエが切断面に炎を放つが回復が止まることはなかった。

……

………

クロエとニーナは回復し続ける人形に徐々に疲弊し始めていた

『息も絶え絶えね、誰から倒れていくのか…』

『クロエ…私の魔力も尽きかけています、それなら戦闘に参加してもいいですか?』

フィアは少女の言葉を遮る様に言うとクロエは暫く考えた後答えた『…わかったわ、でも無理はしないでね』

クロエの言葉を聞くと人形の側面に回り三方向から人形を囲む形になった

(クロエもニーナもこれ以上あの状態で戦うのは危険です…でも、私が仲間になれば…)

人形は大きく腕を振り上げるとフィアに向かって振り下ろした、後ろに飛び退いて避けると顔に近づき顔面に蹴りを入れた後、ニーナとクロエの2人かがりで首を切り落とした、頭が落ちると土煙が舞った

『はぁはぁ…まだ、戦える!』

息を切らしたニーナを見たフィアは決心した

『お願いします…真那まなちゃん、こんな事やめて下さい!』

フィアの言葉と同時に少女の前を何かが通り過ぎた

(これは…花?)

頭が落ちた衝撃で花が宙に舞ったのだった

少女は灰になった時にフィアが花を添えていたのを思い出した、少女は胸に痛みを感じたが振り払うように言った

『…どうして名前を?』

『過去の事件について調べたんです、そしたら魔物の襲撃事件の中に貴女の顔と名前が…』

『どうしてその事を言わなかったの!?』

クロエが驚いて言った

『…鉄火塚を見てこの世界は人形劇の様に甘くはない事を知りました…それであの子の事も知りたくなったんです』

『人の過去を調べるなんて悪趣味だね』

真那の言葉にもフィアは構わずに続けた

『貴女が助けにきてくれたからですよ』

【私達の様な特異な存在は誰かに利用され世間に悪と言われれば容易く見捨てられるっ!

だから…そんな世界から助けに来たんだよ】

(あの時の言葉は真剣だった…だからこの子の言葉も信用したいとも思った)

『それならいまは?私の仲間になってくれる?』

フィアは首を振った

『助けに来たと言った貴女の目はイースマキナで何もわからず不安だった時の私の目と同じだったんです…だから、貴女がそこにいても貴女はきっと救われない!』

フィアは少女に手をのばした

少女が手をふり上げると人形が一瞬で修復され関節部分から光が溢れ出した

『もういいよ!終幕にしよう!』

『まっ待って下さい!』

(救われない…?私は救われたくて仲間になったわけじゃない…私は…)

人形の顔はクロエの方を向いており顔の向きはクロエの動きに合わせ向きを変えた

膨大な魔力を肌で感じたフィアは防御魔法では防ぎきれない事を悟った

(ここは私がやるんだ!私がやらなきゃ…っ!)

不安を押し殺しフィアは2人の呼び声を無視して隙をうかがった

既にクロエとニーナは限界なのを知っていたフィアは2人が受け切れないことも理解していた

『いまだっ!』

人形から魔法が放出される直前に顔面を蹴り軌道を誰もいない方の壁にずらした。

放たれた魔法は洞窟を破壊し尽くし、地鳴りが響き頭上からは落石が降ってきた。

フィアは身をかがめ地鳴りが収まるのを待っていると

夷隅の悲鳴が聴こえた、慌てて駆けつけ落石を壊すと少女を抱き抱えその場を離れようとしたが、その瞬間地面の崩落が始まった。

フィアは少女を強く抱きしめた。

……

………

どのくらい落ちたのかはわからなかったが

目を覚ますと少女が回復魔法で治療してくれていた

『あ…ありがとう…ございます』

フィアは真那まなに礼を言うと思い出した様に言った『クロエとニーナは!?』

『…無事よ』

『どうしてわかるのですか?』

少女の足元に魔法陣が浮かび上がった

それは過去にフィアは連れ去った転送魔法だった

『それよりもお姉ちゃんはこれを見てどう思う?』

真那は壁を見ながら言った

『これは…』

そこには壁画が描かれていた

人形が沢山の人に祀られており人形の真下には炎が描かれていた

『姿形を変え人々を導き人間の業を背負い罪を浄化する…もうわかったでしょ?付喪神は人間の罪を背負わされて生贄にされるんだよ』

フィアの脳裏には図書館での出来事が思い返されていた

老人達がこぞってフィアに握手を求めていた事

『でも伝承や壁画は私達の見方次第だと言ってました』

『誰が?この壁画なんて誰がどう見ても生贄の祭壇にしか見えないのに』

フィアは暫く眺めた後言った

『何故…人型なんでしょうか?付喪神は様々な形をしていたと書いあったのに…』

『偶然でしょ、それよりも第一王子から謝罪の一つでも届いた?』

『いえ、何も…』

俯きながら答えるフィアに真那は言った

『王子の為に片腕まで無くしているのに酷い話し…』

『あの…よければ貴女の話を聞いてもいいですか?行方不明の事件あの時何があったのか』

真那は溜め息をつくと言った

『それなら自己紹介からしなきゃね

私は夷隅いすみ真那まな、真那でいいよ』


そう言うと真那は語り始めた

『私の住んでいた家はシラヌイから離れたところにある小さな村の一軒家だった』

『家族はママは人形使いでパパは僧侶だったそして弟が1人、事の発端は私が怪我をしたのが始まりだった』

『回復魔法を習得していないのに擦りむいた腕が勝手に回復し始めたの…最悪だったのは親が敬虔けいけんな信徒だった事』

真那は自分の手を見ながら言った

『今の時代、神を信仰する人は沢山いても無垢な子供を虐待する人はそう居ない…だから周りに感化され両親の考えが変わる事を祈って私は人助けに奔走した。』

『お年寄りの身体の痛みを和らげたり、冒険者の治療を請け負ったりもした』

『周りの人達は私を憐れんだり慰めたりはしてくれたけど

誰一人助けてはくれなかった、人の家庭の事情だからって言ってね』

『家族に暴力を振るわれてもこの力によって直ぐに癒えた

けど心の傷が癒える事は無く蓄積されていった…』

『そんなある日、魔物によって村が襲撃されたの』

『何処から来たのかもわからなかったけど私にはどうでも良かった』

『家族も私も滅多打ちにされたけど家族は回復した私に助けを求めにきた』

真那まはは笑いながら言った

『いくら私でもぐちゃぐちゃになった身体までは戻せなかった…だから考えたの家族を回復する方法を』

『ママの使っていた人形と家族をくっつけて回復魔法を使ったの、そしたらくっついちゃったんだ!』


『後はお姉ちゃんの知っている通り、死んだ事にして家族の人形を使いながら今はひっそりと暮らしているんだ』

夷隅は最初に会った時の子供っぽい話し方に戻っていた

『真那ちゃん、貴女は一体…』

『それは秘密!お姉ちゃんには生きていて欲しいからね』

真那は唇に指を当てながら言った

『これで助けてもらった恩は返したからね』

『まっ待って下さい!真那ちゃんはそれでいいのですか?』

『私は救われたくて此処にいる訳じゃない、私は私の目的の為に動いてるから』

どこか寂しそうな表情をした真那にフィアは手を伸ばそうとした瞬間フィアの足元に魔法陣が現れた

『それじゃあね』


気がつくとフィアは洞窟の外にいた

そこにはクロエとニーナがおり3人で互いの無事を喜んだ。

その後駆けつけた警察に真那まなの過去以外の話をし解放された後クロエの曾祖母を訪ね多額の報酬金を受け取った。

そしてシラヌイではクロエのおすすめで鍋料理のお店に入った

ゆっくり食事をしながら戦いのことや今後の事について話した。

『私は…旅を続けたいです…出来ればみんなで』

それを聞いたクロエとニーナは喜んだが

フィアの胸の中は今日の戦いの事で一杯だった

(もっと、もっと強くならないと仲間を助ける事も誰かを救う事も出来ないんだ)

決意を新たにしたのはフィアだけでは無かった

(もっと長く戦える様にしないと…あたしが先にばてたりしなければフィアもニーナも無茶する事も無かったのに)

(弱点を見つけても回復されてたら意味がない、もっと戦い方を学ばないと…)

誰一人胸の内を話すことは無かったが三人は新しい目標を見つけたのだった。

……

………

真那まなはフィアを返した後

居城に帰還した、蝋燭の灯りだけが暗い廊下を照らしており窓からは曇り空と庭園、青い薔薇が見えていた

長い廊下を進み大きな扉を開けると奥には何かを祀る祭壇があり不気味な像が祭られてあった

(いつ見ても不気味な部屋ね)

真ん中には輪っか常のテーブルを囲む様に八つの椅子が用意され1人だけ座っていた。

真那は扉の近くの椅子に座った

『その傷、誰にやられたんだ?』

フードを被った男が言った

『傷?そんなの何処にあるの』

『いまにも泣きそうな顔をしてるぞ』『なっ』

男の言葉に言い返そうとした時、開かれた真ん中の空間に初老の男が現れて言った

『集まったのはこれだけか…まぁいい始めてくれ』

『俺の場合は真那に手伝って貰ったのもあったけどな』

真那は調査結果を話した

『はっ【九頭龍大陸】では国政の安定化に伴い龍脈に流れていた魔力は徐々に増幅傾向にありました』

真那に続いてフードの男が言った

『【クロノス大陸】は魔物による襲撃、決闘での奮闘が影響したのか、信仰による魔力の増幅を確認しましたよ』

『ふむ…良い傾向だ、良くやったな』

男は真那の頭を撫でながら言った

『他のメンバーが戻り次第、次の段階へ進めるとしよう』

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