第85話 竹原修斗
「次の標的はレヴェル、と言いたいところだけど保住家は厄介だわ」
アース・ルノーは女性のような口調で次の目的について語りますが、困難な相手に悩み口から副流煙を吐き出します。
白く清潔な指には細い煙草。
青い自動車の運転席から空を見上げています。
「レヴェルを潰すのは不可能だろ、世界を敵にするようなもんだって」
助手席で煙草のケースを眺めている目つきの悪い少年西京は悩む方がおかしいと呟きました。
「それに、レヴェルのボスは外に逃げたよ。小島理亜と一緒に」
後部座席で遠い目をした竹原修斗は答えます。
「小島理亜。助手の娘さんねっ、突然の行方不明に2人とも心配して研究にも手がつけられない状態だったわ。救出しようかしら、恩を売れば私達の味方になってくれるかもしれないわ。味方は多い方がいいでしょうし……それと、アオイのことを知っているみたいね竹原君」
「アオイがどうかしました? もう1年前の話ですよ」
「5年以上前に消えたアオイを探しているご老人がいるの。彼女の養父だと言っていたわ。多額の資金を提供するから探してくれと、どこでアオイに会ったのかしら」
どこで、場所を訊かれてしまい修斗は迷わず自身の頭を指しました。
「頭の中からアオイが声をかけてきました。おそらく肉体はないと思います。アオイは、レヴェルのボスに殺害されたそうです」
残念な答えを聞いたアースは煙草を道端に捨てて、溜息をつきます。
捨てられた煙草は道を浮遊していたロボットによって回収。
「保住君は我が儘な男ねっ。西京君、洋国で西京博士に会うついでに小島理亜を救出してちょうだい」
「俺はまだ協力するって言っていないけど」
西京は不満な表情をアースに向けますが、返ってくるのは笑顔だけ。
「はぁ……分かったよ」
自らの意思を捻じ曲げるように、西京は承諾します。
「それじゃあ空港にいきましょ」
中央の帝都から左に位置する酉の町まで長いトンネルを潜り、橙色のライトをしばらく眺め続けます。
修斗は苦しそうに速い呼吸を繰り返し始めました。
異変に気付いたのは西京。
「どうしたんだ、って何をやってんだよこんなところで!」
後部座席に上体を向けた西京は思わず目を丸くさせてしまいます。
「あら、ちょっと、アタシの愛車なんだからやめなさいよ。もうすぐでトンネルを抜けるから近くのトイレでやって頂戴!」
バックミラー越しに覗いたアースは顔を青ざめ、急いでアクセルを全開にトンネルを抜けていきました。
一瞬の真っ白な世界から一気に青空が現れ、アースは最寄りの公衆トイレに横付け。
「早く降りて!」
アースに怒られながら後部座席から降りた修斗は急ぎ足で公衆トイレに向かいます。
性別で分けられたトイレで修斗は男と表記されているのを目視。
男性用便所の前で学生用ズボンのファスナーに手を伸ばしますが、修斗は途中で動きを止めました。
「クローンの生命反応?」
修斗は後ろを振り返りますが誰もいません。
後ろには2つの扉があり、どちらもトイレですが、修斗は生命反応がある右の扉を開けました。
黒い衣類に身を包むクローンが修斗に体当たり。
肩から勢いよく腹部を押し付けられ、修斗の背中は壁に激突します。
「うげぃ、いたた」
細長い針のようなナイフが修斗の喉を狙いますが、修斗は相手の腕を掴んで細長いナイフを弾き飛ばします。
転がるナイフを無視して、今度はクローンを壁に押し付けて立場を逆転させました。
「殺せ、ぐ」
クローンの口を強引に手で塞いだ修斗は、相手の容姿を観察。
華奢な体格にショートヘア、傷のない透明な肌に修斗は呼吸を速くさせて、
「ダメだ、駄目だ、こんなところに女の子が来るなんて……止まらなくなる」
柔らかな体を強引に掴み始めました。




