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不要な子供達  作者: 空き缶文学
第2章
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第50話

「はい、君の名刺ができたよ」

 束になった100枚の名刺を、児童養護施設の施設長を務めている10歳未満のエリスに渡すのは黒いスーツを着た青年鈴木駿介でした。

 副流煙の危険もない相手ですが、エリスは俯きそっと受け取ります。

「ありがとう、ございます」

 しっかりと言えた感謝を褒めてくれる人はもういません。

「どういたしまして。もうご飯は食べた? しっかり夜は寝ているか? 体調にも気を付けないと」

「あの!」

 エリスは駿介の言葉を遮って大きな声を院長室に響かせます。

 目を丸くさせている駿介は首を傾げていました。

「そろそろ、院長のおしごとがあります。だからもう、いいです」

 決して顔を上げないエリスを数秒ほど見下ろした駿介は肩を落として頷きます。

「そっか、そろそろお邪魔するよ。また、何か困ったことがあったら言ってくれ」

 もう来るなと訴えているかのように黙り続けるエリスに背を向けた駿介は院長室から出て行きました。

 軽い扉だというのに、重く閉まる錯覚に溜息が止まりません。

 分厚い壁を壊せる術もないまま駿介は通路を進みます。

「やれやれ、まさか神山が匿っているなんて竹原君が教えてくれるまで分からなかったなぁ」

 袖を捲って手首を露出させると細く強い糸で締めつけられた痕が残っていました。

「ブツブツ言ってる気持ち悪い人がいると思ったら、鈴木さんじゃん」

 食材が入っている買い物袋を片手で抱えて歩いていたのはエリス同様十歳未満の少女宮田ココ。

「独りの時間が多いと増えるもんだよ、宮田さん」

「あっそ。もうさ、院長のこと放っておいてあげなよ……つらいだけだもん」

「本当は、そうしたいね」

 捲っていた袖を直しながら再び歩き出した駿介は微笑みます。

 納得できないココの睨みを背中で浴びつつ、駿介はリビングへ向かいました。

 リビングでは新しく施設に入ってきた少年少女五人が集まって携帯型の情報機器を見ている様子が。

「こんにちは」

 駿介の挨拶に、

「こんにちは!」

 幼い2歳ほどの大輔が元気よく挨拶をしてくれました。

「素晴らしくいい返事だねぇ。一体何を見ているのかな?」

 駿介の質問に情報機器を持っていた少女百合は無言で液晶画面を向けてきます。

「電子記事? 帝都警察署本部で刑事が何者かに殺害される、へぇ物騒な。ヤナギグループの人間で、悪いことをしていると、なるほど大山のことかぁ。頑丈なデカ男が殺されるなんて相手はどんな化け物だろう」

 左袖が垂れているエナは呟きました。

「ママ……」

「ママ?」

 続いて百合も、

「ママ、絶対」

 大輔は首を傾げていますが、最年長の少年トウヤと一緒に頷きます。

 赤ん坊の女の子唯はトウヤの腕でぐっすり。

「えーとママが刑事を殺したってことかな?」

 疑問を浮かべている駿介に冷めた目を向けた百合は情報機器を胸に抱いて、


「ママはせいぎの味方だよ」


 はっきりと答えました。

 背筋が凍りつくような子供達の冷めた目は駿介を後退りさせます。

「そ、そうなの? ママは正義の味方かぁ凄いねママは」

 一体ママとは誰の事なのでしょうか、駿介はとりあえず同意してみますが理解はできていません。

 ずっと記事を眺めては口元に笑みを浮かべている子供達。

 そっとしておこう、駿介は深く触れないよう玄関から扉を開けて外に出ると、ポケットから携帯電話を取って早速誰かに連絡をします。

 少しの間もなく電波越しに音声が届きました。

『はぁーい鈴木さーん。おひさー。長い間連絡がなかったから死んだと思ってましたー』

「おひさーアオイちゃん。帝都警察署本部で起きた殺人事件の記事をアップさせたのは君かなぁ?」

『だとしたらーなんですかー? 危険だからやめろってことですかー?』

「いや、大山を殺害した犯人の情報はある?」

『残念ながらーありませーん。情報保存室の外、中には監視カメラがないんですよー』

 呑気に伸ばした声に駿介は肩をすくめます。

「ちょっと君の家に寄ってく」

『いやーん、えっちなことでもする気ですかー? 未成年に手を出すのは犯罪で』

 駿介は途中で通話を切り、

「めんどくさい子だなぁ」

 大きく息を吐きながら呟きました。

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