表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
不要な子供達  作者: 佐久間 泰然
第2章
49/134

第48話 二ノ瀬逢華

 会計課、そう表記された署内の部屋。

 若い巡査に熱い視線を送っているのは事務職員の女性達でした。

 若い巡査の隣にいる二ノ瀬逢華の挨拶など聞いていません。

 だからといって不機嫌になるようなことはありませんが、逢華は目を細くして隣の巡査、七宮和樹を睨みつけます。

「どうかした?」

 睨まれているというのに和樹は悩みのなさそうな表情で首を傾げていました。

 情報の少なさと汚れた経歴もない、逢華は口から息を零します。

「なんでもない、気にしないで」

 呟いた逢華は指示されていた窓口へ。

「おーい七宮巡査、こっちに来い」

「はい」

 会計課の扉を開けて入ってきた大柄な男性に呼ばれ、和樹は軽快に小走り。

 業務内容を説明している事務職員の声を耳に入れながら、逢華は和樹達の会話にも聞き耳を立てます。

「遺体が見つかったらしい、お前も一緒に来い」

「僕が行ってもいいんですか? 今からパトロールが」

「ばーか、今の時代誰が帝都を巡回していると思ってる? 機械だぞ。お前ら下っ端は署のイスに座って楽な作業をしていればいいんだよ」

 和樹の頭を軽く掌で叩いた大柄な男性。

「そ、そうですね、そうでした」

 叩かれた頭に手を添えて空気のような声で和樹は呟いていました。

「あの女……まぁいい、来い」

 会計課から2人が出て行ったのを確認した逢華は大柄な男性の情報を整理。

『大山一之助34歳男性。荒川の部下、ヤナギグループの人間です。仲間ですが敵意あり警戒してください。履歴は以下になります』

 数えきれない違法行為が述べられていき、逢華は多すぎる情報に遮断したくなります。

「二ノ瀬さん、聞いている? 貴女の為に時間を割いて説明しているのよ。しっかり聞いて覚えて」

 女性事務職員の強い口調に逢華は、

「すいません」

 無駄な時間を過ごしている、そう思い唇を甘噛みして空っぽの謝罪を呟きました。


「大卒でもないのにどうやって採用されたんだ」


「帝国高等学園を強制退学されたそうですよ」


「とんでもない問題行動があったらしい、不純なんたらってやつ」


「七宮は純粋な子だから誘惑されたんじゃないか」


 勤務時間中に聞こえてくる後ろの声。

 口を裂いてやろう、吐き出しそうになる言葉が胸の奥で渦巻いています。

『危険率90パーセーント、戦闘態勢もしくは危険区域から避難を推奨します』

 脳内情報の警告が届いた瞬間、逢華は窓口の席を静かに立ち上がりました。

「すいません、物品の確認をしたいので席を外します」

 事務職員の返事を聞いている暇もなく冷ややかな視線に見送られながら逢華は会計課から出て行き、女子更衣室へ。

 暗証番号付きのロッカーを開けて取り出したのはメッセンジャーバッグ。

「大山なら荒川先生や川島のことを絶対知っている。全部聞き出してやる」

 女子更衣室から出ると、

「二ノ瀬さん?」

 七宮和樹が小型の情報機器を持って通路を歩いていました。

「うわぁ……七宮君」

 内心を隠せず嫌そうに呟いた逢華はタイミングの悪さに顔を引き攣らせます。

「業務はどうしたの? もしかして雰囲気が悪かったとか、もしそれなら人事に」

「だ、大丈夫! どこに行っても同じだと思うから、ありがとう」

 心配そうな表情を浮かべている和樹に迫られ、逢華はすぐに首を横に振りました。

「それよりさっき七宮君と一緒にいた人、どこに行ったの?」

「え、大山さんは情報保存室にいるけど、どうし」

「ありがとう。七宮君ごめん、ちょっと急ぎだから」

 情報を得れば署内の通路を走り出した逢華は、

「本部の情報保存室ってどこ?」

 自身の脳へ問いかけます。

『帝都警察署本部、マップ検索……1件。情報を送ります』

 行ったことがない情報保存室と呼ばれる部屋へ。

 脳内情報が示した部屋には情報保存室と表記された部屋が確かにありました。

 暗証番号を入力する機器が5つも壁に設置されています。ですがそんなもの、逢華にとっては意味がありません。

 逢華の指先は別の生き物が指示するように動き、難なく8桁以上の番号を入力して解除。

 扉が横に開くと、薄暗い光が照らされた部屋に続きます。

 誰も入って来れないよう扉を施錠して、逢華はテーブルに置かれている情報機器を眺めながら奥に進みます。

『避難不可能な区域に侵入しました。戦闘態勢に入ってください』

 脳内情報の指示通りメッセンジャーバッグから掌サイズのポケット拳銃を抜き、安全装置を親指で外しました。

「そうだよ荒川、暦は殺された。絞殺だけならまだ優しい方、窓の外側に首を吊った状態で見つかった。首にナイフを突き刺されて……お前の育てた女はとんだ化け物じゃねぇか! 川島も同類だ、片桐家には手を出すなと言ったのに、あのガキは片桐亮を殺した!!」

 携帯電話を片手に荒げた声を発していたのは大柄な体の大山一之助。

「落ち着けるかよ、片桐家は俺達を怪しむ。クローンを使って殺しに来る可能性だってある。被験者の中で成功に近い2体のうち竹原修斗はどうなっていると思う? 完全に抜け殻状態で役に立たない。お前のガキは暦を殺した化け物で論外!」

 壁に背を預けて逢華は怒り狂っている大山の様子を伺っています。

「目的は赤ん坊を殺害することだろ、忘れてねぇよ。だけどな、暦は、暦は悪い子じゃなかった……娘のようだった。あんな殺され方、法で裁くなんて考えられない、俺がこの手で赤ん坊と一緒に殺してやるよ。荒川、止めても無駄だ」

 一方的に通話を切ったのは大山。

 ポケット拳銃を構えた逢華は壁から飛び出し、何を思ったのでしょう、声をかけることなく右膝の裏に向けて発砲したのです。

「いぎぃ!」

 突然の事に大山は膝から落ちて四つん這いの姿勢になり、右膝から零れる血液に苦悶の表情を浮かべて顔を上げました。

 ポケット拳銃を構えている逢華を見上げた大山は、

「二ノ瀬! てめぇどうやって!?」

 声を震わします。

「荒川先生はどこにいるの? 川島って人は一体何者でどこで何をしているの!?」

 お互いが怒りと復讐に燃えている状況。

「殺してやる、殺してやる。化け物がぁあああ!!」

 痛みを堪えて無理にでも立ち上がった大山はショルダーホルスターから自動拳銃を抜き、逢華に銃口を向けました。

「っ、答えたらいいだけなのに」

 発砲された円頭弾は逢華の頬をかすめて皮膚を裂き、微量の血液が飛び散ります。

 大山は自動拳銃を握っている右手を振り翳し、逢華の頭を狙って振り下ろしてきました。

 同時に逢華はポケット拳銃を大山に向けて発砲。

 大山が握るグリップの底が逢華の頭部に命中し、力押して叩き付けられてしまいます。

 一瞬にして目の前が暗転するほどの衝撃に倒れてしまった逢華の手からポケット拳銃が落下。

「いいこと教えてやるよ、お前の母親は荒川の恋人だった……いい女だったが最低な女でもあった。二ノ瀬愛菜、あいつは自殺した。化け物の子を産んだことを後悔してな」

 右腕と右膝の裏から溢れる血液、大山は立つことができず座り込みます。

 これで最後と、逢華の頭を狙い発砲したかったのですが、動きません。

「ちっ、殴った衝撃で動かなくなった」

 逢華が落としたポケット拳銃を掴んで今度こそはと狙いますが引き金が動きません。

「な、なんだ? まさかこれ、神山のアホが余計な物与えやがって」

 サーガにしか反応しないポケット拳銃だと理解できたところで、大山の携帯電話が突然鳴り響きます。

 相手は先程まで通話をしていた荒川でした。

「なんだよこんな時に!」

 上司ですので、出ないわけにはいきません。

「薬? お前が言っていた対サーガ用の注射薬なら打ったけど、それがなんだよ」


『クローン発見、クローン発見、クローン発見。ただちに排除致します』



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ