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不要な子供達  作者: 空き缶文学
第1章
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第18話 竹原修斗

 竹原修斗は無機質な研究室にいました。

 見た事もない機械があるせいか落ち着かず、目移りしてしまいます。

 この研究室も学園の中にある施設です。

 ここへと修斗を連れてきた数学教諭の神山雄一がノートパソコンを操作していました。

「竹原、サーガという存在を知っているか?」

 いつもと変わりない口調で質問をされ修斗は黙って首を横に振ります。

「サーガは人間と変わらない、でも、脳だけが違う新しい人種だ」

「脳が違う?」

「脳内情報っていう人間にはない特殊な脳がある。竹原、お前のことだよ」

 修斗は目を丸くして自分を指す。

「お、俺が、サーガ?」

 黙って頷く雄一はノートパソコンの液晶画面を修斗に向けました。

「西京さんや最近殺された皆の情報がある、これって何? 皆サーガってこと?」

 修斗は表情を引き攣らせます。

「サーガになる可能性がある子供ってこと、サーガ実験の被験者だ。この学園にいる奴らは皆死んだり捕まったりでいないからな、頼めるのはお前しかいないんだよ」

「で、でも何をするんですか?」

 全く想像もできない話に修斗は困惑。

 雄一は大きく息を吐くと、黙って画面を切り替えました。

 そこには見知らぬ少年少女の顔写真と膨大な量の個人情報が記載されているのです。

 少年少女達に共通するのは瞳が赤いということ。

 雄一は目を細めて、

「ここに載っている子供は皆、クローンだ。赤い目はクローンという印……お前がするべきことはクローンを殺すことだ」

 冷静に呟きました。

 繰り返される殺すという単語。

 修斗は頭を抱えて心拍数を上げていきます。

「殺す、殺さないといけないんですか? どうして、なんのために?」

 震えた声で雄一に質問をしますが、雄一は眉をしかめて口を閉じていました。

「無茶なことを言わないでください!」

 残念ながら、修斗の思いは伝わりません。

「お前が殺すわけじゃない、脳がクローンを殺してくれる」

「意味がわからないです!」

「だったら大人しく殺されてろ!!」

 雄一の怒鳴り声に驚いた修斗は縮こまってしまいます。

「いつかはお前もサーガに覚醒するんだ。遅かれ早かれクローン保護の墨田グループに殺される、無駄死にするくらいなら俺達ヤナギグループに協力してからにしろ」

 聞いたことのないグループ名に整理がつかない修斗。

「脳内情報がクローンを察知した瞬間全身を支配し、脳がクローン殺害を行う。幾度か改良されたこともあって支配されている間は意識もない、以前は意識がそのままっていうこともあったみたいだが、大丈夫だろ」

 不安の残る説明ですが、修斗は力無く俯きます。

「まぁ、説明するより実践だ。地下にクローンがいる、そこに行ってお前はこのナイフを持って立っているだけでいい」

 手渡されたのは刃渡り20センチのハンティングナイフ。

 グリップは黒く、鋭い刃が視界に入るだけで修斗は呼吸がうまくできません。

「行くぞ、地下はすぐそこだ」

 襟首を掴まれ、研究室の床下に設置されている地下へ続く階段に連れて行かれます。

 簡易的な扉を開けて乱暴に放り込まれた修斗はよろけながらも辺りを見回しました。

 白いタイルが壁と地面を覆い、箱状の部屋に飾りはなにもありません。

 清潔な場所ですが、胸を締めるような気分に落ち着けずにいます。

 扉は閉められ、目の前には同じ学園の制服を着た男子生徒。

 男子生徒は丸坊主で、持っている物は硬式用の金属バットでした。

 赤い瞳で修斗を睨んでいます。

「神山先生に呼ばれてここにきた。もうすぐ試合なのに、俺がキャプテンなんだ……この目をカラコンで隠してきたのに、お前を殺さないとここから出られないんだよ!!」

 金属バットを両手に襲いかかる男子生徒に修斗は頭を抱えました。

 脳内に響き渡るノイズと女性の機械音声。

『クローン細胞察知、帝国学園2年生荒木一郎、直ちに排除開始します』

 完全に全身を奪われ、意識も飛ばされた修斗の体は涎を垂らしハンティングナイフを強く握り締めました。

 金属バットを持つ両手首に切っ先を通し、鮮明に映る赤い液体が白い壁と地面に飛び散ります。

 男子生徒が気付くよりも、ハンティングナイフの刃先は頸椎を通しました。

 噴水のように溢れ出る、赤、という色が一瞬で理解できるほどの鮮血が天井にまで散り、白を塗り替えようとしています。

『排除完了、終了致します』

 終了の合図と共に意識が戻り、血だるまになっている男子生徒、荒木を目の前に修斗は吐き気を覚えました。

 研究室に連れ戻された修斗はうな垂れるようにテーブルに伏せて、目の前は真っ暗。

「そういや、お前は二ノ瀬を知っているか?」

 雄一の質問に首を力無く横に振りました。

「そっか、ならいい。とりあえず普通の生活に戻っていいぞ、気晴らしにピアノの女の子に連絡でもしたらどうだ? 恵も応援してるしな」

 不快な気持ちを増幅させますが、修斗は何も言い返せません。

 優しい笑顔と奏でられる旋律を思い出します。

 ですが、邪魔するように浮かび上がるのは遺体となった荒木の姿。

 腹部から混み上がってきた異物感に唇を噛み締めて、修斗は強く目を閉じました。

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