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不要な子供達  作者: 空き缶文学
第1章
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第41話 竹原修斗

『アキ・ユキハラの情報が竹原修斗の情報へ到達し、一致するまで残り10パーセントです』

 竹原修斗の脳内から聞こえてきたのは女性の機械音声でしたが、修斗は気に留めていません。

 火事によって真っ黒に焼き焦げてしまった孤児院は廃墟となり、穴が開いた天井から太陽の光が漏れています。

 廃虚に足を踏み入れた修斗と教師である神山雄一は辺りを見張るように目を凝らし、ハンティングナイフを力いっぱい握りしめた修斗を後ろから見守る雄一。

「この奥に広めの居間がある。そこにいると思う、いつも3人で遊んでいた場所なんだ」

 雄一が指す通路の先に待っていたのは元の色すら分からないほど焦げた扉でした。

「竹原、いいか? ナイフが落ちないようしっかり持って扉を蹴り破れ」

「はい……行きます!」

 虚ろな瞳はどこかへ消えて、強く真っ直ぐに見つめる漆黒の瞳で修斗は走り出します。

 走った勢いのまま片足で扉を強く押し開ければ焦げ付いた扉は呆気なく崩れて、

『クローン発見クローン発見、直ちに排除します』

 脳内情報は警報を鳴らし、修斗の意識と体を支配。

 居間の入り口に待っていたのは防弾チョッキや肘と膝に防具を付けた2人のクローンでした。

 脳内情報は即座に認知して、ハンティングナイフの切っ先をアサルトカービンのピストルグリップを握り締めているクローンの右手へ。

「しまった!」

 飛び散る血液と一緒に切り離された右手とカービンライフルに、痛みより驚きを隠せないクローンは腰のホルスターに収めている自動拳銃に左手を伸ばします。

 次の行動を予測した脳内情報はクローンより先に自動拳銃を抜き取ると、バレルを掴んでクローンの顔面に叩き付けました。

 鼻がへこむほどの衝撃に血が飛び出し、骨が砕ける音も響き渡ります。

 白目のまま倒れてしまうクローンの次にもう1人、狙いをつけてトリガーを人差し指で引こうとしているクローンへ。

 カービンライフルのハンドガードをクローンの左手ごと下に押さえつけて、弾丸は狙いを外し10発の弾丸が連射されました。

 体勢を崩させて、自動拳銃のグリップでクローンの下あごを強打。

 一瞬にして意識を飛ばされて倒れ込んだクローンの首に銃口を向けて迷わず発砲し、絶命させた後自動拳銃をクローンの腹部に捨て置きました。

『クローン2体の排除を完了しました。特殊クローン発見特殊クローン発見、橘恵を排除し』

 強制的に機械音声を止めた修斗は痛みを抑えようと頭に手を添えました。

「竹原修斗」

 冷徹な赤い目をした橘恵が暗器のナイフを両手に持って臆することなく歩み寄ってきます。

「姉さん……俺は姉さんを助けに来たんだ」

「なるほど、雄一に吹き込まれたな、それともヤナギグループに洗脳されたか」

「違うよ、姉さんと西京さんを助けて墨田を倒す。全部俺が決めた」

「重症、脳内情報にやられたな。そんな大口を叩くならちゃんと証明しろ」

「証明?」

「墨田から竹原修斗殺害の命令が下された。その命令に従ってお前を殺害する。ならお前は今から何をするかだ」

 話し終えた瞬間、暗器用のナイフが恵の手から修斗に向かって放たれます。

『特殊クローン発見、排除いたします……核情報不明、体内で移動確認、時間がかかりますが狙います』

 頭に添えていた手を下ろせば脳内情報は再び修斗の体と意識を奪い、喉を狙う暗器ナイフを寸前のところで弾いたと同時に床を蹴ってハンティングナイフを恵に振り翳しました。

 赤い瞳孔を収縮させた恵に右手首を掴まれてしまい、暗器ナイフが修斗の胸を襲いますが、脳内情報は掴まれた右手首を押し解きます。

 暗器ナイフを握る手ごとハンティングナイフで斬りつけますが、恵は表情を歪めずに後退。

 恵の手は出血をしていますが斬れた痕はありません。

『アキ・ユキハラとの情報統一まで残り3パーセント……2パーセント……1パーセント』

 追い打ちをかけるように再び前進した脳内情報はハンティングナイフを突く構えをとります。

 恵は修斗の頭を狙う為に息絶えているクローンのお腹に置かれた自動拳銃を拾い、狙いをつけていました。

『情報が一致しました。インストール完了。核右胸へ移動、発見しました……さようなら』

 脳内情報が突然別れを告げ、さきほどまで支配されていた体と意識が戻った修斗。

「姉さん!」

 廃虚に響き渡る破裂音が修斗の右肩を掠めて、シャツと皮膚が裂けて出血してしまいます。

 ハンティングナイフは迷いなく恵の右胸を突き刺しました。

 青白い眩しい光と流れる電気に凍り付いていた恵の表情は歪み、自動拳銃を落として両膝を床につけます。

『アクセスキーを解除する』

 女性の機械音声だったはずでしたが、聞こえてきたのは柔らかな男の声でした。

『彼か彼女かサーガとして覚醒した君へ、クローンを迫害する愚かな計画をどうか止めてほしい。そして、僕アキ・ユキハラはこれから生まれてくる子供達に願う、今の大人たちと同じ過ちを繰り返さないことを……これを聞いている君が子供達を導いてあげてくれ……さようなら』

「アキさんが俺の頭に」

 血液がべったりと付着したハンティングナイフの先を床に向けて、右肩を左手で押さえた修斗。

「ふぅ」

 諦めたかのような落ち着いた様子で座り込んだ恵は目を細めます。

「姉さん、大丈夫? 死なないよね?」

 不安を声に乗せた修斗に恵は鼻で笑いました。

「なんのつもりだ……本当に墨田を倒して西京を助けられると思うか?」

「助けるよ、俺は絶対に助ける。西京さんを助けたい、姉さんはその為に子供達を殺してきたんだ。今更諦めるの? そんなことしたら姉さん後悔するよ」

 突き刺すような言葉に恵は目を丸くさせますが、すぐに俯いてしまいます。

「安直な考えだが、面白いな。お前がサーガ被験者になった時は死にたくなったが…………良かった」

 恵の言葉に安心したのでしょう、修斗は笑みを浮かべましたが、直後に後ろから床を叩くような音が聞こえてきました。

「おめでたい事だな竹原、恵」

「あ、先生」

 振り返ればショルダーホルスターから自動拳銃を引き抜く神山雄一の姿が。

 雄一は小声で、

「竹原、恵の核はどうなってる?」

 修斗だけに訊ねました。

「え、あぁ、右胸で止まってます、けど」

 首を傾げながらも答えた修斗に何度か頷いた雄一。

「竹原、お前はもう少し疑う事を学ぶべきだったな」

 先程の破裂音とは比べ物にならないほどの爆発が、両手で構えた自動拳銃から響きました。

 至近距離から恵の右胸を貫通させ、体は跳ねて床に横たわります。

 一体何が起きたのか、理解するのに5秒ほどかかった修斗。

「先生! なんで、なんでなんでなんで!?」

 雄一が着ている服を手繰り寄せた修斗はとにかく理由を問いますが、乱暴に突き放されてしまい、修斗はよろけながら下がりました。

「恵とあのクソガキを助けるなんて、俺に何もメリットがない。もし墨田を倒せばヤナギは利用価値のなくなった俺を殺しに来る。嫌なんだよ、恵が他の男と結ばれるなんてこと、どっちにしろ叶わないから殺したんだ」

 自動拳銃の銃口が愕然とする修斗に向けられます。

「奈木が俺を男として見ていたことに気付いたのが遅かった……もっと早く気付いてあげればこんな結果にならなかったかもな」

 悲しそうに修斗を見つめる雄一の目から浮かぶ透明な雫が頬へ。

 雄一はポケットから光輝くダイヤモンドの指輪を取り出し、修斗へ投げました。

 慌てて両手で受け取った修斗は声も出せずに体を震わします。

「それ、知り合いが洋国で見つけた婚約指輪だ……やるよ」

 力なく床に正座した修斗は虚ろな瞳で俯き、婚約指輪を強く握り締めると、雄一以上に溢れる透明な雫がボロボロと零れて床を濡らしてしまいます。

 ゆっくりと銃口が動き、人差し指をトリガーにかけた雄一。

 激しくなる呼吸とどんどん上昇していく心拍数に大量の汗と涙を流した雄一は強く、叫びました。

 廃虚の外にまで響く雄一の叫び声と共に1発の爆発音が修斗の耳を五月蠅くさせて、脳を揺らします。

 穴が開いて天井から空を見上げた修斗の体を濡らすのは突然振り出した雨でした。

 血が滲む肩の痛みも忘れ、修斗は口を大きくさせて、


「うあっぁああああああああああああああ!!」


 絶叫。

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