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不要な子供達  作者: 空き缶文学
第1章
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第16話 竹原修斗

「西京は殺人容疑で逮捕され、学園から追放された。お前に伝えることはそれだけだ。悪かったな、楽しいデートを壊して」

 悪気のない静かな笑みを浮かべている男性教諭の神山雄一。

 呆気にとられている相手の表情を視界に映せばさらに唇は上へと向いていきます。

 相手は無知な漆黒の瞳をもつ童顔な生徒、竹原修斗でした。

 医薬品と煙草のにおいが充満する保健室。

 2人以外に誰もいないようで、静かな時間が流れていきます。

「ああ、それとな」

 襟を掴まれた修斗の両足はつま先立ちとなり、うまく姿勢を維持できません。

 眉間に皺を寄せて睨まれた修斗は思わず目を逸らしてしまいます。

「奈木の部屋に泊まった……罰だ!!」

 突然脳を揺らすような強い衝撃に思考を奪われ、修斗は固い床へと2回、3回と転がりました。

 気付けば頬から異物感の残る痛みが走っています。

 手を頬に当てて表情を歪めていると、雄一の見下すような視線が目の前に。

「規則違反以上の問題だ。血が繋がっていなくても奈木は俺の娘だぞ。わかっているのか!!」

 修斗は立ち上がることもできず、恐怖で体を震わすだけです。

「今後一切、奈木に近寄るな。奈木と一切会話をするな、メールも電話も、絶対駄目だ。いいな?」

 保健室の扉をガラスが震えるほど強く閉めて出て行った雄一。

 残された修斗は緊張が解け、大きく息を吐き出しました。

「なんで、西京さんが……殺人を、なんで?」

 疑問を呟いたところで返答はありません。

 足を組んだまま床に座り込んだ修斗はずっとずっとその場で俯いた状態で時間を過ごします。

 虚ろな瞳は曇ったかのように淀み、顔を上げる気力もない修斗。

 時間だけが進む景色のなか、ようやく廊下から足音が聞こえてきました。

 足は保健室の前で止まり、今度は扉がゆっくりと開きます。

「修斗?」

 鋭く冷えた女性の声。

 修斗は顔を上げて、扉へ視線を向けました。

 そこには体育教諭である橘恵が煙草を咥えて立っていたのです。

 横髪を長く伸ばし、細くハッキリとした顔立ちに冷徹な視線を常に周囲へまき散らしている恵はこの時ばかりは目を丸くさせていました。

「姉さん……」

 真っ赤な頬を見るなり、恵は眉をしかめます。

「どうした、ぶつけたのか?」

「う、うん。ちょっと……っ!?」

 頬とは違う、針を刺すような痛みが突然頭に伝わってきました。

 さっきまでの痛みが麻痺して今度は別の痛みと、体全体が麻痺させられているような気分を味わい、修斗は表情を歪めます。

 覚えのある痛みと麻痺。

 修斗は自らの意志で無理にでも恵へ向けて手のひらを突きだしました。

「それ、いじょう……近寄らないで、姉さん!」

 脳内に響き渡る乱れたノイズの中に聞こえる声。

「まさか」

 恵は何かを感じ取ったのでしょう、これ以上近寄ってはいけないという言葉に従って近づこうとしません。

 そして、息と一緒に煙を吐きだし、修斗へ背を向けました。

「修斗、しばらくはメールだけにしよう」

「う……ん」

 恵を見ることができず、修斗は頭を抱えて蹲ります。

 保健室から修斗以外誰もいなくなった途端、脳内に響いていたノイズや音声が聞こえなくなりました。

 痛みは消え去り、冷たい床に座り込んで口を小さく開けたまま視線を白い天井へ。

「奈木にも姉さんにも、会えないって……俺の体、どうなってるの?」

 真っ白な天井はどれだけ見ても変わりません。

「もう、嫌だよぉ」

 無知な瞳はひどく疲れています。

 明るさのない表情と溢れそうになる涙。

 この学園で頼れる存在が遠く感じられ、修斗はうな垂れてしまいます。

 真昼の誰もない保健室に1人だけ。

 傍にいてくれる人は誰もいませんでした。

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