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不要な子供達  作者: 空き缶文学
第1章
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第5話 二ノ瀬逢華

 二ノ瀬逢華は虚ろに漆黒の瞳を俯かせていました。

 緑のブレザーとスカート姿。

 虚無感を覚え、逢華はただ廊下で立ち尽くすことしかできません。

 脳裏に浮かぶ優しき笑顔と声、それがもう返ってこない事をゆっくりと認識させられます。

 肩まで伸びたセミロングの黒髪が風によって空しく揺らされていました。

 帝国高等学園、超がつくほどの難関で有名な学園は安泰の人生を築けること間違いありません。

 そして入学した者はどんな理由であれ外出、退学は認められない。

 それは受験前にしっかりと公表されているはずですが、時々読まない受験者がいる様で入学した途端、脱走しようとする生徒がいます。

 一般教科1年A組と表記された教室で何やら生徒達が朝の話題を思いつくまま話していました。

「ねぇねぇ昨日の夜にさ誰かが学園から出ようとしたんだって」

「えー、まだ逃げる人いるんだ。ちゃんと受験前に読まなかった人が悪いのに」

「でもその人校舎の屋上から落ちて死んだって噂だよ」

「うそー、もしかして自殺かもしんないよ」

「やだ、幽霊が出てくるかも」

 廊下にまで聞こえてくる女子達の笑い声。

 目の前に教室があるのですが、どうも入る気が起こりません。

 ここになにか凶器があればすぐにでも奴らの口を閉じさせられるのに。

 逢華はそう思いながら廊下の窓側に背中を密着させました。

 耳を自分の発した声が聞こえないくらい、塞ぎたい。

 次第に怯えるような表情を俯かせてしまいます。 

 革靴をゆっくりとしたペースで床に叩く音が廊下に響きました。

 白い背広姿の学園教諭、荒川。

 ポケットに左手を、右手には黒いノートがありました。

 逢華の前を通過するはずの荒川はそこで足を止めます。

 俯いている逢華は目の前に誰がいるのかわかりませんが、冷ややかな視線が自身に送られていることには気付きました。

「誰にも知られず、今まで通りの生活が送れる。佐々木のことは忘れろ、あれは事故だったんだ」

 耳から手が外れ、逢華は呆然と立ち尽くします。

 義理の娘へ送った気持ちがこもっていない言葉。

 逢華は何も言わずに目を合わせます。

「これを機会に中絶しろ」

 まだ膨らみのないお腹に両手を覆わせて、逢華は再び俯かせました。

 荒川はいつの間にかその場から去り、逢華1人が廊下で佇むだけ。

 誰もいなくなった教室に重い足を進ませて、教室のホワイトボードに書かれた文字を見ました。

『一般教養科は第1会議室に10時までに集合』

「庸介は、本当に……」

「二ノ瀬さん、第1会議室で学園長が説明するそうよ」

 逢華は口を閉じて、声をかけられたことで意識をはっきりとさせました。

「なんでも佐々木君が自殺したそうじゃない」

 ロングストレートの茶髪で誰が相手でも余裕の笑みを浮かべる女子生徒。

 片桐暦、逢華と同じクラスメイトです。

 優しげな表情といえばそうなりますがどこか不思議な雰囲気もあります。

「片桐さん?」

 逢華の耳元まで顔を近づけて囁かれました。

「いずれにしてもお腹にいる赤ちゃん、皆に知れ渡ると思うんだけど」

「なんで、知ってるの?」

 自然と瞳孔が大きく開いた逢華は慌てて後ろに1歩下がり暦と距離を取ります。

「この前、荒川先生と佐々木君が話しているのを聞いちゃった」

「えっ、先生が庸介と」

 信じられない。微笑む暦から視線を外しません。

 これ以降会話が無く、沈黙が続くと思えば暦は何も言わずに教室から出て行きました。

 口元に笑みを浮かばせたまま。

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