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不要な子供達  作者: 空き缶文学
第1章
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第14話 竹原修斗

 太陽の明かりを完全に遮っている部屋。

 外は既に日が昇って学生の皆が起きている時間帯です。

 男子禁制の女子寮のはずですが、その部屋にはどういうわけか童顔な少年がベッドで眠っているのです。

 部屋に住んでいる女子生徒の神山奈木は学園指定のジャージ姿でベッドから体を起こしました。

 少しはねた髪の毛を手で直しながら隣にいる同級生を見下ろし、すぐに洗面台へ。

 鏡に映る寝ぼけた姿と睨めっこしながら数秒その場に立ち尽くした奈木はゆっくりと蛇口を捻りました。

 頼りない水の量であっても両手に受け止めて何回も顔を洗います。

 水が弾くような音に起こされたのでしょう、ようやく目を覚ました同級生。

 無知で明るい漆黒の瞳をもつ竹原修斗は疲れた様子で唸っていました。

 顔を拭きながら奈木は壁際に置かれたデスクへと向かいます。

 全生徒に配られているノートパソコンを起動させて、メールを確認。

「んー、奈木? 真っ暗だよ」

 ベッド周辺を手で振り回し、まだまだ眠たそうな表情で呟きました。

「…………寝てて」

「ねむ、い」

「うん……寝てて」

 簡単に返事をして、全生徒に配信されるメールを画面に映して文字を追っていくと、奈木は一瞬目を見開いてはすぐに細くなります。

 電源を消してノートパソコンを閉じると、着ているジャージをその場で脱ぎました。

 シャツも脱げば露になる水玉の上下揃った下着。

 華奢な体は触れれば折れてしまいそうです。

 学園指定の襟シャツ、深緑のチェック柄スカート、深緑のブレザー。

 最後にリボンを胸元に結んで完了です。

 カーテンを開ければ、薄暗かった部屋は一気に明るみを増して目を思わず閉ざしてしまいます。

「うわっ!!」

 あまりの眩しさに修斗は声を大きくして起き上がりました。

「おはよう、お出かけ……するよ」

 静かに呟かれた修斗はボサボサの髪を掻いて、寝ぼけたまま奈木を見上げています。 

「どこ、に?」

「……食堂、今日も授業中止だから、あと寮待機が解除されたから」

「そう、なんだ。うん」

 簡単ですが奈木はクシで修斗の髪を整えて、顔を濡らしたタオルで拭いてあげました。

「西京さん、大丈夫だったのかなぁ?」

 何気ない言葉に奈木は一度手を止めますが、すぐに気を取り直して動かします。

「そういや奈木からご飯に誘うなんて珍しいね」

「……ダメなの?」

「ううん、そんなことない。凄くうれしいよ」

 満面の笑みを浮かべる修斗。

 奈木はちらりとノートパソコンに視線を向けて、すぐに立ち上がって玄関へ。

「今日は……一緒にいて」

 照れる様子もなく真顔で言い放たれた聞き逃すことのできない言葉。

「もしかしてでででデート!?」

「……なに?」

「うん、そうだね。頑張るよ!」

「なんで頑張るの?」

 ご飯を食べに行くだけだというのに、なにやら妄想を膨らます修斗に奈木は首を傾げています。

 部屋から外へ出ると、1人の女子生徒が近くで笑みを浮かべて立っていました。

「あら、神山先輩。おはようございます」

 年下である女子生徒はどこか不思議な雰囲気を漂わせて2人を眺めます。

 ストレートに伸ばしたなめらかな茶髪。

「片桐さん……何か用?」

「いいえ、何も。昨夜はお楽しみでしたようですね」

 修斗だけが戸惑う様子をみせてしまい、片桐暦は口元に手を添えて上品に笑いました。

「冗談です。でもここ、男子禁制ではありませんでした?」

「……知ってる」

「いくら許されているとはいえ、年頃の男女が寝泊まりだなんて」

 感情の乏しい奈木ですが、今回ばかりは少し口元を下げて相手を睨んでいます。

「何もしてない、それは事実」

「そんなの誰が信じます? 噂なんてすぐに広がりますよ」

「いいよ……別に、どうなっても今と変わらないから」

 修斗の腕を強く掴んでは速足でその場から去った奈木。

 自動ドアを抜けると感情のこもっていない挨拶が流れますが、誰も聞いていません。

「さっきの子、なんかお嬢様って感じのする子だったね」

 ようやく腕を解放された修斗は奈木の横に並び歩きます。

「片桐財閥の娘だから、お嬢様。あまり……関わりたくない」

「そう、なんだ」

「もう忘れて」

 自然と足の歩みが速くなってしまう奈木と慌てて追いかけていく修斗は校舎を抜けて学生達が普段集まる食堂へと向かいました。

 賑わっている様子もなく、扉の前には閉店と記された木製の板が吊るされています。

「あれ、閉まってるね。今日は何曜日だろ?」

「第3……金曜日」

「毎月その曜日は休みだから、コンビニで何か買おうよ」

 今度は修斗が先頭に立って進んでいきました。

 2人そろって同じサンドイッチを購入しては各棟に設置されているベンチに座り、暖かい日差しを浴びながら寛ぎます。

「今月末に外部からピアノ演奏に来るって、おじさんが言ってた」

「へぇ、外部からってそんなことあるんだ。接触禁止なのにね」

「……政府関係者の人だから、特別かも」

「じゃあ一概に外部ってわけじゃないか」

「うん」

 棟の入り口や校舎を眺めている修斗。

 手を止めて、心配そうに辺りを見回しはじめました。

「?」

「西京さん、あれからどうなったんだろ。ちゃんと寮に戻ったのかな」

「……心配なの?」

「心配だよ、だって夜中だったから、いくら学園内でも最近変な事件が多いし」

 メールに記載された文。

 見なければよかったと後悔しても遅いのです。

 奈木は首を横に振って、修斗の袖を握りしめました。 

「ど、どうしたの、奈木」

「どうしたら忘れてくれるの?」

「え、えっと、何を」

 修斗を見上げるとなにやら照れた様子で困っていました。

「西京さんのこと、気にしなくてもいい」

「な、なんでそんなこと。君がそんなこと言うなんて」

 離すものかと袖を強く握りしめる奈木。

 俯きながら次の言葉を探しますが、どうしても見つかりません。

「奈木、ここにいたのか」

 修斗ではない声に思わず顔を上げました。

 2人の前には煙草の臭いを衣服に染みつけている男性教諭であり、奈木の義父である神山雄一。

「片桐から聞いたぞ、本当にこの馬鹿を泊めたみたいだな」

「……泊めた」

「部屋に戻れ、奈木。俺は今からこいつと話をする」

 奈木は強く拒否を示して、修斗から離れようとしません。

 それどころか修斗の腕に両手を絡めたのです。

「おじさんの言う事聞けない。これ以上、修斗にひどいことしないで」

「あのな、奈木。前にも言ったがこの馬鹿に優しくするな。どうせメールで通知したからいつかは知ってしまう、それが今なんだよ」

 雄一は軽く頷いて奈木を下がらせました。

「さっ、竹原」

「えと、なんですか?」

 不満げな表情で修斗は雄一を見上げると次の言葉を待ちます。

 両腕を組んだ雄一。

「場所を移そうか」

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