大司教視点 属国の小娘のせいで学園に赴かざるを得なくなりました
「な、なんじゃと! 小娘にこの大司教である俺様からの招待を断られたと申すのか」
俺はロメウスから聞いた瞬間完全に切れてしまった。
属国の男爵家の小娘など、大司教である俺様が招待してやれば、たちどころに喜んでメス犬のように尻尾を振ってこちらに来ると思ったのだ。それがけんもほろろに断ってくれるとは……なんということだ!
俺様は怒りに震えた。
「はっ、力及ばず申し訳ありません」
ロメウスが平伏してくれるが、此奴に頭を下げさせたところでどうしようもない。
「おのれ、たかが属国の男爵家の小娘であろうが……それほどまでにこの教会を虚仮にするのか」
「なんでも、小娘はルード様に庇護されているようで、その権力を笠に着ているようです」
俺のつぶやきにロメウスは報告してきた。
「おのれ、ルードの小僧め、それほどまでに我ら教会に楯突くとは」
「先日、ランベールに指示して、狼に似せた使役魔で連絡を取ろうと致しましたが、失敗しました」
「それはその方に聞いておる。わざわざ連絡するのも手間なので、戦神様のお使いである白狼の使い魔に、行かせたのじゃ。普通は戦神からの使いの白狼が現れれば、平伏するのが普通じゃ。なすがままにされれば、我らよりの連絡を受け取れたはずが、小娘はお使いを見るなり、逃げ出そうとしたそうではないか! 使い魔が怒ると、それに対して防御の魔道具を使って攻撃するとは言語同断じゃ。
小娘はお使いに対して、そのようなことをして、天罰が怖くないのか?
仕方なしにその方を使いに出せば断るとは。小娘はあくまでも教会に逆らうというのか」
「田舎者の小娘は大司教様のお力を存じ上げないのではございますまいか? 属国で教会がどのように扱われているかも、判りませんし」
俺はロメウスの言葉に驚いた。
辺境の地の布教活動が出来ていないのかもしれない。
「なるほどの。カッセルの地は確かに、辺境の地じゃ。我が教会の力がよくいき届いておらぬのかも知れぬ。直ちにカッセルの地に連絡を入れよ。そして、当地の最高責任者より小娘に連絡させて、直ちに俺の前に挨拶に来るようにさせるのじゃ。もし、それでも小娘が挨拶に来なければ、当地の最高責任者を変更する。現地の司教にそのように伝えよ」
俺はロメウスに命じたのだ。
「はっ、直ちに連絡させます。大司教様からのそのような命令を受ければ必ず現地の者達も動きましょう」
ロメウスは俺に頭を下げて、出ていった。
そこまで言えば、現地の司教も必死に動くであろう。俺様は楽観していたのだ。
まさか、それが小娘から断られるとは思ってもいなかった。
「なんじゃと、カッセルの司教は失敗しましたと申すか!」
「はっ、そのようでございます」
俺はロメウスの報告が信じられなかった。
「その又聞きのような報告はどういうことだ?」
俺様が聞き咎めると、
「それが皇宮より司教が至急の連絡をしてまいりまして、皇太子殿下がとても御不興を持っていらっしゃるそうです?」
俺にはロメウスの言葉の意味が判らなかった。
「現地の司教に指示したことに、なぜ、皇太子が文句をつけてくるのじゃ?」
「何でも、教会が、学園の生徒を脅すとはどういうことだと偉くお怒りのご様子で」
「その方、脅すようなことをするように司教に示唆したのか?」
「まさか、滅相もございません。私は大司教様の仰るように伝えただけでございます。ただ、うまく行かねば更迭すると言ったところで、現地の司教が過剰に反応した可能性もございます」
ロメウスの言葉に俺は頭が痛くなった。
「その結果、小娘が驚愕して学園の誰かが皇太子に伝えたということか」
「おそらくルード様あたりが報告されたかと」
「そうじゃな。しかし、本当に使えない司教じゃの」
俺はため息をついた。これだから辺境の奴らは無能なのだ。
「やむを得ん。俺。自らが学園に出向こう」
俺は仕方なしにそう決断した。
「大司教様自らが赴かれますので?」
「仕方があるまい。ここまで揉めておるのじゃ。学園長に連絡を入れて、面会の準備を」
俺はロメウスに指示した。学園長に会った時に小娘を呼び出せば良かろう。まさか、学園長の言葉に逆らったりはすまい。
俺は憂鬱だったが学園に赴くことにしたのだ。
教会としてはルードの小僧と聖女を婚姻させたいのが本音だ。
聖女の小娘もそうなるはずだと太鼓判を押しているのだ。悪役令嬢とかいう辺境の小娘が邪魔しているだけだと。
ならばその小娘に手を引かせればよいだろう。
その小娘が、俺になびけば問題はない。
愛人にしてやっても良かろう。
しかし、あくまでも俺の作戦に逆らうというのならば、こちらも考えがある。
処分も考えねばなるまい。
まあ、いざという時は魔物たちのエサにしても良かろう。
泣き叫ぶ小娘がいくら慈悲を願ったところで遅いのだ。
俺はそうなった時の慌てふためくルードの小僧の様子を楽しみに、学園に赴くことにしたのだ