最後のお願いでルードがキスしてくれました
継母に禍々しい呪いのこもったナイフで刺されて、ルードからもらったお守りがパリンと壊れる音がした。
ルード!
何故かその瞬間ルードの事が思い出された。
子供の頃、ルードが意地悪で私が怒って、
「悪いと思ったならほっぺにチュッしてくれないと許さない!」
私はほおを膨らませて言うと仕方なさそうに、ルードが私のほっぺにキスしてくれた。
そっか、私が昔そんなこと言っていたから、ルードはほっぺにキスしてくれたんだ。
私は納得した。
そして、継母たちを断罪して、私を助けてくれたルード。
馬車の中で資料を渡して私に読めって傲慢に言うルード。
私が最下位だと聞いて、慌てふためいて飛んでくるルード。
覚えていない私に懸命に勉強を教えてくれるルード。
別れ際に私のほっぺにキスしてくれるルードが走馬灯のように私の脳裏に浮かんでは消えた。
「痛い!」
胸の痛みが本当に激痛になった。
「ふんっ、いい気味よ。お義姉様のくせに私たちを悲惨な目に合わせてくれた天罰よ!」
義妹が何か叫んでいる。
元々私を虐待していたのは貴方たちじゃない!
私は叫びたかったが、胸が痛くて叫べなかった。
立っていられなくなって私はゆっくりと後ろに倒れる。
もう終わりだ。
そう思ったときだ。
ダンッ
と扉が大きく開け放たれて誰かが飛び込んできた。
「クラウ!」
そう叫ぶ声はルードだった。
ルードは倒れる間際の私を抱き留めてくれた。
良かった。
最後にルードに会えた。
私はルードに微笑みかけたつもりだ。
痛みで目も開けられなくて、ちゃんと微笑みかけられなかったのかもしれない。
顔がゆがんでいたかもしれない。
「きゃっ」
「何なのあなたたち」
「うるさい」
「直ちに拘束しろ」
横で大きな音がして悲鳴と叫ぶ声がする。
継母たちは捕まえられたみたいだ。
でも、今はもうどうでも良かった。
ルードの腕の中が温かい。
「クラウ!」
再度ルードの声がした。
私は目をゆっくりと開けた。
なんかかすんでいるけどルードの見目麗しい顔が見えた。
「ルード、助けに来てくれて、あ、ありがと」
私は声を絞り出したのだ。
なんか声もかすれていて、変な声だ。
最後の最後まで何か様になっていない!
最後はもっとちゃんとしたかったのに!
「すまん。遅くなって! 間に合わなかった」
「ううん、ここに来れて良かった」
私はルードに感謝していた。
ルードが来てくれていなかったらあのまま、家にいて虐待されたままだった。いずれ殺されていたと思う。
でも、ルードが来てくれて、私をあの虐待された環境から助け出してくれたのだ。
そして、私が夢にまで見た学園に連れてきてくれたのだ。
転生して再び学園生活を送れた。
尤もアデライド先生の補講とルードの補講の記憶しか無いけど……
いや、コンスとかヘレンとかポピーとか友達もできた。
そう、前世みたいにもう一度学園生活をちゃんと送れたのだ。
それにルードとまた会えて、一緒に勉強できて良かった。
皇宮でおいしい食事もできたし、私には雲の上の皇帝陛下にもお会いできた。
そして、今、私はルードの胸に抱かれているんだ。
それがうれしかった。
何か目がしょぼしょぼしてきた。
目を開けているのが辛い。
息も荒くなってきたし、これが死ぬっていう事となんだろうか?
「おい、クラウ、しっかりしろ!」
ルードが私を揺すってくれた。
だめ、なんか揺すらないで!
このまま眠りたいかも……でも、まだやってほしい事があった。
「ルード、お願い、も、一度、キスして」
私は精一杯、声を振り絞ってお願いした。
転生できて、こんな見目麗しい人と婚約できたのだ。
最後くらいもう一度、キスしてくれても良いだろう。
私はかすれてきた目でルードを見上げた。
ルードの青い瞳と目が合った。
とてもきれいな瞳だ。
その中に私が写っている。
私も前世に比べればとても美人だった。
さすが、悪役令嬢なだけはあるとどうでも良いことを考えた。
ルードの顔がすっと近くなる。
そして、暖かくて柔らかいものが私の唇に触れた。
えっ、ルードはほっぺじゃなくて唇にキスしてくれたんだ。
私はとてもうれしかった。
良かった、これで思い残すことはない。
ありがとうルード!
私はゆっくりと目を閉じたのだった。
ここまで読んでいただいてありがとうございました。
このお話もそろそろラストです。
すみません。次の更新は明日になると思います。
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