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不要な子供達  作者: 空き缶文学
第1章
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第10話 竹原修斗

 帝国高等学園内の学生男子寮。

 2階角部屋に住む男子生徒は全ての光を断絶して真っ暗闇の室内でベッドに寝転がっていました。

 他の男子より童顔な少年は無知で明るい漆黒の瞳を閉じて、眠りに落ちています。

 時刻は午前8時を過ぎたところ。

 部屋中に鳴り響いているのは機械のアラーム音。

 眉をしかめて耳を塞いでいますがそう簡単に音は消えてくれません。

 気だるく重たい体を起こした少年は黒髪を掻きながら玄関へ。

 ドアの横に設置されている平型のボタンを押しました。

 すると、アラーム音は消えて部屋は静寂に戻ります。

 瞼が重く油断すれば再び閉じてしまうのではないでしょうか。

 意識もはっきりとしないままにドアを開ければ曇天の世界。

 どうも雨が降りそうで少年の気持ちも下降してしまいます。

「おはようさん、竹原」

「ほぇ? あっお、おはよう。西京、さん」

 金色の染められた髪と釣り上がった目の西京。

 彼は既に緑色のブレザーである学園制服を着ており、まだ起きたばかりで部屋着の竹原修斗は目を丸くして西京の体を上から下へと眺めました。

「あのさ、人をジロジロと見るのは良くないぜ」

「ご、ごめんなさい。つい」

 注意された途端、焦りながら目を逸らした修斗。

 すぐに部屋へ戻ろうとした修斗に、

「どうせ神山のところに行くんだろ、たまには男同士で勉強会とかどう?」

 西京は呼び止めました。

 それには開いた口が塞がらない状態の修斗は脳内で何回も何回も言葉が繰り返されます。

「それに、お前と一度話をしてみたい」

「えっ……うん」

 返事をすればすぐに修斗は部屋に戻って学園制服に着替えました。

 使い古されていない教科書と筆記用具。

 新品同様で名前も書いてありません。

 5冊ほどまとめて持つと慌ただしく西京のもとへ。

 2人が並んで寮の門をくぐると、

『行ってらっしゃいませ』

 無機質な機械音声が流れ、自動ドアが閉まりました。

 一般教養科棟と呼ばれる校舎に向かう途中には広いグラウンド。

 寮待機で、朝であるため生徒は誰もいません。

 2階左端には図書室と表記された部屋。

 鍵もかかっていないのでしょう、簡単に開けることができました。

 4人掛けのテーブルとイスが設置されており、本棚と本棚との間は狭く、1人が通ればもういっぱいです。

 西京は入り口付近のイスに腰掛けると、テーブルに肘を置いてその手に顎を乗せました。

「1年生の頃から部屋は隣同士だったのに全然お前のことを知らないし、会話も全くなかったよな」

「あんまり話す機会もなかったし、話せなかったし」

 苦笑しながら修斗も対面するようにイスへと腰掛け、ノートと教科書を開けてテーブルに置きます。

「お前がここに入学した理由ってなんだ?」

「えと、ホントは帝都以外の高校に行こうと思っていて、そしたら姉さんが誘ってくれたんだ」

「姉さんって橘先生だよな、あの人って何者?」

 西京の質問に首を傾げてしまう修斗。

 一度目線を上にして考えますが、何も思い浮かびません。

「弟っていうだけでそう簡単に入れないし、何かしら大きな権力をもっているような感じがするよな」

「俺だけなのかな……そういう入り方をしたのって」

 ペンを手で遊ばせているだけで一向にノートへ文字を走らせる様子もない修斗は沈んだ気分で俯きました。

 それとは反対に口を動かしながら器用にノートへと書き記す西京。

「いや、竹原」

 西京は一度ペンの動きを止めました。

「実はさ、俺もそうなんだ」

「え……えっ!?」

「俺もそういうやり方で入学させてもらったんだ。テストの点数なんて関係ない、最初から入れると決まっていた裏入学ってやつ」

 ニコっと笑顔で曝けだした西京は再びノートへと数式を手慣れた様子で書いていきます。

 修斗はいまだ何も書けず、ペンは持ち主から離れてテーブルを転がっていきました。

 何事もなかったかのようにノートへ字を埋めていく西京。

「あ、あの」

 西京の睨む目つきが視界に入ると修斗は思わず体を縮めこんでしまいます。

「ごめん、この目は生まれつきだから。で、何?」

「勉強できるのになんで、裏入学したのかなって」

 その質問に息を吐いて一笑されました。

「最初からこんな高レベルの授業についていけるわけないじゃん。なんとか追いつけるよう必死になって勉強した結果だよ、全部」

 返す言葉もありません。

 授業で本を開けたふりはするものの真面目に取り組んだことがない修斗は白紙のノートを見下ろしました。

「だから竹原、お前も諦めずに頑張れよ。俺も一緒に手伝うからさ」

 優しい笑みを向けられた修斗は数秒ほど停止して西京を瞳に映し、ゆっくりと口元を上向きにさせて小さく頷きます。

 転がっていたペンを手に取り真っ白なノートに文字を走らせていきました。

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