第61話
馬上の町はとても穏やかで背の高い建物はありません。
海沿い付近には正方形に塀で囲まれた土地があり、地下へと続く階段が中央にあるだけでした。
地下はホテルとよく似た絨毯が敷かれた通路と部屋に続く扉がいくつも設置されています。
どこかの部屋で、両腕を背に縛られて椅子に座り込む鈴木駿介の姿。
鼻出血の痕を残して息を吐く駿介は目の前にいる少年保住を眺めました。
「ボス……アオイちゃんは死んでない、ちょっと機械トラブルで調整しているだけだよ」
駿介の息を切らす声を冷えた目つきで見下ろすボスと呼ばれた保住は肩をすくめます。
「あのね、鈴木さん。生きているのは知ってる、僕が知りたいのはアオイに何を言ったのかってこと。音信不通だなんてレヴェルとしても深刻な問題なんだから」
「俺は何も言ってない」
延々と続く1対1の質疑応答に嫌気が差してくる駿介。
「あーもう、いい加減普通に話をさせてくれ、それかさっさと息の根止めて海の底に沈めるか灰にしてほしいよ」
「普通に話をしているじゃん。鈴木さんは縛られるのが好きなんでしょ? 竹原君に縛られたことあるみたいだし」
「まさか、そんな趣味なんかない」
首を横に振って苦い顔をした駿介に、鼻で笑う保住は携帯端末を取り出すと液晶画面を駿介に向けました。
液晶画面に映るのはサーガ被験者という文字と、女子生徒の肩までが写った写真。
「このまま有能な鈴木さんを消すのは勿体無いしレヴェルで活躍だってしてほしい、というわけでこの子は小島理亜っていうんだけど可愛いよね? でも残念ながらサーガ被験者、クローン保護を協力している僕らにとっては邪魔でしかない存在だし、殺してきて」
「竹原と二ノ瀬、西京以外の学園内にいたサーガ被験者は橘が排除したはず、その子がサーガ被験者っていう証拠は?」
怪訝な表情で駿介は問いかけます。
「西京から得た情報だって墨田は言ってたよ」
すぐに答えは返ってきましたが、納得できない駿介は口を紡いで保住を睨みました。
「まぁまぁ睨まないで鈴木さん。クローン保護に協力してくれたら君が探している薬の情報を教えてあげる。いい条件だと思うなぁー、かなり信頼できる薬みたい」
携帯端末を内ポケットに入れた保住から目を逸らして天井を向いた駿介。
「信用できる要素がないけど、生かしてくれた恩は返すよ」
駿介の言葉に保住は満面の笑みを浮かべて頷き、駿介の両手首を縛る糸を切り落とします。
ようやく手が自由になった駿介は先程まで自身に向けられていた冷えた目つきと同じような目で手首を握りしめました。
「そっか、膝枕をしてくれた子は小島理亜なんだね……嫌だな会うの」




