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不要な子供達  作者: 空き缶文学
第3章
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第82話 竹原修斗

 墨田グループが拠点としている屋敷は、高層ビルが多く並ぶ帝都の中では異質です。

 門や玄関にはスーツを着た護衛が周囲を監視するかのように立っていました。

「西京さんがいるのは、部屋、ううん地下かな」

 脳に広がる屋敷の地図を探りながら竹原修斗はビルと屋敷の隙間へと入り、身軽な全身を使って壁に手を伸ばすとよじ登ります。

 壁に立つ修斗は護衛達の反応を脳内情報で確かめ、屋敷の屋根に飛び移りました。

 身を屈めながら着地し、修斗は中庭を覗き込みますが誰もいません。

「なんか拍子抜けかも、ん?」

 通路を歩く西洋人形のような洋服を着た少女が二人。

 2人の瞳孔は赤く、クローンであることを示しています。

「わぁ可愛い、すごくセックスしたい」

 頭を人差し指でトントンと叩いて脳内情報から二人の経歴を探す修斗。

『アース・ルノーより伝言、西京救出を最優先にしてね、とのこと』

 心を読まれているようで修斗は苦笑いを浮かべてしまいます。

 クローン2人が去るのを惜しむように見送った修斗は中庭に飛び降り、西京がいる地下を目指しました。

 墨田が休日に使っている書斎に入り、テーブルの下にある扉の取っ手を迷わず引くと地下に続く階段が。

 脳内の地図が正しいことに安堵する修斗はハンティングナイフを握り締めて、階段を下りていきます。

「小島理亜がサーガ被験者ではなかったと墨田代表が怫然したまま洋国に行ってしまった。お前が被験者じゃなければとっくに殺しているんだぞクソガキ」

「我々はレヴェルや白狼会のように甘くない、さっさと吐け!」

 スーツの男2人がイスに縛り付けられた西京に向かって声を荒げています。

 よく見れば西京の顔は鼻腔と口腔内から出た血で赤く染まっていました。

 修斗はハンティングナイフを鞘から抜き、慌てず、そっと足音を立てないように男達の背後へ。

「西京さん、助けに来たよ」

 男の首筋に刃先を向けて、スーツに隠れているホルスターから自動式拳銃を奪います。

 拳銃のグリップで後頭部を遠慮なく叩きつけました。

「なぁ、なんだこのガキ!?」

 気絶した仲間といつの間にか不法侵入をしてきた修斗に驚く男。

 ホルスターから自動式拳銃を抜こうとする男の手を右足で蹴り弾き、修斗は手で口を押さえ付けると、ハンティングナイフの柄で蟀谷を気絶するまで殴ります。

 白目になり痙攣を起こした男を床に倒し、盗んだ拳銃を捨てました。

「た、たけはら……な、なんでここに」

 やつれた顔で見上げる西京を頑丈に結ばれた紐から解放し、自由にさせた修斗。

「ありがとう」

 目つきの悪さは変わらず、気まずそうに感謝を述べた西京に修斗は目を伏せます。

「姉さんが亡くなった事、恨んでいる?」

「そんなの恨むわけないじゃん、むしろ俺の事を恨んでいるだろ」

「まぁ、ねっ!」

 修斗は右手を拳に変えて西京の顔面を躊躇なく殴ってしまいます。

 救出する相手にする行為とは思えません。

 顔を押さえて痺れる痛みに歪めている西京は、一体何が起きたのか理解できずにいます。

「よしスッキリ。さ、逃げよう」

 微笑む修斗に背筋を震わす西京。

「竹原、なんか見ない間に変わった?」

「そうかな」

 気分爽快な表情で地下から書斎に戻り、裏庭へ。

「西京さん、屋根に登れる?」

「まぁ、できると思うけど」

 西京の答えに頷くと、修斗は裏庭の大きな庭石に走って乗ると勢いよく蹴り、屋根によじ登ります。

「マジかよ。いつの間にそんなことができるようになったんだ」

 同級生の成長ぶりに驚きを隠せない西京は同じように屋根へと登りました。

 アース・ルノーが待つ車に向かうと、

「無事で良かったわぁああああ」

 全身で喜びを表現しながら西京に抱きつくルノー。

 網タイツと白衣を着た若い洋人の男に抱きつかれ、西京の顔は引き攣っています。

「ルノーじゃん……ってことは博士が絡んでいる感じ?」

「西京博士は洋国にいるわっ。とりあえずヤナギグループの邸宅まで送るわね。竹原くんは後ろの相手をよろしくね」

 修斗は軽い溜息をついて、振り返りました。

 後ろにいたのは赤い目をした少女2人。

 手に持っているのは短い暗器用のナイフです。

 西洋人形のような洋服を着ている少女は静かにですが修斗を睨んでいました。

「下心、丸見えです」

「最低な男です。私達クローンは娼婦ではありません」

 辛辣に言われていますが、修斗は否定しません。

「竹原、どういう事だ? クローンに反応しないなんて、まさか本当に脳内情報を」

「ほらほら行くわよぉ」

 ルノーは戸惑う西京を車に乗せて足早に逃げていきます。

 クローン2人が腕を振り上げると袖から暗器用のナイフが飛び出し、修斗の喉を狙う。

 身を屈んで回避を行う修斗はそのまま前進。

 ハンティングナイフを使うことなく修斗はクローンの手首を掴み、捻ると地面に叩きつけました。

 背中から倒れたクローンが隠し持つ暗器用ナイフを奪い取ります。

 修斗は洋服に装飾されているリボンを使い、倒れたクローンの両手を縛りました。

「貴方を殺さないと、私達が殺されるのです。これが無謀であってもです」

「うーん、殺すつもりはないよ。戦いたいとも思わない」

 暗器用ナイフを構えるもう1人のクローンに、戦う意志はないと告げます。

「そんなこと信じられません」

 クローンは首を横に振り、ナイフを振り翳して修斗に接近。

 何度も何度も切りつけようと喉や脇腹、眉間等を狙いますが修斗は難なく避けて、クローンの手首を掴むと膝でナイフを飛ばしました。

「サーガに殺されるくらいなら」

 無力化されたクローンは修斗から離れ、縛られているもう1人のクローンに駆け寄ります。

「待って!」

 脳内が予測した事態に思わず修斗は2人の間に入ろうとしますが、縛られたクローンの咽頭に細長い針とよく似た飛び出し式ナイフで貫いたのです。

 今度は自身の心臓に目がけて飛び出し式ナイフを押し込み、絶命。

 苦しく歪む2人の表情に修斗は唇を軽く噛み、赤い目を塞ぐように指先で瞼を閉ざします。

「もう、最悪だよ……何がクローン保護なんだ」

 これ以上の騒ぎにはならないよう竹原修斗は自ら命を絶った2人に祈り、墨田グループの屋敷から離れていきました。

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