第一話 剣士と付喪神
歴史は人々に教訓を与え神々が残した聖典は教えを与えた
記憶の無い無垢な人形の少女は教えを知らず…悪意を知らず
少女はダンジョンで女冒険者に助けられ
行動を共にする事になった
『ありがとう…ございます』
怯えながらも礼を告げる人形の少女だったが
この世界の人形は感情がなく自由に話す事も動く事もなかった
少女は正体を隠しつつ冒険者と共に自身の謎について探っていくのだった。
時の洞窟 ★2ダンジョン 最深部
『エーテルもこれで最後か、なんとか奥まではこれたけど
ポーションしか残ってないわね、長期戦は覚悟しないと…』
女剣士はしゃがみ洞窟の奥を見つめていた
その先には巨大な蜘蛛がいた、蜘蛛は覆った獲物を巣の壁
に縫い付けている最中だった
『…よしっ』剣士は左手に魔法を貯めると背後からそっと
近づき『埋火!』炎属性の範囲魔法で巣を焼き払った
糸に覆われた物から大量の子蜘蛛が燃えながら飛びだすと
そのまま燃え尽きていった
『これで一対一ね』剣士が言い放つと蜘蛛は炎の中から怒りの咆哮を上げた、巣を燃やされ子を焼かれた親蜘蛛は炎を振り払うと剣士に向かい合った『傷一つなしか…』
(急ぎの依頼だったけど誰か誘えば…いや、あたし一人でも倒さないと!)
剣を握り構えていると上から声がした
『後ろに気を付けて!すぐ後ろ蜘蛛が近づいて来ています!』
背後に気配を感じた瞬間、親蜘蛛が糸を吐き出してきた
『埋火!』瞬時に魔法を使い糸と同時に背後の蜘蛛を焼き払い声がした方向に視線を向けた、そこには魔法人形が蜘蛛の巣に囚われていた…
『どうしてあんなところに?それにまだ動いているなんて…あっ』
考えていると炎が糸をつたっていった…その先に人形の慌てた表情が見えたがもう遅かった
『あっついッ!』火がついた人形が絶叫しこっちに向かって落ちてきた、慌てて手で火を振り払うと
『あっありがとうございます』
(…さっきから熱がったりお礼を言ったりまるで生きてるみたいじゃないそもそもこんな古い人形がいまだに動いていること自体…)
人形を細かく観察してみる…肩まである藍色の髪に青い瞳
ボロボロの黒い服を纏っており破れた部分から球体間接人形なのがわかった。
不思議そうに見つめてくる瞳からは人形の様な無機質な感じはしなかった。
(それならコアを見てみれば…)
お腹に手を当てると『ひゃあっ』人形が驚いた声を出したが無視して服をめくった
『コアもない…どうやって動いて…』
(魔法人形には詳しくないけど普通ならコアに人形の用途や雇い主が載っているはずなのに…この人形は一体…)
『まっまだ生きてます!』人形が指をさして言った
そこには脱皮をした蜘蛛がいた。
『一回目は糸で身体を覆い二回目は皮を使ったのね…でもそれなら…あたしが気を引くから背後から近づいてこの短剣で弱点の頭に突き刺して』
『わっわかりました』人形は怯えていたが剣を掴むと強く握りしめると決意を固めたように蜘蛛に短剣を向けた
『側面からじゃ視界に入って前足で攻撃されるから気を付けてね!』『はいっ!』人形が頷くと
『…よしっいくよ!』騎士は蜘蛛の眼前に盾を構え視線を誘導すると向きを90°変えさせ人形が背後から奇襲できるようにした
『よしっいまなら!』
背後から人形が近づくとお尻から糸が飛び出し壁に拘束されてしまった
『この糸、短剣でもきれないなんて…えっ』
騎士は蜘蛛からの攻撃を盾でいなしながら手に炎を集めていた
『熱いけど我慢してねっ!』『ーーッ!!』
(っ!でもこれなら!』
人形は燃える糸を掴むと走り出した、お尻から糸を出すが燃える手で防ぐと背後から短剣を頭に振り下ろした。
しかし蜘蛛は雄たけびを上げ暴れまわるだけで致命傷にはならなかった
『そんな…!』『十分よ!』
剣士は剣を蜘蛛の口に垂直に向け狙いを定めると
口に深く突き刺した、蜘蛛は動かなくなり地面に伏すと
霞となって消えた、そこには青い球と短剣だけが残っていた
『脱皮したのは好都合だったわ…おかげで短剣でも攻撃が通ったわ』
『あ…あの…助けていただきありがとうございます!』
深々とお辞儀をする人形に剣士はもう慣れた様子で答えた
『こちらこそ、助かったわ!ここを出るけど貴女も来るでしょ?』
人形は周りを見渡すと激しく頷いた、剣士は青い球と短剣を鞄に入れると黄色い花を取り出し部屋の真ん中に置いた後、巣穴を後にした。
洞窟の中で人形は怯え剣士にべったりだった…
『道中の敵は全部倒したから大丈夫だよ…あと、ちょっと近すぎちょっと歩きづい…』剣士は苦笑いしながら言った
『ご、ごめんなさい…』距離を開けて歩き出すが人形の視線は剣士の背後で光る石にくぎ付けだった
『そうだ町に帰る前によりたい場所があるんだけど、いいよね?』
『はっはい!…あの…あれは…』
慌てて視線を戻すと光る石について聞いた
『ん?…これは星苔星苔て言って暗い洞窟を照らしてくれる有難い植物なんだ、強く押せば水も出るし薬の材料にもなるから非常時の助けになるんだ』
剣士は指で軽く触りながら教えてくれた
『凄く綺麗…』真っ暗な洞窟の岩に自生する星苔の下に白い植物が生えており幻想的な景色だった
星苔を眺める人形の姿に剣士は仲間の姿を思い出していた(あの頃は皆でどこまでも冒険できるって信じてたな…
難易度が上がるにつれてみんな辞めて行っちゃったけど)
暫く歩いていると光が見えて来た、それは出口から差し込む日の光だった
洞窟を出ると剣士は兜を脱ぎ深呼吸をした
『あたしは鬼灯クロエ…冒険者よ貴女は?』
朝靄に包まれ木漏れ日が差し込み彼女を神秘的に魅せた剣士は茶髪の髪にまだ幼さが残る顔立ちの女性だった
人形は目をそらしながら答えた
『私は…フィアと言います、ごめんなさい、自分の名前しか覚えてなくて』
『記憶喪失ってこと?…一応聞くけど…自分が魔法人形だって自覚はある?』
『い、いえ…魔法人形がなんなのかも…』
『それなら道中で色々教えてあげる』
見たこともない黄色い鳥に目移りしているとクロエが人差し指を立てて言った
『まず第一にあまり騒がないこと!!
普通の魔法人形は感情もないし会話する事もなければ
痛みを感じることもないんだ』
『それで洞窟で驚いていたんですね、わ、わかりました』緊張して答えるフィアにクロエは苦笑いした
『これはダンジョンで入手した装備がさっそく役に立ちそうだね』
(ダンジョン…私は何故あんなところで囚われていたのでしょうか…)
『次に魔法人形には触れない事!街には沢山の魔法人形があるんだけど利用するには登録が必要なんだ、登録してない人が使おうとすると警備隊に知らせが行っちゃうんだ
平時なら注意だけで済むんだけど最近、町で第二王子が襲われるって事件があってね、祝祭が近いってのもあって町の警備がいつもより厳重なんだ』
クロエは一呼吸ついてから言った
『最後に…お腹を見せない事!』
私はキョトンとしたが服を捲りお腹を見て窪みがあることに気づいた
『そう、そこに嵌るのがコアなんだけど魔法人形はコアに
行動パターンが詰まっているんだ例えば道の案内や
戦闘のサポート、音声の再生とかが出来るんだ。』
『コアがない私が自由に動いたり話してたら怪しまれるってことですね』
『そのとーり、でも服の下に隠れてるから怪しまれない限りはバレないと思うけどね』
『わかりました…でも…どうしてクロエは助けてくれるのですか?』
クロエは鞄から小さな人形を取り出して続けた
『あたしの故郷シラヌイには99年大切に使われた物に魂が宿る【付喪神】の伝承があるんだ、付喪神は持ち主に恩返しをしに来るって話が小さい頃に読んだ絵本にあったんだ』
『私がその付喪神なのでしょうか?』
『それはわからない、でも正体を知りたいなら協力するよ!里長ならなにか知ってるかもしれないけど…ここから【シラヌイ】まで山一つ越えて行かなきゃ行けないから、行くのなら準備を整えるまで少しだけ待っててね!』
『私は…』道沿いを歩いていると木々に蜘蛛の巣が張っている事に気づき言葉を飲み込んでしまった
『後は…困っている人を助けたくて冒険者になったんだ…』クロエは頬を掻きながら言った
『あっでも最初は新種の魔物かなんかだと思ったんだけど
一緒に行動するうちにそれはないなって…』
(私は…どういう存在なのでしょうか、もし周りに迷惑をかけないのなら…色んな冒険をしたいな…。)
『この先に魔物に襲われた村があるけど、怖いのが苦手ならここで待っていていいからね』
フィアは息を呑むと答えた
『…大丈夫です、私も行きます』
クロエは頷くと前に向き直り言った
『もうすぐ着くよ、衛兵がいるから気を付けてね』
そこには蜘蛛の糸で覆われた門があり兵士が一人でノートに被害状況を記入していたがこちらに気付くと敬礼した。
『掃討依頼お疲れ様です!ここの清掃は自分がやっておくので冒険者殿はもう町に戻られても…』
『せめて花を添えてもいいですか?』
兵士は驚くと直ぐに元の真面目な表情になり
『勿論です!でしたらこの花を…『アムネシア』この村の名前の由来にもなった花です』
兵士は手から小さな炎をだすと蜘蛛の巣を燃やし門を開けた…そこには廃村があった
(魔物に襲われたって聞いたけど、ここまでなんて…)
民家には穴が開いておりそこかしこに蜘蛛の巣が見えていた
『あの蜘蛛がやったんだよ、魔物一匹放っておくだけで
村一つがこうなっちゃうんだ……』
クロエの声がうあずっているのがわかった
クロエは町の真ん中に行くと井戸の上に花を添えた、私もそれに倣い花を置いて黙祷を捧げた
『…ありがとね、付き合ってくれて』
今にも消えそうな小さな声だった
門を出ると兵士が待っていた
『花を添えて頂き感謝します!』
深々とお辞儀をした後に兵士がしゃがむと地面に手をつけた、すると魔法陣が浮かんだ
『お礼と言っては何ですが検問所の近くまで転送しましょう』
クロエが快諾すると魔法陣の上に乗ると
目で私にも乗るように合図を送った
『それではお手数ですが報告のほどお願いしますね』
お礼を言えない自分に歯がゆい思いをしていると
クロエが私の背中を押し、会釈するような体制になった
『無事復興出来るよう願ってますね』
クロエの言葉と一緒に心の中で彼らが立て直せるよう強く祈った
街の前に着くとそこには巨大な城壁があり兵士達が検問をしていた兵士の一人がクロエに気付き近づいてきた
『ご用件をお伺いします!』
『鬼灯クロエ、緊急の掃討依頼の帰りです』
兵士は手に持った紙に目を通す
『…確かに、確認しました!、ところでこれは?』
急に話題に出たために思わずドキッとしてしまった
『ダンジョンの奥で見つけたんです』
『年代物じゃないですか!期待できますね、よし開けて良いぞ!』衛兵が上にいる兵士に言った。
その時別の入り口で対応していた兵士が言った
『ようこそ!時の町イースマキナへ!』
(…時の街…イースマキナ…何も思い出せなかった)
巨大な門が開くとそこには巨大な木と機械が合わさった奇妙な景色が広がっており機械の兵士が等間隔に配置されていた一部の機械にはモニターがついており街の施設や名所への名前が表示されていた少し歩くと大きな塔が現れ
巨大な歯車がガゴンッガゴン重低音を鳴らしながら回ると後ろの扉が閉まっていった。
その瞬間花壇の下に通してあるパイプから水が撒かれ蕾が黄色い花に開花した。(わぁ…っ!!)
感嘆の声を心の中であげているとクロエは小声で言った
『裏道に入るからしっかりついてきてね』
裏道に入るとそこは壁に沢山の絵が描いてあった
『あれはウォールアートって言ってこの町の名物の一つなんだよ』
猫や人よくわからないものまで色んな絵があった
角を数回曲がると『格安!鑑定所』と書いてある看板があった
『さぁついたよ!私が手を引くから動いちゃダメだよ?』
お店に入るとカウンターまで真っ直ぐ向かい布や箱などをカウンターに置いた
『叔父さんこれどうかな?』店員は虫眼鏡の様な物で私を見つめながら言った
『おお!かなり古いな…でも嬢ちゃんコアはどうした?』
『最初からついてなかったよ』
『それじゃあ価値はないな』それを聞いた店員は私から目線を外すと箱に虫メガネを向けた
店員は箱を針金で開けると中身を取り出した
カウンターには黒い服や金貨、瓶に短剣が置かれていった『古い人形に需要があるのはコアに過去の偉人の認証記録があるかも知れないからなんだよコアのない本体なんてな…正直なんの価値もないんだ』
クロエはなにか言いたそうだったが言葉を飲み込み質問をした
『…型番や製造場所は?』
『そんなのわかるわけないだろ、魔法人形の活用を推奨してるミハイル王子ならなにかわかるかもな…だがこんな人形は王都じゃ見ねえし、どっかの模造品ならなおさら価値は無いな』
『……そうなんだ、ありがとう!もう行くね』
クロエは鑑定品を受け取ると代金を置いて私の手を握り
早歩きで出口に向かった
『あっ待て!その人形、店の前に捨てて行くなよ!?』
『捨てないよっ!』クロエはぶっきら棒にドアを閉めた
その後人目の無い所へと移動した
『あんな言い方しなくても…』
『なんか悔しくて…あのジジィ価値が無いって2回も…』
『でも実際に私は戦えては…』
俯くクロエを慰め様としたが言葉が続かなかった…
するとクロエはなにかを思いついたように顔を上げた
『そうだ!なりたいジョブはないの?ジョブ無しなんて戦う戦えない以前の問題だよ!習得しておいて損はないしほらっこれ着て!』
そう言うとクロエはカバンから黒い布を取り出して着るよう言った
『ジョブとはなんですか?』袖に手を通しながら質問した
クロエは人差し指を立てると説明を始めた
『まずは簡単に説明するとジョブは複数人での戦闘を簡略化する為に作られた役割だよ!どのジョブがどの役割を担うか予め決めてあれば初対面のメンバーでも戦いやすいからね』
『まず最前線で敵の攻撃を受け止める『剣士』!
これは私のジョブだね仲間が安心して戦える様に敵の注意を引くのが役割!敵に狙われる技を習得できるよ!』
(あの戦いで蜘蛛がクロエを集中的に狙っていたのはこう言うことだったんだ)
『次に『奇術師』これは攻撃する役割ね
カードを引いて組み合わせによって様々な魔法に変化したり、帽子から魔法を打ち出してきたり手の内が全く読めないんだ、賢い魔物にはかなり有利に立ち回れるんだ』
(なんだかカッコいい感じはしますが、扱いが難しそうですね)
『最後に『人形使い』これはサポーターで攻撃と回復どちらもこなせるんだ、遠近両方に対応していて危ない時は人形を前線で戦わせ自身は後衛で仲間を回復魔法で癒したり敵が隙を見せたら人形と共に攻めに転じることも出来るんだ。』
『この街『イースマキナ』で習得できるジョブはこのあたりだけどどうかな?自分が戦闘中にどういう役割を持ちたいかで決めるといいよ』
私は自分の胸に手を当てて考えた…どんな役割を持ちたいか…魔物を倒す力?仲間を癒す魔法?私には力よりも強い思いがあったそれはクロエを支え…いや…クロエと同じ様に人助けをしたいと…
『決めました…私は…』
『クロエ』LV16 人族 職業:冒険者 ジョブ:剣士 武器ブロードソード サブ鉄の円盾
頭装備:アイアンヘルム 胸装備:アイアンアーマー 腰装備:レザースカート
腕装備:鉄の籠手 足装備:鉄の脛当 装飾品:炎の首輪
ステータス HP200 STR50(15) DEF90(60) INT39(5) MEN60(30) AGL35(-15) LUK10(0)
炎属性消費魔力5%OFF