皇族の方々と食事した後に、部屋に案内してくれたルードにほおにキスされてしまいました
結局、そのまま、私は皇帝夫妻と皇太子夫妻、そして、ルードと一緒に食事までごちそうになってしまったのだ。
私としては絶対に遠慮したかったのに……
「まあ、明日は休みだから良かろう」
陛下がおっしゃって
「そうよ、クラウちゃん。皇宮の料理長は天下一の腕前なのよ。この前はアデライドがいて、ご飯の味が判らなかったんでしょ。今日は煩い礼儀作法の先生もいないから、目一杯味わえるわよ」
エルザ様が言ってくれたんだけど、私は雲の上の人ばかりで緊張して、味わって食べられるかどうか判らなかった。
「なんじゃ、相変わらずアデライドはいろいろ口うるさいのか?」
私に向かって陛下が聞いてこられるんだけど、そんなの口が裂けてもハイとは言えない。
「いえ、それほどでも」
「お義父様。そんなのクラウちゃんに聞いてもちゃんと答えられるわけ無いでしょう。毎日みっしりと教育されているみたいですよ」
エルザ様はばらさなくてもいいことをばらしてくれた。
「まあ、大変ね。私もアデライド先生のお母様にはしごかれたわ」
皇后様にそう教えて頂いて私は皇后様にとても親近感を持った。
「今年の魔物討伐訓練はとんでもない魔物が出たそうじゃな」
「はい。一つ目の巨人とゴブリンの大群に襲われました」
私が答えると
「そんなにか。よく無事じゃったな」
「コンスタンツェが退治してくれたんです」
「ああ、あのピザン公爵家の孫か。ルードがいつもコテンパンにやられていた女の子だろう」
「えっ、そうなんですか」
それは初耳だ。
「おじいさま。余計なことをクラウの前で言わないでください」
ルードがむっとして文句を言った。
「変ね。そんな怪物がでるなんて、普通は皇族がいる時は騎士団が必死に討伐した後にいくので、たいした獲物がいないはずなのに」
「そのピザンの孫が魔物が出ないので、もう少し先に行こうと言い出したのでは無いのか」
皇帝陛下は鋭い。
「いえ、私が水魔術をぶっ放したら、そこに一つ目の巨人がいただけで」
「なんと、エデルガルトの孫がやったのか。血は争えんの」
陛下がおっしゃった。
「おばあさまも何かしでかしたんですか?」
陛下におばあさまのことを話せる日が来るとは思ってもいなかった。
「エデルガルトとオイシュタットがこれでは全然訓練にならないから、もう少し先に行こうと言い出しての」
「何をおっしゃているのよ。あなたが言い出したんでしょう。それにオイシュタットさんとエデルガルト様が乗られたのよ」
「まあ、そうじゃったかの?」
「そうよ。おかげで帰ってくるのが2時間くらい遅れてアデライドのお母様に散々怒られて大変だったわ」
うんざりしたように皇后様がおっしゃられた。
我が祖父母も、陛下も楽しい学園生活を送っておられたらしい。
結局、緊張していた私も祖父母の話題と皇太子夫妻が教えてくれた母親の話題で結構話が盛り上がって、信じられないことに私はいつの間にかその話の輪の中に入っていた。
というか、祖父母と母親がこんなに皇族の方々と親しかったなんて知らなかった。
「クラウちゃん。せっかく来たんだから皇太子宮に寄っていきなさい」
「えっ、でもエルザ様。それはさすがに」
私は必死に遠慮しようとしたのだ。
「そうだよ。母上。クラウにも心の準備がいるだろう」
ルードも私を援護してくれた。
「何が心の準備よ。心の準備はがいるのはクラウちゃんじゃ無くてルードの方じゃないの?」
「な、何故俺に必要なんです」
「だってあなた、まだ、クラウちゃんに自分の気持ち打ち明けていないんでしょ」
何か二人で話しているけれど、ごそごそ言っていてよく聞こえなかった。
ルードの心の準備ってどんなことなんだろう?
「どのみち明日から2日間は学園も休みだから、滞在すればいいわ」
「でも、エルザ様。私、服も持ってきていませんし」
「何言っているのよ。この前公爵邸で作ったでしょ。一部はこちらに置いているからそのまま使えばいいわ」
私はそのままなし崩し的に皇太子宮に連れてこられたのだ。
「じゃあ、クラウちゃん。また明日ね。部屋にはルードに送らせるから」
エルザ様はそう言って皇太子殿下と去って行かれるんだけど、
「ルード、クラウちゃんに変なことしたらだめよ」
「するわけないでしょ」
エルザ様の声に怒ってルードが否定していたけど。
残された私たちの間に沈黙が支配した。
「はい」
ルードが手を差し出してきた。
「えっ」
私が思わず聞くと
「案内するから」
そう言われて私はルードに手を差し出した。
「申し訳ない。いきなりこんなことになって」
ルードが謝ってきた。
「本当に。なんでこうなっているのか未だによく判らないんだけど」
私がむっとして言うと
「俺としては徐々に話していくつもりだったんだが、なんか状況がどんどん切羽詰まってきたというか母親が暴走したというか」
ルードはまだ考えがまとまっていないみたいだ。
私の方が全然まとまっていないんだけど。
いきなり皇子の婚約者だって陛下から言われた身になってほしい。
部屋の前についた時だ。
「頭の中がまだ理解していないと思うけれど、ゆっくり理解してくれ」
「理解してくれって言われても」
私がむっとしてルードを見たが、
「そんなにおれと婚約していたのが嫌か」
なんかむっとしてルードが私を見てきた。
「いや、そういう意味じゃ無くて、あの、それもう決定事項なの?」
私が恐る恐る聞いてみた。
「ああ、両親と祖父母の中では8年前から決定事項だ」
「そんな」
私は絶句してしまった。
というかまだその件に全く納得していなかった。
「ご免、クラウ。とりあえず、少し考えてくれ。俺は絶対にクラウを守るから」
「判った。少し考えてみる」
私はとりあえず、そう言うしかなかった。
「そうか、ありがとう」
喜んでルードが言ってきたけど、考えるだけだからねと私はそう言おうとしたのだ。
でも、その前に、ルードがぎゅっと抱きしめてきて、ほっぺにキスしてきたのだ。
私は真っ赤になってそのまま固まってしまったのだ。
ここまで読んで頂いてありがとうございます
さらに混乱するクラウ。
続きは明日です。